第4話

フィレンツェの朝日が差し込む中、香織と涼介は再びルイジ・ベネデッティの邸宅を訪れていた。前日の調査で得た手掛かりをもとに、さらに深く掘り下げる必要があると感じていた。


「今日は書斎をもっと詳しく調べてみよう。何か見落としているかもしれないわ。」香織は決意を新たにしながら言った。


「そうだね。昨日の手紙には重要なヒントがあるはずだ。」涼介は同意し、書斎の隅々まで目を光らせた。


書斎には古い書類や書籍が山積みになっており、その中に隠された手掛かりがあると確信していた。香織は本棚の一番上に手を伸ばし、古びた革表紙のノートを取り出した。


「これを見て、涼介。このノートには何か特別なことが書かれているかもしれない。」香織はノートを広げ、その中身を確認した。


ノートには、ダ・ヴィンチに関するメモやスケッチがびっしりと書き込まれていた。その中に、特に目を引くページがあった。そこには、文字が逆さまに書かれているように見える部分があった。


「これ、何かおかしいわ。普通の文字じゃないみたい。」香織は眉をひそめながら言った。


涼介はそのページを覗き込み、「これは鏡像文字だ。ダ・ヴィンチがよく使った手法だよ。鏡に映して読めるように書かれているんだ。」


香織は部屋の中を見渡し、小さな手鏡を見つけて取り出した。鏡に文字を映し出すと、逆さまに書かれた文字がはっきりと読めるようになった。


「読めるわ。『古き塔の影に秘められし真実を求めよ』って書いてある。」香織は驚きながら読み上げた。


「古き塔の影…これはフィレンツェのどこかにある古い塔を示しているに違いない。」涼介は興奮を隠せずに言った。


しかし、その解読をさらに進めるために、二人はウフィツィ美術館の学芸員であるアレッサンドロに協力を求めることにした。彼はダ・ヴィンチの絵画に詳しく、その知識と経験があれば暗号を完全に解読できるかもしれないと考えたからだ。


アレッサンドロに連絡を取ると、彼は快く協力を申し出た。ウフィツィ美術館の静かな一室で、香織と涼介は彼と合流した。


「こんにちは、アレッサンドロさん。お忙しいところありがとうございます。」香織は丁寧に挨拶した。


「こちらこそ、お役に立てるなら光栄です。ダ・ヴィンチの絵画と暗号についてお話を伺いましたが、非常に興味深いですね。」アレッサンドロは微笑みながら答えた。


香織と涼介は、ルイジの書斎で見つけたノートと鏡像文字のメモをアレッサンドロに見せた。アレッサンドロはそれを慎重に調べ始めた。


「この文字は確かにダ・ヴィンチが使った手法です。彼はしばしば鏡像文字を用いて、メッセージを隠していました。」アレッサンドロはメモを鏡に映しながら言った。


「そうなんです。このメッセージが指す場所を解明したいんです。」涼介は真剣な表情で答えた。


「『古き塔の影に秘められし真実を求めよ』ということは、フィレンツェの歴史的な塔が関係しているのでしょう。ヴェッキオ宮殿の塔が特に有名ですが、他にもいくつか候補があります。」アレッサンドロは考え込んだ。


「ヴェッキオ宮殿の塔は、フィレンツェのシンボルの一つです。まずはそこから調べてみましょう。」香織は提案した。


「その通りです。ヴェッキオ宮殿の塔が最も有力です。私は塔の歴史や構造についての資料を提供しますので、現地調査を行いましょう。」アレッサンドロは資料を用意し始めた。


「ありがとうございます、アレッサンドロさん。これで一歩前進ですね。」涼介は感謝の意を表した。


「私も協力できて嬉しいです。何か分かったことがあれば、いつでも連絡してください。」アレッサンドロは微笑みながら、二人を見送った。


香織と涼介は、アレッサンドロから提供された資料を手に、ヴェッキオ宮殿へと向かった。塔の周囲を調査しながら、彼らは影が落ちる場所に注意を払った。


「ここだわ。塔の影がこの場所に落ちる時間帯に、何かが隠されているはず。」香織は塔の影を指し示しながら言った。


涼介はその場所を詳しく調べ始めた。地面に目を凝らし、隠された痕跡を探し求めた。しばらくして、涼介は地面に埋もれていた小さな金属の箱を発見した。


「見つけたぞ、香織!」涼介は興奮しながら箱を取り出した。


箱を開けると、中には古い文書が入っていた。それはルイジが遺した重要な文書であり、彼の遺産に関する情報が詳細に記されていた。


「これがルイジの遺産に関する手掛かりだわ。アリアがこれを求めていたに違いない。」香織は文書を読みながら言った。


「そうだね。この文書があれば、アリアの犯行動機を解明できるはずだ。」涼介も同意し、文書を大切に持ち帰ることにした。


フィレンツェの夕日が沈む中、香織と涼介は事件の核心に迫りつつあった。アリアの美しさと知性に惑わされながらも、二人は真実を追求するための新たな手掛かりを手に入れた。


「次はアリアとの対決だわ。彼女がこの文書をどう使おうとしていたのか、真実を暴きましょう。」香織は決意を新たにした。


「そうだね。アリアが何を企んでいるのか、全て明らかにしよう。」涼介も強い意志を持って答えた。


こうして、香織と涼介はフィレンツェの美しい夜景を背に、新たな挑戦に向けて歩みを進めた。古き塔の影に秘められた真実が、二人の探偵をさらなる冒険へと導いていくのだった。

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