クズ、悪魔っ娘を拾う。
あるままれ~ど
第1話 悪魔的邂逅
「……ハァー、人生ってクソだりぃわー」
陰鬱なため息を漏らして、俺――
真っ暗な夜道だが、この場所は人通りが少なく、街灯の間隔もまばら。今の時間は、俺以外の誰も歩いておらず、たまの街灯に引き寄せられる羽虫たちを見ては、あんな虫けら共ですら同じ仲間同士で集まれているのにと嘆息を漏らす。
スマホをポケットから取り出し、電源を付けて時間を確認してみれば、アニメの美少女が描かれているホーム画面の上部に『十時四十分』と表示されていた。
「えぇ……もうこんな時間なのかよ……。ブラック企業戦士の悲しき宿命だな……」
こうやって、冗談混じりに独り言ちて気を紛らわせるしかない。
思えば、今日も散々な一日だったのだ。
作っていた資料は、突如パソコンがクラッシュしたせいでおじゃん! そんな不慮の事故のせいで、俺は後輩の前で散々上司に叱られて、結構進んでいたハズの資料作りが最初からだ! しかもそれを、「今日中に終わらせろ」だぁ? まずもってテメェらがクラッシュするまで使い古したパソコンを買い替えねぇからだろ! ケチケチしてんじゃねぇよ! クソが!
……定時は十八時だから残業代が出るだろって? 馬鹿言ってんじゃねぇよ。アイツらがそんな隙を晒すと思うか? 上司さんはしっかりと十八時に俺の分のタイムカードも押してってくれましたよ! 反吐が出るくらいありがたいね!
思い出せば出すほど、恨み言が湯水のように湧いて出てくる。もっとも、湯水と言うには、あまりにもドス黒い感情ではあるが。
不機嫌さを隠そうともせず、悪態を付きながら歩いていると――不意に、横合いから声がかけられた。
「ちょっと!そこの冴えないアンタ!」
「え?どこどこ……」
「アンタしかいないでしょ!」
声を高くしてやいのやいのと食って掛かるのは、何ともまあ珍妙な格好をした幼女だった。赤髪のツインテールの両サイドに、角のようなものがついている。アクセサリだろうか。髪色と同じように、この夜の中でも存在を主張する赫眼は、まるで地獄の炎をそこに閉じ込めているかのようだった。
服装はやや過激で、体のラインに服がぴったりと吸い付いている。それによって幼女の未発達の体が強調されており、ひどく倒錯的だがそれも相まって息を呑むほど芸術的だ。胸元や腹の部分は大胆に裂けて、谷間とおへそが丸見えになっていて、今の時期的にとても冷えそうに思える。
細くも美しい形をした足は、黒いタイツによって覆われており、かろうじて先述の服で股間部分を隠していた。
まあ、倒錯的だのなんだの、無い語彙力で口を極めたが、残念ながら俺に幼女趣味はない。どんなにエロい格好をしたとしても、こんなちんちくりんの幼女に興奮することはなかった。
……いや、やっぱエロいわ。やばい、どうしよ。
「アンタ、何さっきからモジモジしてるわけ?」
「……別にしてないが?」
「いやどう見てもしてるわよ……」
何を言う! 俺の性癖はお姉さん系だぞ! お前みたいな幼女に興奮なんてするか!
だからこうやって体を前かがみにしてるのは、決して変な理由ではないのだ!
「分かったか!」
「何をよ!?」
というか、この幼女はなぜこんな時間に一人なのだろうか。
だってもう、夜の十一時に差し迫っている。このくらいの大きさの歳の子は、もうとっくに寝ている時間帯ではなかろうか。
普通に人様の子供に、多少なりとも劣情を抱いた罪悪感がある。なんか、犯罪者予備軍に堕ちた感覚だ。
そんな感覚を誤魔化すために、俺は彼女になるべく優しく声をかけた。
「なぁ、痴幼女」
「痴幼女!?」
「いちいちうるさいな……。とにかく、お前の家族はどこだ? もしかして、はぐれたのか?」
「いや、なんでアンタが私に質問してるわけ? 私が先にアンタに声をかけたんだから、アンタがまず私の話を聞きなさいよ」
「チッ」
「なんで舌打ちするのよ!」
本当に変なガキだ。第一、人が心配してやってるのに、どうしてこうも横柄な態度を取れるのだろうか。まあ、そういう時期も子供にはあるかと、勝手に納得しておく。
仕方ないと嘆息し、彼女の話を聞くことにした。
「アンタにお願いがあるの」
「お願い?」
「ええ。――私を、アンタの家に住まわせてくれないかしら」
「……は?」
神妙な顔をして何を言うかと思えば、どういうことだ。
俺が、この幼女を家に住まわせる? 普通に考えて警察にパクられる案件である。
そも、なぜこいつは人の家に住みたがるのだろうか。
「もしかして、家出とかか? それならちゃんと家族と仲直りするんだな」
「違うわ」
「じゃあ、何が理由なんだ」
家出ではない。それでも誰かの家に住まなくてはならない。
なんというか、お手上げだ。分かる気がしない。
理解を放棄し、俺は黙って幼女の言葉に耳を傾ける。
「実は……ほら、私って見ての通り悪魔じゃない?」
「うん……ってうん!?」
「え? だから、私って悪魔でしょって――」
「――はぁぁぁぁぁぁ!?」
少女から衝撃のカミングアウト、まさかの悪魔らしい。
そうやって聞いてみれば、確かにいかにもコスプレっぽい衣装を身にまとっているのも納得はできるが……そも悪魔なんて存在してるとは思わなんだ。
しかし、俺はとりあえずありとあらゆる発言を疑ってかかる性格なので、彼女の発言をはいわかりましたと信用する気は毛頭ない。
こいつが、自分は悪魔だと自称する中二病こじらせ痴幼女という可能性の方が高いだろう。悪魔なんて存在は、無宗教家の多い日本だと、やはり荒唐無稽な存在だ。というか、それこそ悪魔なんて実在すると思ってるのは熱心な宗教家くらいだろうが。
「というわけで、中二病こじらせ痴幼女は大人しくお家へ帰りなんし」
「なんでいきなり遊里語? ……ていうか、私本当に悪魔なのよ! ほんとの、ほんとに!」
「あっ、ふーん。まあ、お前がそう思うんならそうなんだろうな。お前ん中ではな」
「むきいいいいい! いちいちムカつくわねアンタ! 証拠なら見せてやるわよ!」
ついにキレた幼女は、声を甲高くして怒鳴ってくる。耳がキンキンするのでやめてほしい。
しかし、なるほど証拠とな。まあ、十中八九しょうもない詭弁だろうが、仕事終わりで娯楽を欲している身からすれば、ちょうどよく滑稽で酒の肴になりそうなアホはありがたい。
俺が素直に聞いてくれそうだと、俺の顔を見て察した幼女は、「今に見てなさいよ」と言いながら尻の方へ腕を持っていき――
「ほら、見なさい! この尻尾が何よりの証拠よ! すごく悪魔でしょ」
――したり顔で、先端がハート型になった尻尾を俺に見せつける。
まざまざと、それを見せつけられた俺は……!
「えい」
「――っぴぃ!」
思い切り、その尻尾を掴んでいた!
いきなり掴まれて驚いたのか、幼女がビクンと体を震わせて、変な悲鳴を上げる。 そして彼女は、そのまま俯いて顔を赤くした。時折、またビクンと体を動かしている。
変な態度だな、と思ったが、俺はそんなことよりも手の中の尻尾の感触に釘付けだった。
今までに触ったことのない感触、この手触りをなんと表現しようか。
薄い薄い毛のようなものが覆っている尻尾、親指と人差し指で挟んでみると、細い骨を触っているような固さが伝わってくる。
一度、猫の尻尾を触ったことがあるが、あれよりもっと毛を浅くしたら、この感触に近付くだろうか。
ともかく、味わったことがない感触で、撫でていると心地いい。だから、思ったより長い時間、この感触を堪能する。
しかし、たまに幼女が「ひゃん!」とか「いや!」とか嬌声を上げるため、なんというか変な気持ちになって尻尾から手を離した。
「ハァ、ハァ……ど、どうよ、信じてくれた?」
「あぁ、えっと、一応な」
あれは、コスプレの道具にしては、手が込みすぎている。本物の動物が持っているような尻尾の感触だったり、引っ張ったりもしてみたが、尻尾が取れる様子もなかった。おまけに、尻尾をいじるたびに幼女が嬌声を上げるものだから、嫌と言うほど理解してしまった。
この幼女は――悪魔だ。
「それで、悪魔さんはどうして俺の家に?」
俺は、もう一度、理由を聞く。酒の肴になる笑い話にでもなればなぁと、嘲り半分で聞いてみた話はどうやら本当だったらしい。
だから今度は、真剣に話を聞くことにした。
「私は悪魔なんだけどね、そんな悪魔の中でも
「エッ!」
「なんか変なニュアンスが含まれてそうな相槌ね……。でもね、魔界で男の精を吸おうとしても、途中で恥ずかしくなっちゃって。それで、全く精を吸えないもんだから、お母さんが『マトモに男の精気を吸えるようになるまで、人間界の男の家で修行しなさい』って」
「シチュエーションがエロ漫画じゃん」
「だから……だからアンタの家に、私を住まわせてほしいの。家事もするし、何ならアンタのお願いも何でも聞くから!」
「ん? 今なんでもするって……」
幼女の話を聞いて、俺は大仰に頷いてみせる。正直、俺にとっても悪い話ではなかった。
男の一人暮らし、学生時代は憧れた字面だが、こうして社会人になってしばらくすると寂しさだけが募るようになった。
そんな孤独が、この幼女によって解消される。しかも家事までしてくれるときたもんだ。
サキュバスってのも個人的にはすごくそそられる。幼女趣味はないけど、仲良くなった暁にはお姉さん系サキュバスとか紹介してもらえそうだし。
そう考えてみれば、答えは一つだ。
「分かった。家事する、そして俺の命令を聞く、という条件を守るなら住まわせてやる」
「ほ、ほんと?」
「ああ、ほんとのほんとだ。だからせいぜい、俺の役に立てよ?」
「――うん!」
そうやって彼女は、まるで花が咲くみたいな笑顔を俺に向ける。
最初は生意気で横柄なガキだと思ったが、ちゃんと可愛らしいところもあるみたいだ。
しみじみと思った俺は、幼女に自己紹介することにした。
ずっと『お前』とか『痴幼女』呼びしていたが、流石に可哀想だからな。
「俺の名前は北崎春成、お前の名前は?」
「私の名前はプルチラ・ディアボーロ。よろしくね、春成!」
「うわすっげぇ強そうな名前。……あぁ、よろしくな、プルチラ」
こうして俺は、謎の悪魔――プルチラとの共同生活を始めることになる。
そして俺は、一つの目標を掲げることにした。
それは『プルチラを使って金を稼ぐ』ことだ。
悪魔なんて貴重な存在、しかもサキュバスで美幼女だぞ? 金稼ぎの手段しか思いつかない。
最悪、研究所に売り飛ばしたり、枕でもさせればいいだろう。サキュバスだから、後者の方が都合良かったりするのかな?
こうして俺は、新生活と金に強く思いを馳せるのであった。
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