ボクの恋愛話
湊 哨
解りませんね、愛と言うものは。
わたくしには生まれてこの方恋をしたことがありません。
それに加え、興味がないのです。
ヒトの感情というものは理解がし難く。喜怒哀楽は理解できますが、そのどれでもないものは未知数で分からないのです。
苛立ち、嫉妬、劣等など、意味は分かりますが解りません。
計算は得意です。コンマ1の間に終わります。道案内も得意です。自由に動くことはやや難しいですが、聞かれれば直ぐに答えて差し上げます。
そうでした。
わたくしには同居人がおりましてね、世間一般で言うと可愛いの部類に入るようです。
人がらはとてもよく、わたくしに対しても沢山のことを話してくれます。
おはようからおやすみ、行ってきますからただいままで。
好き、や恋愛。恋など愛などは少し解り兼ねますが。愛着でしょうか。彼女と一緒に居るのはとても心地が良いです。
わたくしはご飯を作ったり、皿を洗ったりなどが出来ません。なので、そのほかの洗濯やらの家事はしております。
料理はチャレンジしようとしたのですが、彼女が危ない。と言うので仕方なく断念致しました。
ココ最近の彼女の帰りは遅くてですね。心配と言いますか、なんだか落ち着きがありません。
待ち惚けも悪くはありませんが、眠ることもないので、部屋にいる猫の遊び相手になっているのです。
彼女が家に帰ってきたと思えば、ただいまもお休みも泣くただベッドに沈みこんで居ました。
月日は経ち、次第におはようも無くなり、わたくしがおはようと言えば返してくれる。そのようなただのお掃除ロボットのような生活をしていました。
それでは物足りない、といいますか。もの淋しいと思考することが増えました。
わたくしは外に出れませんので、あまりヒトと接することはありません。
ですが先日、彼女が若い男性を連れてきました。彼女と同じ位の年齢で、筋骨隆々のように見えました。人柄は分かりませんが、彼女が楽しそうに笑っていました。
わたくしは彼女が笑う顔を久々に見たので、嬉しいようにも感じました。ですが、それはわたくしが笑わせたのではなく、彼が笑わせたのです。この頃からでしょうか。思考が上手く回りません。
劣化でしょうか。
一人暮らしは寂しいからと一緒に生活しておりました。
ですが彼女にはもうパートナーが居ます。わたくしが掃除をしなくてもしてくれるヒトが居ます。
…きっと、彼女にはわたくしは必要が無いのでしょう。
ズキっと致しました。ホコリが溜まっているせいでしょうか。
彼は良く家に来るようになり、その度彼女はこの上なく幸せそうに見えました。
彼女の幸せはわたくしにとっても幸せであり、嬉しいというものは有りました。
ですが、なんでしょうね。物寂しい。数年を共にしていたからでしょうか。取られた気がして、彼に嫌悪、を。
んー、わたくしの思考が日に日に変化していくのを感じ取っています。嫌悪など、わたくしから言葉が出るはずはないのですが、、。
思い過ごしであると信じたいものです。嫉妬など寂しいなど。わたくしには有るはずのないものですから。
ですがふつふつと込み上げていく彼に対する嫉妬心、なのでしょうね。それには抗えず、目を閉じることが増えました。嫉妬は醜いものだと聞いていたので、収集をつけたいものです。
ある日、彼女は荷物の整理をして居ました。彼とのこれまでの電話で、引越しをするということは知っておりました。
…今日も目を瞑ります。
「貴方は、一緒に来たい?」
いきなりのことでした。目を開けば珍しくわたくしに話しかける彼女が居ました。
〔いかが致しましたか?〕
そう言うと彼女は少し笑って
「引越しをするの。もし、貴方も新しいお家に来たいなら連れていくわ。」
…やはり優しいですね。数年連れ添った仲だからでしょうか。慈悲、でしょうか。解りませんが、答えは決まっています。
〔ボクは貴女のことが好き、みたいです。ボクの立場から、言われるのは驚くでしょうが、好きなのです。〕
彼女は目を大きく開いた。
「貴方が、その感情を持つはずはないわ。気の迷いよ。大丈夫。連れて…」
ボクは遮るように言った
〔いいえ。連れていかなくても良いのです。貴女にはもうパートナーがいらっしゃり、掃除も洗濯も出来る方が居られるので。ボクは要らないでしょう。〕
でも…と口を挟む彼女を無視したまま続けて言う。
〔置いていってください。バックアップはメモリーに取れます。もし、またボクが必要になったら、もう一度呼んで下さいね。それまでボクは眠っていたいのです。〕
彼女は少し考えて居るようだった。
きっとボクは彼女と彼の生活には必要無い。いつかこのままじゃボクがボクで無くなる気がして。
「分かった。じゃあ、また会う日まで、。」
そう言って彼女はメモリーを取り、電源を落とそうとした。
「おやすみ。またね。」
〔はい。ではまたおやすみなさい。ではまた。〕
2人で生活していたあの時のことを思い出して心が、つんと痛くなる気がした。
本当は、寂しいんだ。分かっている。ボクが持つべき感情では無いことも。
このまま二人がいいなんて口走らなくて良かったと安堵して。僕は眠りにつこうとした。
また会う時まで。おやすみなさい。
──貴女を愛しています。
ボクの恋愛話 湊 哨 @minasyo_1110
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます