326.施策実行(4)
翌朝、宿屋に着くと難民たちは食堂でくつろいでいた。どうやら、ここで待っていてくれたみたいだ。
「おはようございます。昨日は掃除、お疲れさまでした。綺麗な場所で寝泊りできて、きっとぐっすり眠れたことでしょう。今後もこの宿屋を綺麗に維持していただきたいと思います」
そのためには、当番制にした掃除を頑張ってもらいたいところだ。
「では、今日は事前に話していた午前中は服の購入、午後は冒険者ギルドで説明と登録を行いたいと思います。これから、服が売ってある場所に移動しますので、着いてきてください」
そういうと難民たちは立ち上がり、私の傍に集まった。私はその難民たちを引きつれて宿屋を出て、目的地であるお店へと向かっていく。その途中、コーバスの案内もしてみた。
どういう地区に別れていて、今は何地区だとか。大きな通りに入ると、通りの説明をしたりどんな店が並んでいるかも説明した。その説明を聞いた難民たちは目を輝かせて町の中を見回った。
ちょっとした観光ツアーみたいになってしまったが、目的地の場所に辿り着いた。そのお店の扉を開けると、従業員さんたちが待ち構えていた。
「やあ、リル。久しぶり、待っていたよ」
「久しぶりね、リルちゃん」
「ご無沙汰してます。今日はよろしくお願いします」
久しぶりに会う従業員さんに挨拶をすると、外にいた難民たちを中へと誘導する。
「ご希望の服は二階にありますので、二階に移動してください」
従業員さんが誘導をすると、その後を難民たちが追っていく。私もそれに着き従って二階へと上がっていった。二階に上がると、様々な服がハンガーラックに掛かっており、その量の多さに難民たちが驚いていた。
「では、一人に二着まで選んでください。選び終えたら、近くにいる従業員に商品を見せてくださいね」
声をかけると、難民たちはちょっと戸惑いながらも服を選び始めた。町の服屋に入ったことのない人が沢山いるみたいで、最初は戸惑ってしまったようだ。私もそんな時あったなー。
「ねぇねぇ、リルちゃん」
「はい、なんですか?」
「どんなことをして領主様に依頼されるようになったの? あのリルちゃんが、まさか領主様の依頼を受けるほどになるなんて思いもしなかったから驚いちゃった」
「あー、色々なクエストをこなしていたら、私の名前が領主様に上がったようです。それで、今回の依頼に繋がったんだと思います」
暇をしていた従業員が話しかけてきた。私が話すとその人はとても驚いたように口に手を当てた。
「そうだったんだ。リルちゃんってどんな仕事をしてきたの?」
「えっと、色々ありすぎて自分でも覚えきれていないです」
「そんなに!? はー、リルちゃんはやっぱり凄いわ。色んな仕事をそつなつこなすし、さっきだって物怖じしないで指示を出していたし。リルちゃんってカッコいいね」
私がカッコいい? そんな風には思えないんだけど、他人から見たらそう映るのかな? まぁ、でも……褒められて悪い気はしないよね。
しばらく従業員さんとの会話を楽しみながら難民たちを見守っていた。
◇
時間は掛かったが、無事に全員の服を選ぶことが終わった。かなりの量になってしまったので、お店の中にあった服は半分も売れてしまう。だけど、そのお陰で割り引いて買うことができた。
お得に大量の服を買った後は宿屋に戻り、体を綺麗にしてもらって新しい服に袖を通してもらう。お昼からは冒険者ギルドに行くので、できるだけ身ぎれいにしておきたかったからだ。
真新しい服を着た難民たちはみんな嬉しそうにしていた。あの難民の村に着いてから、ろくに着替えもなかった人が大勢いたから、新しい服は嬉しいのだろう。
昼食の時は気分が上昇していることもあって、とても賑やかな時間を過ごすことができた。その昼食の時間が終わると、今日のメイン……冒険者ギルドに訪問だ。
「それでは、これから冒険者ギルドに向かいます。この道はこれから通う道になると思うので、しっかりと覚えておいてください」
難民たちを引きつれて宿屋を後にして冒険者ギルドへと向かった。途中、この道を覚えるためのきっかけになってほしいと思い、目印になるものを説明していった。そうやって説明すること数十分、冒険者ギルドに到着した。
扉を開けて中に入ると、昼間の時間でかなり空いていた。その中に三十人以上の人が詰めかけると、カウンターの中から職員の人が出てくる。
「あ、リルちゃんじゃない。もしかして、約束のアレかしら?」
「はい、お約束したアレです」
「待っていたわ。では、これから説明する部屋に移動しますので、私の後ろに着いてきてください」
顔なじみの職員さんでホッとしていると、すぐに難民たちの移動が始まった。職員さんは二階に続く階段を上り、廊下を進んで、ある部屋の前で立ち止まる。そして、中を開けるとそこにはイスが並べられた部屋になっていた。
「空いている席に座って待っていてください。これから、説明係が参ります」
職員さんの言葉を受け取った難民たちはぞろぞろと空いたイスに座り、説明が始まるのを待った。その間に職員さんはこの場を離れて、説明係の人たちを呼びに行く。
ざわついた室内で待っていると、説明係の職員さんがやってきた。その中にアーシアさんの姿があり、難民たちの前に並べられた机とイスに立った。
「みなさん、はじめまして。本日、冒険者ギルドの説明をさせていただきます、アーシアと申します。みなさんのことは事前にリル様からお話を伺わせていただきました。みなさんが自立できるよう、職員一同頑張って参ります」
アーシアさんが先頭に立って冒険者ギルドについての説明が始まる。私は部屋の隅に立ち、その光景を黙って見守ることになった。
◇
冒険者ギルドについて説明が終わると今度は一人ずつステータスを確認して、実際に登録が始まった。登録はスムーズに進み、それぞれ冒険者カードが配られる。
「では、以上で説明を終わります。これから一階にありますクエストボードのところで仕事を探してもらうことになります。もし、気になる仕事がありましたら、窓口までお越しください。説明をお聞きいただき、ありがとうございました」
説明が全て終わると、部屋から拍手が起こった。その反応にアーシアさんは微笑みを返し、他の職員さんたちと部屋を出ていた。よし、私の出番かな。
「みなさん、お疲れさまでした。では、実際にクエストボードに行ってクエストを見てみましょう。今日中に受けたいクエストを見つけなくても大丈夫ですので、無理に受けないでくださいね」
私が軽く説明すると、部屋を出ていく。それに難民たちは従ってついてくる。一階に下りて、クエストボードの前に集まるとそこでまた説明する。
「クエストは朝に貼りだされます。今は朝の残りのクエストしかありませんので、数が少ないです。もし、この中に希望をするクエストがあれば窓口に持っていってくださいね」
そういうと、難民たちはクエストボードを見てクエストを確認していく。その光景を見守っていると、ミウが近づいてきた。
「ねぇ、私は冒険者になりたいの。ここのクエストを受けても冒険者になれないわ」
「あぁ、そうでしたね。でも冒険者になるためには、武器や防具を買わなくてはいけません。だから、初めはそのお金を貯めないといけませんよ」
「そうか、お金がないと冒険者になれないのね。じゃあ、お金を貯めて武器や防具を買ったら冒険者になれる?」
「もちろん、なれますよ。私も冒険者なので、簡単に指導もできると思います」
「あなたも冒険者だったの。そうか……なら私に戦い方を教えて。魔物を倒せるくらいに強くなりたい」
「分かりました、いいですよ。必要な知識もありますから、それはその時に教えますね」
「じゃあ、私もクエストを見てくるわ」
ほとんどの人は求職者だけど、冒険者志望の子もいたんだった。そっちの方の指導もしないとな……私にできることはまだ残っているみたいだ。
しばらくは難民たちの様子を見て、順調にいっているか確認しないといけないね。というかここからが重要だ、難民たちを放置はせずにしっかりと対応していこう。
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