キトリニタス百貨店 SS

おさでん

4月1日と煙草

ねぇマデラ、煙草って美味しい物なの?」

ゴツゴツと靴を鳴らして、タバコの匂いを纏って帰ってきたマデラに、作業机の椅子を揺らして遊ぶセリアーヌが話しかける。

「美味しいとは思った事は無い。暇潰しという言葉が合うな。」

「ふーん。まぁ、美味しい物ならもっと色んな人が吸うわよね。」

作業机は、セリアーヌが調査の為に広げた店の仕入れ書で盛大に散らかっていた。う"ーん。と唸りながらチョコレートを頬張っている。

「吸ってみるか?」

そう言って懐から差し出したのは、葉巻の部分が黒いデザインの煙草。

「あら、普通の煙草とはデザインが違うのね…持つ部分が黒いわ。」

興味津々に受け取り、まじまじと見回してどんな匂いかしらと煙草を近づけ香りを吸い込む。


「ん…?この煙草、チョコレートの様な匂いがするわ!煙草ってあまりいい匂いの物とは思っていなかったけれど…」

「この銘柄はそういう物だ。吸った後の後味もとても甘くなっている。咥えるだけ咥えてみると良い。それだけでも味がする。」

そう聞いたセリアーヌは、ドキドキしながら煙草を咥えてみる。すると口の中に独特の甘さと煙草特有の苦さが広がり、セリアーヌは顔を歪める。

「ん…甘い味はするけど、やっぱり美味しくないわ。私には合わないみたい。」

しばらく咥えながらもごもごと味を確かめているセリアーヌを見て、マデラがくつくつと笑みを浮かべている。

「まだまだ箱入りお嬢様には早かった様だ。之の美味しさなど、知らなくても生きて行ける。」

ふーん、と話を聞いていると出先から戻ってきたペイロが驚いた表情で固まっていた。

「セリアーヌ様…お煙草嗜まれてたんですか。」

意外だ…と呟きながらセリアーヌが口に咥えていた煙草をまじまじと見つめている。

「いや、これは………ええ。貴方には言っていなかったわね。そうよ、時々吸う程度なのだけれど。」

何かを思いついたセリアーヌは、煙草をペイロの目の前でぷらぷら揺らしながら自慢げに話す。

「………センセイ、箱入りお姫様への教育内容はキチンと1から100までお伝えしなければ!」

そう言ってペイロはセリアーヌが持つ煙草を奪う。

「セリアーヌ様!もしかして御存知無いですか…?煙草にはまだ解明されていない未知なる病気を発症させるリスクがあるんですよ…!?」

「み、未知なる病気…!?体に悪いとは聞いていたけれど、そんなリスクがあったの…!?」

大ショックを受け飛び跳ねたセリアーヌは、マデラの服の裾を思い切り掴む。

「マデラも今すぐ煙草はやめなさい!吸わなくても生きていけるのでしょう!?」

ぐらぐらとセリアーヌに揺らされているマデラは、去りゆくペイロを見てにやりと口角を上げた

「冗談が通じないな。」


カチン、シュッ…

「ふぅ…」

先程セリアーヌから奪った煙草に火をつけ、煙を口の中で転がし吐き出す。甘ったるい風味が口いっぱいに広がるのを感じながら、吸口に着いたセリアーヌの口紅を眺める。

「この味は、好まないだろ。」

くつくつと笑い、肺いっぱいにもう一度煙を吸い込んで吸殻入れに捨てた。

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