第37話 バンド
「みんなー! 盛り上がってるー!?」
「オォォォォォォォォォォォ!!!」
体育館に集まる所狭しと集まる同世代の人間達を沸かせる木崎レナ。根っからの明るさを所持している彼女は、文化祭というステージの主役に相応しい。
木崎は花形であるギター&ボーカルだ。しかし、俺が目を奪われたのは前髪が長くて顔が見えないドラムを担当している女子だった。
昔からアニメが好きな俺がバンドと聞いて思い浮かぶのは『ぼっちざろっく!』だ。
高校時代にバンドを組むのは陽キャ。
そんな偏見を打ち破ったあのアニメに影響された人は多いだろう。顔以外は規格外の陰キャである、あの主人公が自己表現に取り組む姿に俺も勇気づけられた。
あいつも、苦手なバイトを頑張っているのだ。俺も今日くらいは。
そう思い、動かない身体に鞭をうち社会という戦場へ飛びさせた日が俺にも何日かある。
あのドラムも、その手の口だろうか。
勝手に共感されても困るだろうが、俺は木崎とともにその女子を応援していた。
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「中川さんばっかり見てたでしょ」
演奏が終わり、囲まれるファンの群れから何とか抜け出し、体育館裏で缶コーヒーを飲んでいる俺の元へ駆け寄ってきて第一声で木崎にそう言われた。
ちなみに、末永は焼きそば屋の片付けがあるとか言って校内へと消えていった。
「中川さんって?」
「ウチのドラム」
「あぁ‥‥‥」
応援していたのは事実なので、否定できない。
「でも、ちゃんと木崎のことも応援してたぞ」
「そうなんだけど視線の7割は中川さんに向いてた」
そんなに見ていただろうか。
「まあ、仕方ないか。中川さんウチらの中でダントツで巧いしね」
「うん」
音楽に関してはズブの素人なので、あの人‥‥‥中川さんの演奏が巧いことは気づかなかった。しかし、せっかく違いの分かる男だと勘違いしてくれているのだ。ここは乗っかっておこう。
「あと、なんとなく若月さんに似てるし」
「‥‥‥そうか?」
そこは同意できなかった。
こう言ってはなんだが、見た目の華やかさは若月さんの圧勝だろう。
「似てる似てる。あの子は自分磨きを覚えれば化けると思うのよ。よく、厚化粧してもブスな集団が中川さんのことを馬鹿にしてるけど、アイツら見る目無さすぎ。少なくともポテンシャルはハンパない」
「ふーん」
気のない返事をする俺に、木崎は冗談を言う時によく見せる笑顔を浮かべる。
「あれだね。若林は焼きそばま美味しそうに食べてたし、目につく女の子は本物の美人さんが多いから‥‥‥」
まさかこいつ、人類史上で最もつまらないアレを言うつもりなのか? いや、それは木崎を侮りすぎている。いくら文化祭の大役をやり切ってアドレナリン全開状態でも、アレだけは言わないはずだ。
ふぅ。これこそが青天の霹靂ってヤツなんだろうな。そんな心配する暇があったら、自分の学校の文化祭の心配でもしてろよ。
「メンクイだね」
「‥‥‥」
やっぱり、文化祭って人間の知能指数を下げてしまう側面もあるのだなと再確認する若林拓也なのであった。
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