192.大農家のお手伝い(6)

 今日はお手伝いの最終日。昨日はゴブリンの捜索と討伐で一日のほとんどを使ってしまった。ということは、お兄さんたちだけで農作業を頑張ったことになる。


「うぅ、体が重い、痛い」

「まだ仕事があるのかよー、もう帰りたい」

「なんでリルちゃんはそんなに元気なの? ゴブリンと戦ったんだよね」


 朝食を食べ終えたお兄さんたちはそんなことを言った。本当にだるそうにしていて、昨日の疲れが抜けきっていないみたいだ。


「ゴブリンと戦うのは楽だったので、大丈夫です」

「数が結構いたって聞いたぞ。でもこうして無事に帰ってこれたんだから、リルは強いのか?」

「一般人よりは強い、感じですかね。私も今の強さがどれくらいなのか分からなくて、測れませんね」

「倒しただけで終わったんだね」

「いえ、もしかしたらゴブリンの集落があるかもしれないので、改めて冒険者ギルドに冒険者を派遣してもらうようです」

「確かに、集落があったらリルだけじゃ対応できないもんな」


 後のことは他の冒険者に任せよう。私は今はお手伝いに来ているんだから、こっちに集中したほうがいいよね。


 食事が終わってダラダラしていると、家から出てきたおじさんが声を上げた。


「収穫に行くぞー!」


 仕事の始まりだ。


 ◇


「昨日でじゃがいもの収穫が終わったから、今日はかぼちゃの収穫をするぞ。作業は午前中までだから、遅れている分早く収穫をするように」


 おじさんはそう言って、私たちにはさみを手渡した。


「かぼちゃの収穫はへたを切り落として木箱に入れる。ちなみに収穫するかぼちゃのへたは茶色くないとダメだぞ、それ以外のものは収穫せずに置いておいてくれ」

「分かりました」

「よし、早速始めるぞ」


 おじさんは離れたところに行き、近場から私たちが始めることになった。本当なら昨日の午後にかぼちゃの収穫が始まるはずだったんだけど、私がいなかったからずれ込んだんだな。


 ふと、お兄さんたちを見てみるとダラダラとしていて覇気がない。昨日、私がいなかったから代わりに頑張ってくれていたんだな。元気つけてあげなくっちゃ。


「あのっ、昨日は私がいなくて大変だったと思います。だから、今日は私に任せてください。みんなの分まで頑張ります!」


 振り向いたお兄さんたちに宣言する。


「見ててください、遅れた分を取り返してみせます」


 腕を上げて力こぶを作る。むん、お兄さんたちの分まで私が頑張ろう。


 しばらくはボーッと見ていたお兄さんたちだったけど、その表情が笑顔になった。


「年下のリルに仕事を押し付けるほど、俺たちは廃れてねぇぞ。リルこそ、俺たちの素早い作業についてこれるかな?」

「そうそう。昨日は本当に凄かったんだぜ、リルにも見せたかったぜ」

「リルちゃんに負けっぱなしではいられませんから。次は僕たちが勝ちます」

「いいえ、今回も私が勝ちます」

「へへっ、いうじゃねぇか」

「よし、やってやろうぜ!」


 四人で笑いながら睨み合う。負けるものか、という気持ちがどんどん膨れ上がってくる。仕事は午前中までだ、全力を出し切って勝ってやろう。


「よーい、ドン!」

「いくぜー!」

「負けないよ!」

「私が勝ちます!」


 合図で一斉に飛び出していった。


 私はすぐにかぼちゃのところへいき、まずはへたを確認する。茶色のへたをしたかぼちゃを探し出し、持っているはさみでへたを切る。すると、ずっしりと重いかぼちゃを収穫することができた。


 収穫したかぼちゃは一度置いて、次々にへたを切る作業に移る。隣に一歩ずれてかぼちゃを確認する、うーんこれはまだ青いな。あっ、そっちのかぼちゃは収穫できそう。


 また一歩移動して、今度はへたを切り落とす。とりあえず、かぼちゃのへたを切り落とす作業をして、回収は後でまとめてやることにしよう。


 ふと、顔を上げて周りを見てみるとお兄さんたちが真面目に収穫を始めていた。良かった元気になって、私もそれに負けないように収穫をしないとね。


 ◇


「いやー、頑張ってくれたお陰で昨日遅れた分を取り返せたよ、ありがとな」


 御者台に乗ったおじさんが嬉しそうに言った。かぼちゃの収穫はみんなで頑張ったお陰で、なんとか予定通りの量を収穫することができた。


 今は荷馬車に揺られてコーバスに戻っている最中、三泊四日の収穫のお手伝いは終了した。大変な仕事だったけど、無事やり遂げることができて一安心だ。


 ゴトゴトと揺れる荷馬車の上ではお兄さんたちが横になってぐったりとしていた。


「へへへ、みたか、俺たちの実力を」

「もっと感謝をしてもいいんだぞ」

「僕たちはやりきった、やりきったんだ」


 弱弱しい口調で呟くお兄さんたち、本当に疲れていそうだ。馬車の揺れも気にせずにずっと空を眺めていた。


「リルちゃんはまだこんなに元気があるのにな、流石は冒険者だな」

「いえ、私なんかまだまだですよ」

「そんなこと言ったら、こいつらはどうなるんだ、あっはっはっ」


 私もそれなりに疲れてはいるけど、横になるほどではない。私も昔に比べたら体力がついたな、昔だったらお兄さんたちみたいにへばっていたと思うから。


 お兄さんたちを見ると視線があった。


「くっそー、なんだか負けたような気分だ」

「なんでもないような顔をして座っているのに、勝っているように見える」

「なんだか情けなくなってくるよ」


 どのお兄さんも悔しそうな顔をしている、今回は競争はしていないはずだけどどうしてそうなっちゃうのかな。


「私が頑張れたのはお兄さんたちと一緒に頑張れたからですよ。お兄さんたちのお陰です、ありがとうございます」


 一人の作業だったら気が滅入っていたと思うし、それだったら余計に疲れを感じていただろう。でもお兄さんたちと声を掛け合いながら仕事をしていると、嫌な気分がどこかにいってしまった。


 うん、作業がここまで早く進んだのはお兄さんたちがいてくれたからだ。どれだけ時間があったとしても、作業時間が確保されていても、こんな風にすがすがしい気分にはなっていなかったと思う。


 一人じゃないっていいね、て思った。誰かと一緒に働くことで大変なことは分かち合うことができるのは、本当に力になるんだ。


 お兄さんたちは体を起こすと、照れくさそうにした。


「改めて言われると照れるな」

「こっちこそ、リルがいていい刺激になったよ」

「僕たちのほうこそありがとう」


 逆にお礼を言われてしまった、私こそ照れくさくなっちゃう。


「そうだ、リルって今どこに住んでいるんだ?」

「私は宿屋に住んでますよ」

「住んでいる宿屋の名前と場所を教えてくれないか?」

「どうしてですか?」

「一緒に遊ぼうとする時に便利だろう?」


 一緒に遊ぶ?


「あー、それいいな! 今度一緒に遊ぼうぜ!」

「いいね、色々話も聞いてみたいし、僕は賛成!」

「ということで、リルさえ良ければ今度一緒に遊びに行こうぜ」


 びっくりした、そういうことだったんだ。そっか、仕事以外でも話したいっていうくらいには仲良くなれたんだな。えへへ、友達ができたみたいで嬉しいな。


 仕事以外で一緒に遊びに行くのは冒険者ギルドで働いていた以来だ、でも今回は前回とはちょっと違う。前回は大人の人とだったけど、今回は比較的年齢が近い人と行く、それが嬉しい。


 本当なら同じ年くらいの同性の子と知り合いになりたいけど、働いているとそういう子とは一緒にならない。そういう子と出会うためにはどうしたらいいんだろう。


 あ、いけない考えが反れちゃった。


「私でよければ一緒に遊んでください」

「よし、決まりだ! 冒険者の話とか聞きたかったんだよな」

「そうだ、魔法、魔法は使えるのか?」

「はい、少しなら使えます」

「やった、魔法が見られるの? 遊ぶのが楽しみになってきたよ」


 帰りの荷馬車の中で疲れも忘れて私たちは盛り上がった。久しぶりに盛り上がった話はとても楽しくて、ずっと話していても飽きないくらいだ。


 コーバスまであと三時間、まだ楽しい時間は続いていく。

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