第29話 中二病・高二病・大二病
若林拓也は勉強ができるかどうかという話は、積極的にはしたくない。
何故なら、メチャクチャできるわけでもなければ、留年の心配をするほどではない中途半端な馬鹿だからである。
上記のウチのどちらかであれば、個性だと言い張って、あれこれ語れるのだが、プチ馬鹿という、絶妙に笑えないものは個性として面白おかしくすることは難しい。
我々の世代では結構珍しいのだが、俺はテレビが好きだ。YouTubeなどの配信も観るが、まだまだエンタメの世界で戦える力があると思っている。
そんなテレビは、クイズ番組がやたらと多い。
ああいう番組で活躍する芸能人は、有名大学を出た秀才が馬鹿と昔から決まっている。
クイズを鮮やかに答える存在と、視聴者が上から目線で見下せる存在がいることで、クイズはエンタメとなる。
将来、芸能人になる気もないし、なれる気もしないが、俺みたいなタイプは出演者候補から外されことだろう。
そんなことを考えながら、ノートから頭を上げた俺は、見慣れた自室に女性が2人いることを不思議な気分で見る。
「リラ姉さん。ここって‥‥‥」
「ん? どれどれ」
この理論は、勉強会でも適応されるものなのだと、現在進行形で証明されていた。
木崎レナプレゼンツ、若月先生による夏休みの宿題撲滅の会での俺の存在感は薄かった。
若月さんは、教師としてとても優秀だった。分かりやすい言葉で説明してくれるので、とても分かりやすい。
中学時代に、成績の良い奴に勉強を見てもらったことがあるが、言っていることの半分も理解できなかった。1番の原因は、俺の基礎知識不足なのだが、時点の原因もあったのではないかと個人的には思っている。
その同級生の使う言葉は、一々難しかった。
知らない横文字のオンパレードで、どうにも頭に入ってこなかった。勉強を見てもらっていた身分でこんなことを言うのは申し訳ないが、あれは「賢い言葉を使っている俺カッケー!」状態だったのではないだろうか。
俺はそういう症状のことを大ニ病と呼んでいる。
皆様がご存心の中二病は言うまでもないだろうが、実はこの上に高二病ってのがある。これは、バイトなどの外の世界を少しずつ知っていった結果、やたらと学校という機関を否定する病である。
「部活なんて下らない。一銭ももらえないのに、みんなよくやるよ」
「文化祭? 済まないがバイトで忙しくてね。準備も手伝えそうにないし、本番も来れるかどう
か‥‥‥あー、忙しい!」
みたいなことを言って、周りを白けさせる。
そのくせ、10年後に「あの時、ちゃんと青春しておけばよかった‥‥‥」と後悔するのだ。
そして、大ニ病。
これは、「専門用語使う俺、イケてるだろ?」という状態だ。
1年生で基礎を学び、ちょっと格好いいワードを覚えて、日常会話でも使ってしまうというもの。
あの時のクラスメイトは、中学生の段階で大ニ病に辿り着いていたのだ。それだけ自分に自信があったのだろう。
そんな大ニ病に患わなかったであろう、若月さんは俺達と同じ高さから説明してくれる。
対して、木崎レナ。
こいつは、最高の生徒だった。
一生懸命だし、分からないところは恥ずかしがらずに聞いてくれる。さらに問題が解けた時は嬉しそうにお礼を言ってくれるのだ。若月さんからしても教え甲斐があるだろう。
で、その間で半端にぶら下がっている俺は、変なプライドが邪魔をして質問をバンバンすることができない。
「はぁ‥‥‥」
こういう時に、人間性の差が出るよな。
「若林少年は、調子どうだい?」
拗ねかけていた俺の目前には、若月さんの顔面が現れた。
‥‥‥え。近い近い!
「えっと‥‥‥ここが‥‥‥」
「あー。それね。教科書貸してみ? たぶんちょっと前に‥‥‥」
教科書に集中する若月さんの顔が遠ざかっていく。
安心したような、名残惜しいような。
「‥‥‥フヘ」
そんな、男子の繊細な表情を見て、木崎が笑いやがった。
腹の立つ笑顔だったが、この心地いい胸騒ぎを経験することができたのだ。逆に感謝するべきだろう。
後で、ミスドでも奢ってやろう。
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