18.初仕事はゴミ回収(1)
「Fランクでリル様が受けられる仕事はこちらになりますね、代読させていただきます」
受付のお姉さんは四枚の用紙を私の前に出してきた。
「常設クエストの薬草採取。庭の草むしりと害虫駆除、4000ルタ。倉庫の掃除と整頓、5000ルタ。第4区画のゴミ回収、6000ルタ。以上の4つがリル様にとって最適なクエストとなります」
なるほど、文字が読めなくても大丈夫なクエストだね。一つずつ検分していこう。
薬草採取は経験があるから、簡単にできそうだね。でも、こっちではいくらくらいで買い取ってくれるんだろう。
「ちなみに、薬草はいくらで買い取ってくれますか?」
「リル様ですと、ギタール草とアッタイ草の採取が最適と思われます。ギタール草は130ルタ、アッタイ草は100ルタで取引できますよ」
おばあさんの時よりも値段が上がっている。他のクエストと比べてみたら、薬草採取は数を取らないといけないみたいだね。でも、一日で沢山見つけるのは無理があるし、薬草採取はパスかな。薬草採取は集落のお手伝いの日にコツコツ探してみよう。
残りの3つは依頼された仕事だね。ここは値段が一番高いものを選んでみよう。
「ゴミ回収でお願いします」
「はい、分かりました。では、あちらの札がぶら下がっている場所でお待ちください。時間になりましたら担当の者が来ます」
すんなり通っちゃった。受付のお姉さんが教えてくれた札の所を見ると壁際だった。そこには数人の人がすでに待っている状態だ。
「では、こちらが冒険者証になりますので大切にお持ちください」
そう言って渡されたのは、金属でできた冒険者証。なんと書いてあるかは分からない。早く文字を習わないとね。
受付のお姉さんにお辞儀をすると、札がぶら下がった壁際までやってくる。初めての仕事にドキドキしながら、ボーっとする。
「あんた、初めて?」
「えっ」
急に話しかけられてビックリした。振り返ってみると、私よりも少し背の高い女の子がいた。見た目は少しだけ傷んだシャツとスカートを穿いて、赤茶色の髪を後ろで結んでいる。……難民ではないのかな。
「今日から冒険者登録をしたリルっていいます。11才です」
「ふーん、今日からなんだ。私はカルー、12才よ。ところで、あんた難民?」
「……はい」
「やだ、おびえないでよ。別にどうこうしようっていう訳じゃないから。ただ、同世代の同性の子が珍しかっただけ」
カルーといった子は気さくに話しかけてくれたみたい。私が難民として意識しすぎちゃったみたい、ちょっと恥ずかしい。
「私はこの町の孤児院にいるの。孤児院のみんなのために働きに出ているってわけ。リルは?」
「私は難民から市民になりたいので、お金を貯めているところなんです」
「難民はそうよね。町の外で暮らすのって大変でしょ」
「大変だけど、慣れると平気です」
なんだか同世代の同性と雑談するなんて新鮮。そっか、この町には孤児院があるのね。カルーの姿を見てみると、町娘に見えるくらいには服装とか身だしなみが整っている。きっと、良い孤児院なんだろうな。ちょっと羨ましくなっちゃうね。
そこに一人の男性が近づいてきた。
「ゴミ回収の担当だ、待たせたな。お、今日は初見の子がいるな」
「あっ、今日から冒険者になりましたリルです。よろしくお願いします」
気さくに話しかけてきた人が担当なんだね。第一印象が大事だ、しっかりと自己紹介をした。
「ねぇ、班長。この子への説明は私に任せてくれない」
「ん、いいのか? 色々と教えてやってくれ。じゃ、移動するぞー」
話もそこそこに班長はギルドから出て行こうとすると、その後をクエスト受注者が後を追って行く。私は、とりあえずカルーについていけばいいのかな。
「リル、とりあえず移動するわよ」
「はい、お願いします」
「ふふ、任せなさい」
なんだか嬉しそうだけど、どうしたのかな?
◇
大通りを歩いていく。少しずつ人が増えてきた印象で、活気が出始めていた。
「今日の回収は第4区画ね。この町を4つに分けて管理しているらしくてね、今日はその内の一つの区画のゴミ回収をやるわ。ちなみにゴミ回収のクエストは一日おきにあるの。だから、明日はゴミ回収のクエストはないわよ」
カルーは歩きながら色々と説明してくれた。自信満々に説明してくれる姿はちょっと面白い。背伸びしたいお姉さんみたいな感じがして、見ているだけでこそばゆい気持ちになってしまう。
「台車を押してゴミの回収をするんだけど、それは実際に台車を前にした時に説明するわ。そう言っていたら、倉庫についたわね」
町外れの場所まで移動した先には木造の小さな倉庫があった。班長が倉庫の鍵を開けて扉を開けると、10台くらいの台車が置いてあるのが見える。その台車の上には私が入れるような大きさの箱が置いてあった。
「あの箱が回収したゴミを入れる箱よ。箱に入らない物があったら、箱の前にあるスペースに置いておけばいいわ」
「ゴミの回収って一軒一軒、訪ね歩けばいいんですか?」
「いいえ、違うわ。台車には鐘が備え付けられていて、歩きながら音を鳴らすと、ゴミを捨てたい人が家から出てくるの。そしたら、立ち止まってゴミを箱に入れてもらえばいいわ。とりあえず、回収の説明は以上ね」
そっか、音を鳴らしながら歩いていれば人が寄ってくるもんね。ゆっくりと歩きながら鐘で音を鳴らす、人が来たら止まって箱の中にゴミを入れてもらう。うん、分かりやすい、これならできそう。
他の人たちが次々と台車を手に取って押して倉庫を出て行く。私もそれに倣い台車を取ると、ゆっくりと押して出て行く。するとカルーが待っていてくれた。
「じゃ、第4区画まで行くわよ」
私はカルーに連れられて第4区画まで移動を開始する。
◇
10分くらいで第4区画と言われる場所に辿り着いた。他の人たちは細い路地に入って行くが、私はカルーの後を追って行った。
「あなたはこの路地に入ってね。私は隣の路地から入るから」
「はい。ちなみにどこまで行けばいいんですか?」
「どの路地も突き当たりがあるからそこまで行ったら戻ってくるのよ。突き当たりには曲がり角もあるんだけど、曲がらないで戻って来てね。戻ってきたらゴミを町の外に捨てに行くんだけど、そこには一緒に行きましょう。お互いに終わったらこの辺で待ち合わせしましょう」
お互いに行く路地を指差しで教えてくれた。ここからは一人か、カルーがいるだけで心強かったからちょっとだけ不安だな。でも、これが難民脱却の第一歩なんだから頑張らなくっちゃ。
「見慣れない子がいるから、多分色々と話しかけれられると思うから適当に相手をしてあげて」
「うぅ、難民だから冷たい言葉とか吐かれたりするんですか?」
「わざわざいう奴もいないと思うから安心して。どっちかっていうと気さくな人が多いから、愛想を振りまければ大丈夫よ」
そ、そうなのかな。カルーがいうんだからそうだよね。こんなところで負けてなんかいられないよね、不安は置いておいて自分のできることを精一杯しよう。
「じゃ、後でね」
「はい、後で」
そういったカルーは指差していた路地に鐘を鳴らしながら入って行った。
よし、私も行くぞ。笑顔を作らなくちゃ、笑顔。ニコーッと頬を伸ばして、いざ出陣!
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