24.ギルド内の掃除(1)

 初仕事から二か月が経った。集落内での生活は順調そのもので、以前のように嫌悪されることはなくなった。ただし、両親を除いて。


 両親は仕方なく集落の手伝いをしているみたいだが、明らかに集落内から嫌われているようだ。それでも神経が図太いのか生活スタイルを変えようとはしなかった。追い出されるのは時間の問題かもしれない。


 私は一週間の内で穴ネズミの捕獲を一回、魚の捕獲を一回だけのお手伝いになった。以前は水汲みの仕事があったけど、他にも細々と手伝っていたらなしにしてくれた。頑張ってて良かったな。


 だから、現在週4~5回くらい冒険者ギルドで働いている。大体はゴミ回収のクエストを受けて、ない時は違うクエストを受けた。


 ゴミ回収のお仕事は最初はもたついていたけど、回数をこなすごとにだんだんやり方が分かってきて、今ではカルーと同じ時間でゴミの回収ができるようになった。


 あと、隙間時間に薬草の採取もしていて、少しだけ収入の足しにしている。そのお陰か現在の貯金額が18万ルタを超えたの。もう少しで20万ルタになりそうだから、とっても嬉しい。


 市民権を得るまであと3カ月働けばいいんだけど、手に入れてもすぐに暮らせないんじゃすぐに取る必要もないかなって思っている。この町で私が一人暮らしできるほどの仕事があればいいんだけど、今のところ難しそう。


 手に職ができればいいんだけど、何をしたいのかも分からないし、何をやりたいのかも分からない。だからどこかに就職するんじゃなくて、今はこのまま冒険者を続けていこうと思っている。


 いつか町の外の仕事も受けたいと思う。この世界には魔物という人間にとって脅威となる存在がいて、日々色んな冒険者が討伐をしている。今はまだ力がなくて外の仕事が全然受けられないけど、少しずつ体を鍛えていっていずれ魔物の討伐の仕事もやろうと思うの。


 でも、その前にやることがある。まずは文字と数字と記号を覚えること。これがないと冒険者ギルドのコルクボードに貼ってあるクエストが読めないし、受注もできない。仕事を始める以前の問題があるから、先に覚えることを優先しようと思う。


 日常の仕事で少しずつ体力と力をつけて、隙間時間で文字とかを覚えていく。これが最近のルーティーンだ。お陰で全部とは言わないけれど大分文字が読めたり書けたりできるようになってきた。あと一か月くらいで全部覚えそう。


 文字とかを覚えたら、何か新しい仕事が増えたりするのかな。それはそれで楽しみ。


 そして今日も冒険者ギルドの受付列に並ぼうとすると、前にカルーの姿を見つけた。


「カルー、おはようございます」

「あっ、リルおはよう。今日もゴミ回収頑張ろうね」

「はい」


 二人で仲良く列に並んでいると、すぐにカルーの番になった。受付のお姉さんとカルーでやり取りをしていると、カルーの声が大きくなる。


「えっ、ゴミの回収のクエスト、今日の分なくなっちゃったんですか?」

「はい、申し訳ございません。他のクエストが少なかった影響がありまして、今日の分は締め切らせて頂きました」

「そうですか……うーん、どうしよう」


 どうやら今日のゴミ回収のクエストがなくなってしまったみたい。仕方がないから他のクエストを受けないといけないね。


「あ、そうしたらいつものギルド内の掃除をクエストとして出しましょう」


 お姉さんはそういうと、席を離れてカウンターの奥のほうに行った。しばらくすると戻って来て、再び話を始める。


「上司の了解が取れました。どうでしょう、カルー様とリル様で冒険者たちが使う場所の掃除を行うのは。お一人4000ルタ、お出ししますよ」

「それでお願いします。リルもそれでいいよね」

「はい、いいです」

「それでは、冒険者たちが少なくなった後に掃除の開始をお願いします。詳しいことはカルー様が知っておられますので、お二人で仕事のことを話しておいてくださいね」


 話が終わるとカルーは冒険者の待合席に真っすぐ進んでいき、一つの席に座った。私もそれを追って隣の席に座る。そういえば、この席に座るのは初めて。


「ギルド内の掃除は割のいい仕事だから、今日はラッキーだったわ」

「そうなんですか?」

「えぇ、仕事さえ綺麗に終わらせれば、早く仕事を止められるからよ。自由時間が長くなるのは嬉しいでしょ」


 どうやらいい仕事を割り振ってもらったみたい。綺麗に終わらせれば、早く終わってもいいっていうのは魅力的だよね。


「掃除の場所は待合席のこの場所全部、トイレ、廊下、玄関。仕事内容は掃き掃除と拭き掃除よ。どちらもホウキとモップがあるから、両方使って綺麗に終わらせましょう。私は孤児院で掃除とかしているから大丈夫だけど、リルは大丈夫?」

「大丈夫、だと思います」

「もし何かあったら私も手伝ってあげるから気負わないでね」


 今は難民だけど、前世の記憶があるから大丈夫です、とはとても言えない。掃除だったら前世で小さい頃から散々やってきたことだから、楽勝だね。


 私たちはその席に座りながら色んなおしゃべりをして冒険者がいなくなるのを待っていた。普段あんまり見かけない冒険者たちの姿を見るのはとても新鮮。鎧で全身を固めた人や、そんな服で大丈夫か? と言わんばかりの薄着をしている人もいる。


 私はまだ冒険に出ないから配給品の服しか着られないけど、お金が貯まったら着るものを買ってみたいな。どんな服があるんだろう、新しい服ってどんな着心地かな。買って着るのが楽しみだなぁ。


 そうだ、冒険をするなら装備も買わないといけないんだった。だったらお金をもっともっと貯めないといけないってことだよね。うわー、どうしようお金が足りなかったら。市民権を買うなんて思っている暇なんてなかったよ。


 そういえば、カルーはこの先どうするんだろう。


「あの、私はこの先冒険者として外の仕事もやりたいと思っているんですが、カルーはこの先どんな仕事を受けようと思ってますか?」

「それがねぇ、中々決まらないのよね。決まらないから色んな仕事を冒険者として受けているんだけど、どれもしっくりこなくて。なんでもやりたいって思っているせいか一つに絞ることができないわ」


 カルーの年にもなると、決まっているものだと思ったけどそうでもないみたい。


「でもね、外の仕事を受ける冒険者よりは、中の仕事を受ける冒険者のほうがいいと思っているわよ。だから、リルとは逆になっちゃうわね」

「私はいずれ外の仕事もやりたいって思っているんですが、中の仕事も楽しいから中もやりたいなぁって思ってます」

「それは珍しいわね。外なら外、中なら中って分かれるのに。まぁ、そのやり方もありよねー。あー、私はどうしようかしら」


 冒険者がいなくなるまで、二人で将来のことを楽しく語り合った。きっと今しかカルーと仕事ができないんだなぁって思ったら少し寂しくなっちゃったのは、秘密にしておこう。今は一緒がいいね。

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