十字路

雨宮吾子

十字路

 空を行く名も知らぬ鳥の軌跡を追いながら、少年は凧揚げに夢中になっていた。公園に設けられた広場には人影はなく、従って彼の両親の姿もない。独り、駆け回る彼を掣肘するものは何もない。

 しばらく後、ようやく飲み慣れてきたスポーツ飲料が彼の渇きを満たす。短く仕切られたベンチに座って、地に足のついていることを呪いながら、白く荒々しい呼気が生命の証となる。それらを捨てようとは思わないが、彼方に旅立ちたいという欲動もある。日が暮れる前に自転車に乗って家路に就く。いつかはきっと、と思い描きながら坂を下っていく。風切音が大きくなればなるほど、遠くに行けるような気がする。丁字路を十字路に変えることは、しかしできない。

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十字路 雨宮吾子 @Ako-Amamiya

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