きつね憑き

実家は山の中のガチ田舎なんですが、わたし、元々は新潟市の街中に住んでいたんです。

団地のような集合住宅に暮らしていて。父の会社の社宅だったのかな?


四歳の年中さんの頃に、祖父母と同居のために実家に引っ越しました。

環境がガラッと一変したわけですが、かなりボーっとした子供だったためか、特に悲しいとか嬉しいとかいう感慨もなく、新しい暮らしに移行したかんじでした。


当時、子供がまだ多い時代だったにもかかわらず、実家の地域はもうすでに過疎でした。


集落という単位がこっちでいう町内会のようなくくりになっていて、子供会や地域の運動会、小学校の登校班も集落ごとになっていて。

うちの集落でわたしと同学年の子は五人でした。これでも他の集落よりは子供が多かったんですよ……!


内訳は、男の子が三人(そのうち二人は双子)、女の子が一人。


その女の子を仮にAちゃんと呼びますね(実際のその子のイニシャルとは変えてあります)。

Aちゃんは、集落内で女の子が自分だけだったので、わたしが引っ越してきたことがすごく嬉しかったらしく。

毎日のように遊びに誘いに来てくれて、わたしたちはすぐに仲良くなりました。


Aちゃんはいかにも女子って感じの子で。

家も、今ふうの新しい一戸建てで、古くてボロくて狭い集合住宅と、古くてボロくてやたらでかい祖父母の家しか知らない私は、遊びに行くたびに「ドラマに出てくるお家みたい……!」とドキドキしたものでした。


持っている文房具とかも、とても可愛いかったです。香り付きの消しゴムとか、キャラクターもののメモ帳とか。

わたしはふだん父の無骨で重い文具たちを借りていたので、コッテコテの女子グッズに「おお……」と圧倒された記憶があります。


ちなみに、そうゆうものを私が持っていなかったのは、親が与えないというよりは、わたしがあまり興味がなかったからです。


そんなわたしにAちゃんは、可愛い消しゴムやらビーズやらを並べて見せてくれたり、可愛らしいメモ帳のページをくれたり、乙女な世界を布教しようとしたようですが、

三つ子の魂百までと言いますか、染まらないのですな……。


わたしも、夏になると蝉の抜け殻コレクターになるので、手持ちの中から前肢の美しいものをご披露したりして布教にいそしんだのですが、普通に拒否られました。


たぶん、たくさん子どもがいたら、わたしたち絶対に違う友達グループだったと思います(笑)。でも、なにせ女子がたった二人しかいないもので。

趣味趣向が真反対ながらも楽しく過ごしていました。


Aちゃんは私に読書の楽しみを教えてくれた子でもありました。

当時(四歳)のわたしは声に出して読む「音読」の読み方しか知らなかったのですが、「頭の中で読むんだよ」と黙読を教えてくれたのも彼女でした。

読むのが格段に楽になって、それから読書量が一気に増えていきました。


また、Aちゃんはお姉ちゃんの影響か、小学校に上がる前から少女系ライトノベル(コバルト文庫とか)をたくさん持っていて。

わたしにも「これ読んで! これもこれも!」とたくさん貸してくれました。

それがきっかけとなり、娯楽のない山の中で、わたしはどっぷりと読書という沼に堕ちてゆくのでした……。



と、ここまでがAちゃんとの出会いの話で、ここからが本題なのです。

(導入、長すぎてすみません……!)


Aちゃんの家とうちの実家は五百メートルくらい離れているんですが、そのちょうど真ん中あたりに四つ辻(十字路)がありまして。

そこに、ぽつんとお地蔵さんがあるんですよ。

野晒しでなく、屋根のついた小さなやしろに安置されていました。地蔵堂っていうんですかね。

四つ辻の山の方に続く道の先には檀那寺があり、そちら側を向いて立っていました。


Aちゃん、ぜんぜん信心深い感じでないのに、前を通るたびにそのお地蔵さんに手を合わせていて。

まわりに誰もいなくて、わたしと二人きりの時にかぎってなんですが。


むしろそういう昔からの風習などを小馬鹿にしてるかんじの子だったので、なんだかすごく意外でした。

実際、手を合わせるのを誰かに見られるのが、恥ずかしいみたいでした。

なのに、そこまでしてお参りしているのがすごく謎で。


実家に引っ越してから、毎日仏壇に手を合わせるよう祖父母に習慣づけられていたのもあり、その日からわたしも一緒にお参りするようになりました。

Aちゃんがコソコソやっていたので、わたしもなんだか恥ずかしくてコソコソとなんですが。自転車で通り過ぎる時とかに、さりげなくぺこっと頭を下げたり……。


そしたらある日、お地蔵さんの前でAちゃんがぽそりと話してくれたんです。

「わたしね、前にきつねに憑かれたことがあって……。ここのお地蔵さんの前だけは正気に戻ったんだって」


ってなんだろうと思いながらも(なにせ四歳か五歳とかの話で……)、Aちゃんがお参りしてたのはそのためだったんだなと子供心に納得したのでした。


その後、長じて「狐憑き」について知った時に、Aちゃんを思い出してびっくりしましたけれども。


ちなみにそのお地蔵さん、現在も同じ場所にちゃんとあります。

今度帰省したときにでも、子どもたちに「子供を守ってくれるお地蔵さまなんだよ」って紹介しようかな。



話変わって。

お地蔵さん関連でふと思い出したことが。


うちが檀家になっている檀那寺には、六地蔵さんが安置されているのですが、それ、元々は実家の山にあったものらしく。


六地蔵ってたいてい墓地の入り口にあるものですよね。

うちの山って昔、墓地だったのかな……。

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