16.いざ、町の中へ!

 私は冒険者を目指して本格的にお金を稼ぎ始めた。と言っても集落のお仕事と並行してやりながらだから、毎日お金稼ぎができる訳じゃないけどね。


 集落のお手伝いは水汲み一回、穴ネズミの捕獲が一回、魚の捕獲が一回だ。私がお金を稼ぎ出したことを知った女衆が他のお手伝いもしているから水汲みを一回に減らしてもいいよって言ってくれた。


 お陰で順調に薬草採取とウサギの捕獲が進んで、少しずつお金が溜まっていった。お金が溜まると袋が膨れてきて、それを見るだけでも顏がにやけてくるのが分かる。


 ちなみにお金はお家の中には持ち込まなかった。家の裏手にある木の根本に穴を掘って、そこにまとめて隠しておいてある。両親に見つかったら奪われちゃうからね、私に関心がなくてもお金にあったら困るしね。


 両親とはまだ一緒に暮らしているけど、お互いに無視している状態だ。今まで一緒だった寝床も移動して今では別々の部屋で寝ることにしている。


 あれから本当に一言も話さない状況だけど、とても気が楽だ。後は私が稼いだお金に興味を持たれないように静かにすること。あ、私がお金を稼いでいることも分からないんじゃないかな。そうだったらいいな。


 その内、ここを出て行くための居場所を確保しないと。まぁ、冒険者になったとしてもしばらくは一緒に暮らさないといけないよね。うーん、他の家に移り住んで良いか今度聞いてみよう。


 さて、そろそろウサギの捕獲に行きますか。あと買い取り一回で12000ルタが溜まりそうなんだよね、今度も2羽捕まえるぞー。


 ◇


「今日は850ルタだね」

「はい、ありがとうございます」


 今日も無事ウサギを2羽捕まえる事ができた。薬草はちょっと少な目だったから1000ルタ超えなかったのは残念だ。


 おばあさんからお金を受け取ると、それを硬貨袋の中に入れた。ふふふ、これで12000ルタが溜まったよ!


「おや、随分嬉しそうな顔をしているね。目標の金額が溜まったのかい?」

「はい、これで冒険者になれます」

「それはそれは、良かったねぇ」


 私がニヤニヤと笑っているとおばあさんに気づかれてしまった。それもそうだ、ずっと袋の中を眺めていたんだから。


「短い間でしたが、色々と教えて下さってありがとうございました」

「いいんだよ、これが私の仕事さね。でも、大変なのはこれからも一緒だからね。めげずに頑張んな」

「はい」


 そっか、これでおばあさんともお別れなんだね。本当にこの人には助かったし、今後のために色んなことを教えて貰ったな。こんな難民相手にも差別なんかせずに接して貰えて、本当にありがたかった。


 なんだか、これでお別れになると思っちゃったら寂しくなっちゃったよ。


「ほら、そんな顏しないんだよ」

「……はい」

「お前さんは難民をやめたくてここに来たんだろ、目標を忘れちゃいけないよ。どっちかっていうと、胸を張ってここからお別れしてくれたほうが私も嬉しいさ」


 おばあさんはこんな私を励ましてくれた。少しの期間しかやり取りしないただの子供に、最後まで優しくしてくれて胸が一杯になる。


 ぐずぐずとしていると目の前が潤んでくる。


「私、おばあさんに会えて本当に良かったです」

「それは私もだよ。お前さんみたいな難民がいると知ったからこそ、もっと難民のためになりたいと思っちまったよ。まだまだ、この商売からは足を洗えないねぇ。いやー、困った困った」


 はっはっはっ、とおばあさんは楽しそうに笑ってくれた。それだけで胸の奥が温かくなって、私も自然と笑ってしまう。


「いってらっしゃい」

「いってきます」


 こうして、私はおばあさんと笑って別れた。そうだ、私の目標はまだまだ遠いんだから、ここで立ち止まってなんかいられないよね。


 溜まったお金を握り締めて、一度集落へと戻っていった。明日は町の中に行くよ。


 ◇


 翌日の朝、私は久しぶりに朝の配給に並んだ。昨日の内に水浴びを済ませて、町へ行くために身ぎれいにした。服はちょっとボロなのはどうにもできないのが悲しいけど。


 ガヤガヤと賑やかな中で具沢山のスープを食べる。その時、声をかけられた。


「あら、リルちゃんじゃない。珍しいわね、朝の配給に並ぶの」

「あ、お姉さん。実はお金が溜まったので、今日から町に行くんです」


 振り向くと色々と教えてくれたお姉さんが近づいて来るのが見えた。正直に話すと、お姉さんは少し驚いたような顔をする。


「そうだったの、おめでとう。水臭いわね、溜まったら言って欲しかったわ。一緒にギルドに行きましょう」

「いいんですか、ありがとうございます。一人じゃちょっと心細かったんです」

「そうでしょ。頼ってくれてもいいのよ、ここにいるみんなもそうだったんだから。もちろん、私もね」


 お姉さんはどこまでも優しかった。私はその言葉に甘えることにして、一緒にギルドに行くことにした。


 一緒に食事をとって、みんなと一緒に後片付けをする。私は今日から町に行くことになると話すと、みんなが温かく迎え入れてくれた。困ったことがあったら相談して欲しい、とも言われて嬉しくなった。私もこの一員になるんだと思ったら、やる気が溢れてくる。


 そうして、私たちは町へと移動を始めた。町までは一時間、おしゃべりをしながら歩くのはとても楽しい。初めての町だから浮かれているのかもしれないけど、足取りはとても軽かった。


 あっという間に町の門まで辿り着く。私は初めて門の前に並び、順番を待つ。手には今まで溜めたお金を持って、その時を待った。


「次の人」

「はい」


 ようやく、私の番が来た。おそるおそる前に出ると、鎧を着た門番が話しかけてくる。


「証の確認か通行料2000ルタだ」

「通行料でお願いします」


 私は硬貨袋から銀貨二枚を取り出して差し出した。すると、門番が少し驚いた顔をした後に銀貨を受け取る。


「そうか、君は今日が初めてか」

「は、はい。これからよろしくお願いします」

「こちらこそ。ようこそホルトの町へ」


 そう言った門番はにこりと笑ってくれた。難民なのに差別なく受け入れてくれて、この町は良い町だなっと思ってしまった。町だけじゃない、あのおばあさんも、役人さんも、領主さまもだ。難民のことを考えてくれて、手を差し伸べてくれる。


 私は門番に深々とお辞儀をして、門の中に入って行く。上を見ながら入って行くと、奥の方に町並みが見えてきた。この世界で初めて見る建て並んだ家屋が見えて、胸が高鳴る。


 私、ようやく町の中に入れるんだ。そして、これから冒険者になるんだね!

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