7月7日

第1話



 「…う、うーん」



 部屋のカーテンから差し込む光のそばで、寝返りを打つ彼の背中が、くしゃくしゃのシーツを引っ張っていく。


 ミントの香り。


 洗い立ての服の匂いが、鼻の先に掠める。


 部屋の壁に掛けられたカレンダーを見ると、「7月7日」とあった。



 そうか。


 今日はもうそんな日か。


 世の中じゃ、「七夕」っていう行事に当たる日だ。


 織姫と彦星の物語。


 その話を詳しく知ってるわけじゃないけど、確か、年に一回、好きな人のところに会いに行けるって話だよね?


 天の川には天の神様が住んでいて、天の神様には、ひとり娘がいる。


 その娘の名前が織姫といって、神様たちの着物を作る仕事をしていた。



 …とまあ、なんとなくは知ってる。


 その後、どうして彦星を探しに行くようになったのかは、いまいち覚えていないけれど。



 「ねえ、起きてる?」



 もう起きなきゃいけない時間だ。


 今日は平日だって知ってんのかな?


 彼は私の声に応じるように、声にならない声を挙げた。


 ヴーと、犬の唸り声のような低い声を出しながら、ボサボサの髪を枕に押し付ける。

 

 彼の悪い癖だ。


 目覚ましのアラームなんてほとんど意味ないし、二度寝なんて当たり前。


 朝は大体こんな感じで、最近は寝巻きだって脱ぎっぱなし。


 私も人のこと言えないんだけどね?


 まあ、でも、彼と違って起きる時間にはちゃんと起きるし、朝の支度だってする。


 それに比べて彼は、だらしないというか、しまりがないというか…

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