火の神様を祀らなくなった話
実家の仏壇には、赤ちゃんの白黒写真が飾ってありました。
目のくりくりとしたかわいらしい赤ちゃんです。
おそらくわたしが生まれる前から置いてあって、そうゆうものだと思って疑問も持たずにいたのですが、
ふと気になって、おばあちゃんに「この子、だれ?」って聞いたんです。
祖母が言うには、その赤ちゃん、亡くなった父の兄だそうで。
わたし、その時まで父は三人兄弟の三男だとずっと思っていたのですが、実は四男だったらしい……!
前に、失明しかけた伯父さんの話をしましたが、彼が長男だと思っていたのですがその上にもう一人伯父がいたのですね。
祖母にとっては初子になるその赤ちゃんは、一歳の時に、祖母が目を離した隙に、火にかかった熱湯を被ってしまって亡くなってしまったそうです。
祖母はその出来事を機に、火の神様を祀るのをやめたんだと泣きながら孫のわたしに言いました。
子どもながらに「火の神様って何?」と思ったのですが、火の神に対する祖母の吐き捨てるような口調が怖くて、聞くことができませんでした。
うちは仏壇と神棚のほかに何か祀っていたんですかね……?
それとも祖母が個人的に?
謎です。
ともあれ祖母は、その火の神様を恨んでいたようでした。
謎と言えば、その亡き伯父の遺影の横には、尼さんの白黒写真も並んで飾ってありました。
おそらく十代後半か二十代なかばくらいの、尼頭巾をかぶった、とてもきれいな女の人です。
その尼装束の女性、祖母の話によると、男の人に囲われる暮らしをしていたのですが、気が狂ってしまって仏門に入ったのだそうです。
祖母は、誰も引き取り手がいなかったからうちが引き受けたんだ(位牌とかお骨のこと? 目的語が思い出せん…!)、みたいなことを言っていたような……。
ちょっと記憶があいまいです(汗)。
うちの仏壇に飾ってあるってことは、親戚筋の女性だったのかな?
ていうか、気が狂うって何があったんだ……。そこのところ、怖いし、気になります。
当時そうゆう人が血縁にいたことは秘すべきことだったのではないかと思うのですが、祖母はそういった薄暗い話も小学生のわたしによくしました。
祖母が話す話はいつも一方的で、そして端的に話すので経緯や理由などはよくわからないものがほとんどでしたが、大人の秘密を覗いているようなそわそわと落ち着かない気持ちにさせられることも多々ありました。
そういえばこの尼さんの写真、気付いたら撤去されていました。
わたしが大学生の時まではあったように思うのですが……。
家族の誰が処分したのでしょうか。処分するとしたら父でしょうが。
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