15.ウサギの捕獲と初めての買い取り
草むらの中に二つの茶色い耳が出ている。その耳は忙しなく動いて、周囲を警戒していた。
私はできる限り近づくと、片手に持った石を構える。良く狙って持っていた石を全力で投げた。石は草むらに隠れたウサギに向かって飛んだはずだが、当たった衝撃はない。石が飛ぶとガサガサと音がした後に、ウサギがピョンと草むらから出てきた。
全くの無傷だ。石で気絶させようとしたが上手く当たらなかったらしい。仕方がない、私はウサギ目がけて石オノを振りかぶって投げた。石オノは回転しながら飛んでいき、ウサギの一歩手前の地面に突き刺さる。
すると、ウサギは驚いたのかその場を走り去ってしまう。
「ま、待って!」
すぐに走って石オノを回収するとウサギの後を追った。ウサギは木々の隙間を縫うように走り、どんどん先に行ってしまう。離されないように懸命に走っていくと、ある場所についたウサギの姿が消える。
慌ててその場に辿り着くと、そこには穴が開いていた。
「はぁはぁ、穴に逃げられちゃった」
息を整えながら穴を見つめる。どうにかして穴に入ったウサギを捕まえたい。ウサギは穴ネズミみたいに簡単に餌に釣られないので、あの方法は取れないだろう。だから、別の方法でウサギを穴から出さないといけない。
うーん、どうしようか。しゃがみながら考えてみる。穴、穴……ん? ひょっとしてこの穴、大きいんじゃない。そしたら、自分の体が入るかもしれないな。
近くに寄って穴の大きさを計ってみる。うん、私の体が入れる大きさだ。だったら、私が穴の中に入ってウサギを外に連れ出せばいいんだ。土で汚れちゃうけど、洗えば問題ないよね。
早速、地面の上にうつ伏せで寝そべり、穴の奥に向かってほふく前進を始める。腕を動かして、足で地面を蹴る。頭が天井について崩さないように慎重に奥へと進んでいく。
腰まで穴の中に入ると、奥の方に毛玉みたいなものが見えた、ウサギだ。手を伸ばすとウサギが暴れるが、ウサギが出られる隙間がないため逃げられることはない。
暴れる足を何とか掴み、今度は掴んだ足を離さないように後ろに下がっていく。手を離さないように慎重に穴から這い出ると、すぐに石オノを手に持つ。そして、ウサギの頭目がけて石オノを振り下ろした。
「キュッ」
鳴き声を上げてウサギは体を強張らせて痙攣する。そこにもう一撃食らわせると、今度は体を痙攣させてぐったりと動かなくなった。
すぐに木にぶら下がっていた蔦を引きちぎると、ウサギの足に巻き付けて縛っていく。両足を縛り終え、ようやく一息つくことができた。
「ふぅ、ようやく1羽か」
ウサギを捕まえるのは結構大変だ。でも穴ネズミは集落のために残しておきたいし、ウサギを捕獲して売るのがいいのかな。それとも違う捕獲の仕方を考えた方がいいのかもしれない。
ウサギを背負い、再びウサギを探しに森を歩いていく。
◇
あの後、1羽のウサギを発見した。今度は石オノを投げると、それがウサギに命中して捕獲することができた。多分、まぐれ当たりだよね。私も信じられなくてポカーンとして、しばらく動けなかった。
2羽のウサギを捕まえた私は昨日採った薬草を持って、町外で商売をしているおばあさんのところまで歩いていく。町の城壁が見えてきた。さて、おばあさんは今日はいるのかな。
あ、いた。前回いた場所に同じように座っていた。
「こんにちは」
挨拶をすると顔を上げてこちらを見る。
「あー、はいはい。こんにちは。早速来たね、まぁ座んな」
おばあさんの誘導に従ってお店の前に座った。それから背負っていたウサギを下ろし、肩にかけた蔦の籠も下ろす。今日は初めての買い取りだ、ドキドキするな。
「あの、買い取りお願いします」
「どれどれ、見せてみな。ほうほう、これは大きなウサギと薬草だね。ちょっと待っておくれ、今ウサギの長さを計るからね」
2羽のウサギを差し出すと、おばあさんは地面にウサギを真っすぐにして並べた。隣に置いてあったカバンの中から一本の紐を取り出すと、伸ばしてウサギの体に当てていく。
「こっちのは普通よりも大きいね、280ルタにしよう。こっちは普通よりも大きいけど、ちょっと足りないね。260ルタになる。合計でいくらになるか分かるかい?」
「えっと540ルタ、ですか」
「正解。難民の子供なのに計算はできるんだね。中には全然できない人もいるから、お前さんは大丈夫だから安心したよ」
しまった、前世の記憶があるから普通に計算しちゃったよ。変に思われなくて良かったなぁ、今度から気をつけた方がいいのかな。でも、これから色んな仕事をやらなくちゃいけないから、できることは多い方がいいよね。
今度は薬草だね。昨日採取したものも含まれているけど、大丈夫かな。しなしなにはなっていないから大丈夫だとは思うけど、当日に採ったものじゃないとダメってことはないよね。
「次は薬草だね。えーっと、ギタール草が4つとアッタイ草が3つだね。じゃ、お前さん計算しておくれ」
「えっと、ギタール草は一つ90ルタだから全部で360ルタ。アッタイ草は一つ80ルタだから全部で240ルタ。合計で600ルタ、で合ってますか」
「……うん、大丈夫そうだ。その通りだよ、良く計算できたね。偉い」
ほっ、良かった合ってたみたい。褒められるってちょっとくすぐったいね。でも、嬉しい。
「全部で1140ルタになるね。さて、どの硬貨がどれくらいだと思う?」
「……銀貨が1枚、小銀貨が1枚、銅貨が4枚、ですか?」
「そうだよ、昨日の話しっかりと覚えてくれてたんだね。これだけ計算できて、お金の価値が分かるんなら町の中に入っても大丈夫そうだ」
おばあさんの問題に答えると、満足そうな顔をして頷いてくれた。良かった、間違わなくて。そうだよね、お金の数え方は大事だよね。おばあさんに教えて貰って本当に良かったな。
おばあさんがカバンの中から硬貨を取り出して差し出してくる。私はそれを両手で受け取ると、まじまじと手の平の中の硬貨を見つめた。これが初めて稼いだお金だね、自分で受け取れて嬉しいな。
「おまけにこの袋をやろう。この中に硬貨を入れておけば管理もしやすいだろう。袋を無くしたり奪われないように、しっかりと隠しておくんだよ」
そう言ったおばあさんはカバンから一つの袋を取り出して手渡してきた。30cmある袋には絞り口もあり、紐を引っ張ると袋の口が閉じる。
「こんなに良いもの、いいんですか?」
「いいも悪いも、お前さんはこういう物を持ってないんだろ。難民には必要最低限のものしか与えられていないって聞いているからね、こういう物も不足しているんだろ?」
「はい。本当にありがとうございました」
やった、硬貨を入れる袋を貰えたよ。袋を開けて硬貨を入れるとジャラジャラと良い音がした。働いて稼いだお金の音ってすごくいい音に聞こえるよ。
「これからもよろしくお願いします」
「はいよ。頑張って冒険者になりなよ」
「はい!」
立ち上がって深々とお辞儀をする。顔を上げるとおばあさんは笑って手を振ってくれた。私は手を振りながら森へと帰って行く。
残り10860ルタ、頑張って稼ぐぞー。
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