6.魚を捕るついでにカニも捕る
今日は川までやってきた。穴ネズミの捕獲が上手くいって、すぐに新しい捕獲に挑戦したくなる。それは魚だ。
今まで穴ネズミを大人が捕ってきたのはみたことがあるが、魚を捕ってきたのは見たことがない。捕まえるのが難しくて誰も挑戦しないのか、川には水汲みと水浴びくらいしか人が寄りつかない。
もしかしたら魚を捕っても集落に持ち込まないで、自分たちだけで食べている可能性もある。一匹二匹ならそれが一番いいだろう。でも、私は十匹くらい捕って集落のスープに入れてもらうつもりでやってきた。
まだまだ信用が足りなくて、他の難民たちは冷たい態度だ。ここは大きく信用を獲得したいので、滅多に食べられない魚をみんなに食べてもらおうと考えているの。そしたら冷たい態度が少しは良くなるはず、だよね。
早速、魚を捕る罠を作ろうと思う。沢山の魚を捕まえたいので二か所作る予定だ。
罠の形は石で囲いを作って魚を中に誘導するものだ。もちろんかえしもついていて、囲いの外には出られないようにする予定。
「あっ」
いけない、その前にやることがあったんだ。ふふふ、今日は同時におやつを捕ろうと考えている。それは川カニで岩場の影とか水の中の石の間とかに潜んでいる。でも、それを探して捕まえるのは結構な時間がかかるだろう。
そこで私はある方法を考えた。家を出た後すぐに以前作った蔦の籠に葉っぱを敷き詰めて隙間を無くす。その中に道すがら捕ってきたミミズを溜めておく。このミミズは魚への餌でもあるから沢山捕っておいた、ちょっと気持ち悪かった。
そのミミズを浅瀬に千切ってばら撒いておく。するとミミズに惹かれたカニが隙間から這い出てくるはずだ。そこを捕まえれば探す手間が省ける、というものだ。それを魚の罠を作っている時にやっておけば、時間短縮にもなる。
私はミミズを散りばめたところに目印となる石を置き、罠づくりを開始するためズボンを膝上までたくし上げる。川の中に靴のまま入り手頃な石を持って囲いを作っていく。石の大きさは大小さまざまを使い、囲いが崩れないように石の隙間が無いように埋めていく。
石が大量に必要だったのか、すぐに目ぼしい石が周囲からなくなってしまった。んーっ、ずっと腰曲げていたから辛いや。ちょっとカニの様子でも見に行こうかな。
囲いを作っている途中でカニのほうが気になり、目印に向かって歩いていく。作り始めて30分なんだけど、出て来てくれたかな。ちょっとドキドキするね。
「どれどれ……あっ、いた!」
ミミズに惹かれて石の隙間から這い出てくるカニを見つけた。急いで岸に上がり蔦の籠の中からミミズを取り出して砂利の上に置き、すぐさまカニの場所まで戻っていく。
「ふふふ、やった。カニゲットしたよ」
川の中に手を入れてカニを下から捕まえた。カニは逃げようと手足を動かしていてちょっと可愛い。だけど、これは大事な食料だ。私は容赦なく蔦の籠に放り込み、川の中を見ながら残りのカニを探した。
あちこちにばら撒いたお陰かあちこちからカニが現れている。私はカニに気づかれないように静かに移動し、静かに川の中に手を入れ、捕まえる時は素早く掴む。何度も繰り返していくと、蔦の籠の中のカニが増えた、合計6匹だ。
「さてと、囲い作っちゃおう」
蔦の籠を砂利の上に置いておくと、再び囲いの作業に移る。今度は離れたところから石を持ってきて囲いの近くに置いた。その作業をしばらく続けて石の山ができあがると、囲いを作り始める。
できるだけ長い期間使いたいから丈夫にしたい。囲いの根元を崩れないように頑丈にしながら、石の高さを水面より上に上げていく。そうやって作業していくと、完成した。直径1mの囲い罠だ、かえしもついている。
「あーー、疲れた」
腰を伸ばすとバキバキと音が鳴る、うーん気持ちいい。疲れた腕をグルグルと回すともっと気持ちいい。体のストレッチをするとようやく岸に上がり蔦の籠のところまでやってくる。
籠の中はカニがブクブクとアワを吹いていて可愛くてちょっと癒される。その籠を持ち再びミミズをばら撒いたところまでやってきた。
「わーー、いるぅっ」
近くで覗いてみるとあちこちからカニが這い出ているのを見つける。やった、この作戦は成功だね。見えない所に沢山いたのか、ミミズに惹かれて離れたところからやってきたのかは分からないがこれは本当に嬉しい。
逃がさないように次々と捕らえると、籠の中がカニで一杯になった。全部で16匹捕まえることができたみたい。これだけあれば小腹を満たせるどころか、お腹が一杯になっちゃうかもしれない。
「んふふ~、もう一つの囲いを作る前に一休憩しちゃおう」
上機嫌に鼻歌を歌いながら森の近くまで移動する。そこには事前に準備しておいた火起こしセットと、途中で見つけたキノコが一つだけ置いてあった。
「さてと、初めての火起こし上手にできるかな」
知識はそこそこある。前世でテレビで見ていて、ネットで調べていたことがあるからだ。
集落にあった廃材の木の板を二枚置く、下に大きな木の板で上にそれよりも小さな木の板だ。皮を剥いた出来るだけ真っすぐな枝を木の板の上に垂直に乗せる。さて、後は枝を両手で挟んで回していくだけだ。
「ふー、力を入れて素早く……ふんっ」
枝を素早く擦り回していく。回していくたびに手をどんどん下に押して行く、ギリギリまで堪えて……すぐ上に手を移動させてまた回す。キリキリと甲高い音が聞こえて来て、とてもいい感じだ。
擦れたところから黒い木くずがあふれ出てくる。でも、まだ火種にはなっていない。赤い光が出てくるまで何度も何度も回していく。腕が疲れても絶対に休まない、早く決めないと後でしんどくなるからだ。
すると、ボワッと黒い木くずが赤く光った。私は急いで枝を放り投げ、近くにあった糸みたいに細く長い木くずを手に取る。その木くずに黒い木くずを慎重に入れて、口からゆっくり長く息を吐く。
「ふーー、ふーー、ふーー」
焦るな慎重に火種が消えないように、ドキドキしながら息を吹きかけていく。
ボワッ
「わっ、着いた!」
着いた喜びを抑えて、組み立ててあった木の枝の下に燃えた木くずを放り込み、また息を吹きかける。煙がもくもくと立ち昇り、火が枝に着火して大きな炎になった。火起こし成功だ!
「やったー、点いたー」
嬉しくなって万歳をした。もしかして、火起こしの才能あるんじゃない?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます