転生魔王はガチャを回す。
甘栗ののね
第1話 魔王、死す。
その世界には魔法が存在していた。
その世界では人間と魔族が絶えず戦争を続けていた。
その世界の魔法は戦争の道具だった。たくさんの人間と魔族を殺し、破壊した。
その世界の魔法は辿り着いてはいけないところにまで到達してしまった。
大規模殲滅魔法『アトミカ』。それを最初に使ったのは人間だった。
その魔法はすべてを破壊した。すべてを消し飛ばした。そして、すべてを穢した。殲滅魔法により邪気に穢された大地は人間も魔族も住むことができない場所になり果ててしまった。
その世界は終焉へと向かって行った。人間と魔族は殲滅魔法で互いを殺し続けた。
世界に汚染が広がっていった。人間と魔族は邪気に汚染されていないわずかな大地を巡って殺し合いを続け、その数を減らしていった。
そんな中、一人の魔王が現れた。その魔王は邪気の影響を受けない特別な体を持っていた。そして、その魔王は自分の特殊な体質を利用し邪気を浄化する方法を編み出した。
魔王は邪気をその身に取り込み大地を浄化していった。たった一人、誰の力も借りず大地を浄化し続けていった。
それを見た人間は彼を殺そうとした。それが魔族だったからだ。
魔族も魔王を殺そうとした。邪気の影響を受けない異質な存在の魔王を恐れ排除しようとした。
それでも魔王は一人、たった一人で邪気と格闘を続けた。それは本当に孤独で気の遠くなるような戦いだった。
そして、長い長い年月の後、魔王はやり遂げた。世界中の邪気をすべて吸収し世界を浄化したのだ。
しかし、邪気はまだ存在していた。魔王の中に存在していた。
魔王は最後の力を振り絞り空へと飛び立った。青い空を抜け、その先にある暗く果てない星の海へと飛び立った。
そして、散った。世界を汚染していた邪気と共に魔王は散ったのだ。
そんな魔王が最後に見たのは青く輝く惑星だった。自分が生まれた星だった。
「……美しいな、アリエッサ。この星は」
魔王は最後、そう呟いて笑って、散った。
けれど、そこで終わらなかった。
「は~い、お疲れさまでしたぁ」
気が付くと魔王は何もない場所にいた。
「まさか本当にやり遂げるなんてとってもすごいわぁ。そんなあなたにはご褒美を上げたいと思いまぁす」
訳が分からなかった。まったく訳が分からない。
「誰だ、お前は」
「お前なんてひどいわぁ。女神ちゃんで~す」
そいつは女神と名乗った。口調も態度も雰囲気もすべてが軽薄そうな女神だった。
「あなたはぁ、とっても偉くてすごい魔王。一人で星を救っちゃうなんて本当にすごいわぁ。だから、ご褒美を上げちゃいます」
「いらん。そんな物のために私は」
「問答無用で~す」
女神は魔王の話など一切聞かず、魔王に何かを叩きつけた。
「貴様、私に何を」
「あなたにはぁ、一日一回10連ガチャを回す権利をあげま~す」
「10連? なんのことだ?」
「え~とぉ、くじみたいなものかなぁ」
「……何の意味があるんだそんなもの」
状況が全く読めなかった。しかし、自分が異常な状況に置かれていることは理解できた。
「貴様、私をどうするつもりだ」
「どうしたい?」
「どう、したい?」
「選ばせてあげるわぁ。どんな世界に転生したい?」
転生。それを聞いた魔王はふっとあることが頭に浮かんだ。
平和な世界に。争いのない穏やかで平和な世界に。と魔王はそう思ったのだ。
「平和な世界ねぇ。りょ~」
「おい貴様! 人の心を勝手に」
「それじゃあ転生させま~す。いってらっしゃ~い」
「おい待て! 話を」
その女神は本当に勝手で強引で人の話を聞かずものすごく適当な女神だった。
「何かあったら連絡してね~。ばいばーい」
こうして魔王は転生していった。適当な女神の手で適当な能力を与えられ適当な世界に転生していったのだ。
「あ~、いい仕事したわぁ。きっと創造神様も喜んでくださるわねぇ」
上機嫌、大満足。しかし女神は一つ重大なことを伝え忘れていた。
「ん~、何か忘れてる気がするけど……。ま、いっか」
とりあえず一仕事すんだからいいだろう、と女神は勝手に納得し、そのことを報告するためにるんるん気分で創造神のところへ報告へ向かったのだった。
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