222.井戸掘り(3)
早速石を壁に埋め込んでいく。石は自分の顔くらいの大きさで長方形の形をしていて、石切りの仕事をしていた頃に見たことのある形をしていた。なるほど、こういうところにもあそこの石が使われるんだね。
低いところから土の壁に石をくっ付ける、そして平面を木槌で打つ。すると、だんだんと石が壁に埋まっていき、三分の二が埋まったところで木槌を止めた。
うん、こんなくらいでいいかな。私は次々と石を土の壁に埋め込んでいった。身体強化を腕にだけつけて作業を行うと、各段に作業スピードが上がる。ほんの三回叩いただけで、石は土の壁に埋め込まれた。
一分以内に一つの石を埋め込むというスピードでこなしていくと、あっという間に自分の手の届く場所の石を埋め込み終えてしまった。
「おじさん、手が届くところは全部埋めました」
「なんだって、早いな。よし、釣り上げるからちょっと待ってろ」
しばらく待っていると、背中から持ち上がる感触がした。すると、足元が浮かび宙づりにされる。そのまま少し上昇すると、石が埋まっていない高さまで上がった。
次に石が入ったバケツが下ろされる。ちょうど私が宙づりにされているところにバケツが下ろされた。
「高さはどうだ?」
「丁度いいです」
「なら、高さを変えたかったらまた言ってくれ」
「分かりました」
宙づりのまま作業が再開された。バケツから石を取ると、土の壁に当てて木槌で打つ。宙づりにされているから、ちょっと作業がやり辛い。ブラブラと揺れながら石を叩き続けた。
どんどん作業を続けていく。何度もバケツが上下して石を運び、手の届く範囲の作業が終わったら高さを調節される。その繰り返しを集中しながら続けていった。
始めは全然高くなかった私の位置も作業が進むと、どんどん上がっていく。気がつくと半分の高さになっていて、その作業の速さにおじさんはとても驚いていた。というか、心配された。
「おいおい、無理してねぇか? 疲れたんなら休んでもいいんだぞ」
「全然大丈夫です。魔物討伐に比べたら気が楽ですし、思ったよりも疲れません」
「はー……外の冒険者っていうのはタフなんだな。でも、無理はするなよ」
「はい、ありがとうございます」
疲れるといえば疲れるけれど、魔物討伐のほうが疲れるからこっちのほうが楽だ。昔だったら、すぐにへばっていたんだろうけれど、かなり体力がついたほうじゃないんだろうか。
力もついて、体力もついて、できる仕事が増えたのが良かったね。仕事の幅も広がるから、能力が足りなくて仕事を取り零すこともなくなる。なんだかいい調子でランクアップのポイントを稼げるようになったんじゃないかな。
機嫌が良いと仕事も捗る。土の壁を石の壁に変えて、どんどん上がっていく。その作業の速さにはおじさんもついていくので精一杯らしい。上に近づくとおじさんの嬉しい悲鳴が聞こえてくる。
「いやー、リルは仕事が早いな。おかげでこっちも休みなく働かされているよ」
「あ、疲れているんなら休みましょうか?」
「いや、リルのほうが大変な仕事をしてるんだ、こんなところでへばれないよ。さぁ、どんどん作業を進めてくれ」
私が頑張っているからおじさんも頑張ってくれるのかな。そういうことなら、仕事をどんどん進めていこう。
◇
「上まで終わりましたね」
「お疲れさん。最後の底の仕上げは俺がやるから、リルは上でサポートをしてくれ。まず、水を出すためにもう少し底を掘り返す。掘り返した後は残りのところに石をはめ込めば終わりだ」
「分かりました」
装着具を外すとおじさんはそれを受け取ってマジックバッグに入れた。そして、おじさんはスコップをもって底へと下りていった。早速スコップの音が聞こえて、私は滑車に繋がれた紐をもって待機した。
しばらくすると、紐が引っ張られる感触がして急いでバケツを引き上げた。引き上げたバケツには大量の土が入っていて、それを穴の外れのほうに放り投げておく。
その作業を繰り返していくと、土は泥のように変わっていった。その泥を何度も放り投げていくと、おじさんから声がかかる。
「リル、そこの辺に置いておいた石をバケツで下ろしてくれ」
次は石だ。穴の近くに積まれていた石をバケツの中に入れると、慎重に下ろしていく。
「あと、二回くらい下ろしてくれ」
後二回か、私は上がってきたバケツの中に石を入れ、再度下ろしていく。それをもう一度繰り返すと、作業は終わりだ。
「よし、もういいぞ。終わるまで、土や石をマジックバッグに入れておいてくれ」
よし、次の仕事だ。おじさんが作業をしている間に、周辺の整理を始めていく。マジックバッグを持つと積まれていた石を次々に入れていく。石が入れ終わると、次に土をスコップで入れ始める。
石は分かるけど、土はどうするんだろう。どこかに捨てる場所とかあるのかな、それとも何かに利用するのかな。土を捨てるっていったら、やっぱり町の外に捨てに行くことになるんだろうな。
なんてことを考えながらやっていると作業が終わってしまった。仕方がなく、私は穴の傍で座りながらおじさんの作業が終わるのを待つ。
辺りは夕暮れが迫っていて、そろそろ仕事が終わる時間だ。暗くなる前までに終わるといいな、そんなことを考えているとおじさんが穴から上がってきた。
「あ、終わったんですか?」
「あぁ、作業完了だ」
「井戸の囲いとか作らなくていいんですか?」
「それはまた別日に作ろうと思う。折角、穴を掘る人材がいるんだ、先にそちらの方を終わらせておきたいからな」
井戸の囲いは別件か、私がいるから穴掘り優先なんだね。そのほうが無駄がなくていいかもしれない。
おじさんが穴周辺に設置した機材をマジックバッグに収納すると、今度は木の板を取り出してそれを穴の上に置いた。
「よし、これで落ちる心配はないな。まさか一日で井戸の作業が終わるとは思わなかった、リルのお陰だな、ありがとう」
「役に立てて良かったです」
「しばらくはこの仕事を続けていくんだろ?」
「はい、きりがいいところまでお仕事できたらなって思ってます」
「なんなら、しばらく付き合え。穴を掘ってくれる人がいるんなら、先に穴を掘っておきたい」
「いいですよ、しばらくお願いしますね」
「こちらこそ、よろしく頼むよ」
こうして、私はしばらく井戸掘りのお仕事をすることになった。
◇
私が穴掘りを始めて、なぜか掘る穴全てから水が出てきた。二日目の時は運がいいな、だけで終わったが三日目からになるとおじさんは信じられないといった顔で私を見ていた。
もしかしたら、私の幸運が水を招いてしまったのかも? いやいや、きっとおじさんの調査が良かったからに違いない。そう言ったが、おじさんはあまり信じてくれなかった。
まるで私の力のお陰かと思っているのか、物凄い圧で感謝された。そして、おじさんに調査済みのところが終わるまで仕事を続けて欲しいとお願いされた。
特に急ぐ仕事もなかったし、私は承諾した。そして、そのまま井戸掘りを続けていくと九割の確率で穴を掘ったところから水が出てくる。九割、凄い確率だな。
調査済みのところが全て終わるまで、私は井戸掘りを続けた。かなりの期間かかったけど、調査済みのところまで井戸を掘り終えた。
「いやー、助かったよ。沢山の井戸が掘れたことで、町の開発も進むだろう。本当にありがとう、報酬は少し色をつけさせてもらったからな」
最後に両手で握手をされて感謝された。井戸の囲いを作る手伝いは必要ないか、と聞いたらそれはおじさんの仕事だから手伝わなくてもいいらしい。
これで町の開発も進むことになったよね。間接的にだけど、領主様のためになったかな? そうだったらいいな。
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