25.ギルド内の掃除(2)

 それからしばらく経つと、冒険者の姿がぜんぜん見られなくなった。そろそろお仕事の時間だ。


「さてと、まずは仕事道具から取ってこないとね」

「はい。どこにあるんですか?」

「奥の廊下の先にあるわ。行きましょう」


 カウンターと待合席の真ん中奥の方に廊下がある。そこを歩いていくと、廊下のつきあたりが扉になっていた。カルーはそこを遠慮なく開けると、中には様々な掃除用具が入っている。


「バケツ、チリトリ、ホウキ、モップ。それぞれ2つずつね」


 それらを取り出すと、必要なものを手渡してきた。


「リルは待合席の場所を掃除してね。私は他の場所をやるわ」

「でも、それではカルーの掃除する場所が多いですよ」

「他の場所はそんなに広くないから大丈夫よ。もし、リルが早く終わったら私を手伝ってくれるといいわ」

「分かりました」

「じゃ、まず井戸から水を汲まないとね。井戸は冒険者ギルドの裏手にあるから、一緒にいきましょう」


 道具を持って廊下を戻る。待合席の場所に来ると、道具を隅っこに置いておいて、バケツだけを持って出入口から外に出て行く。そこからグルっと冒険者ギルドを回り込んで裏側まで行くと、そこは広場になっていた。


「うわー、ここすごく広いですね。何をするところなんですか?」

「あんまり詳しくは知らないけど、ここで冒険者が自分を鍛えているって話よ。今日は誰もいないみたいね」


 広場の端にはいくつかベンチも置いてあり、木陰用の木も何本か植えられていた。ギルドってなんでもあるんだなぁ、本当にありがたい存在だよね。


 そして、その広場の隅っこにはしっかりと井戸もあった。カルーと一緒に井戸に近づいて、早速水を汲む。


「私が見本を見せるからね」


 カルーは桶を下まで落として、紐を揺すると力を込めて紐を引っ張った。両手で交互になるように引っ張っていくと桶が上がってくる。その桶を受け取って、中の水をバケツに入れた。


「こんな感じかな。リルもやってみて」

「はい」


 私もカルーを真似て井戸水を汲んでみる。桶を落とすのは簡単だけど、桶を引き上げるのがとっても大変。でもこれも力をつけるために必要なことだから頑張らないとね。桶を引き上げ、バケツに水を入れることができた。


 それから二人で重たいバケツを持ってゆっくりとギルドの中に戻ってくる。


「じゃ、私は廊下から掃除を始めるからリルも頑張ってね」

「はい。また後で」


 ここで二手に分かれて仕事を開始した。待合席には誰もおらず、邪魔されず自由に掃除ができる環境だ。よし、まずは掃き掃除から始めよう。


 私は先にイスをテーブルの上に逆さにして置くことから始めた。テーブルは20こ以上あるのでイスは100こ近くある。結構大変だけど、集中してやれば早めに終わることができた。


 さぁ、ここからが仕事の本番、掃き掃除だ。ホウキを手に持って、テーブルの下からゴミを掃き出していく。ゴミは枯草、土、食べこぼしなど色々ある。それらをテーブルの下から綺麗に掃き出していく。


 掃き出したゴミは待合席の隅っこに溜めておいて後からチリトリで取る予定。テーブルの下を掃いて、まとめて、隅の方にポイッと。それを何度も何度も繰り返していく。


 集中して作業していたら、テーブルの下を全て掃き終えた。あとは部屋の隅と、カウンター前だね。まだ掃いていない部屋の隅からゴミが溜まっている隅まで綺麗に掃いていく。するとゴミの塊がどんどんできていって驚いた。結構床にこびりついていたんだね、このゴミたちもみんな取って行っちゃおう。


 一辺の隅を掃き終えると、次の一辺を掃き始める。またゴミの塊ができてしまった。目に見えにくいゴミが一杯あるんだね、ほとんど毎日来ているのに知らなかったよ。


 そうして待合席のホールを全て掃き終えた。次はカウンター前のホールだ。カウンターには受付のお姉さんは二人しかおらず、あとのギルド員は奥の方で何やら作業をしていた。これだったらお邪魔になることもないよね。


 今回も部屋の隅っこから掃除を始めていく、カウンターの目の前からだ。ホウキをもってゴミをかきだしていくように強めに掃いていく。すると、ここでもゴミの塊が早々にできてしまう。


 そのゴミの塊は進むごとに大きくなっていって、あっという間にこぶし大の大きさにまで成長した。これ以上成長させると面倒だから、一度ゴミを溜めているところまで移動させる。


 そしてまたカウンター前から掃き始めていく。静かなホールにサッサッサッと掃く音と、奥の方で話し合うギルド員の声だけが聞こえてくる。なんだかのどかな気分になっちゃうな。


 少しだけボーっとしながらのんびりしすぎない程度に綺麗に掃いていく。すると、気づいた時には掃き掃除が終わっていた。時間が経つのが早いなー。そうだ、ゴミを何処に入れればいいんだろう。カルーに聞いてみよう。


 掃除道具を一度置くと、カルーがいる廊下に出てみる、と丁度トイレに入る前のカルーを見かけた。


「カルー、ちょっと聞きたいことが」

「ん、どうしたの?」

「ゴミを入れるものってありますか?」

「あぁ、そうだったね。忘れてたよ。道具が入っていたところに麻袋があるからそこに入れておいて、最後にまとめて出すんだよ」


 しまった、という顔をして道具が入っていた廊下のつきあたりを示す。それだけ分かれば十分なので、すぐに廊下のつきあたりにいき、中から麻袋を取り出して、待合席のホールまで戻った。


 それからチリトリにゴミを入れて麻袋に入れていく。よし、これで拭き掃除ができるね。


 今度は水の入ったバケツにモップを突っ込んで濡らしたら、先の部分を手で絞る。前世にあった足で踏んで絞る装置があれば楽だったんだろうけど、贅沢は言えないね。


 モップを絞るとまずテーブルの下から順番に拭いていく。ホウキでは取れなかったゴミが取れて、テーブルの下はだんだんピカピカになってくる。綺麗になるって気持ちいいね、まだまだ拭くところはあるから頑張ろう。


 拭き終わったら、次のテーブルに近づいてまた拭く。その繰り返しをしていると、バケツの中の水がどんどん汚れてきた。これは水を替えにいかないといけないな。


 テーブルの下が全部拭き終えると、今度は待合席ホールの隅から隅を拭いていく。ここの辺りはそんなに汚れてないからスイスイと終わっていく。あっという間に待合席ホールの拭き掃除が終わった。


 待合席のイスを全て床に下ろすと、ここで水を替えに行く。戻ってくると、出入口にはカルーがいて、玄関の掃除を始めていた。


「あ、リル。私は後ここだけなんだけど、リルは?」

「カウンター前のホールだけです」

「へー、結構早く終わったんだね」


 感心したようにカルーが褒めてくれた。早く仕事を終わらせて自由な時間が欲しいな。ギルド内に入ると、早速モップをバケツに突っ込んで洗って絞る。カウンター前を拭き始めた。


 ここのホールも結構汚れていて、力を入れながら拭いた。何度も往復して集中しながら拭いていくと、ホールが瞬く間に綺麗になっていく。集中力が切れる頃にはここのホールも全て拭き上げてみせた。


「ふぅ、終わった」


 完成したホールを見ていたら満足感が生まれた。なんだかとっても気持ちいい気分だね。これでギルド内の掃除は完璧に終わることができた。

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