第27話 修羅場
何をしているかと問われたら、どう答えて良いか分からない。隠れてたというのも、ちょっと違う気がするし。
「‥‥‥」
「‥‥‥」
そのせいで、お互い無言になってしまう。
俺としては、とりあえず、この狭いテーブル下から脱出したいのだが、目の前に若月さんがいるため叶わない。ここでスカートを履いていたらラッキーだったのだが、図書館職員はパンツとルールで決まっている。
それにしても、この雰囲気はなんだ。何故、誰も喋らない。
この空気、どこかで見覚えがあるぞ。どこでだったか‥‥‥。そうだ。不倫ドラマだ。
最近、不倫をテーマにしたドラマが多いから、どんなものかと俺も観たことがある。
女性がハマるのも分かる。夫婦といえど所詮は他人同士なのだと思い知らされた。バレたらとんでもないリスクを負って快楽を求めるというのは、ギャンブルにも似た中毒性がある。
で、今俺が陥っている状況なのだが、あの手のドラマの修羅場に似ているのだ。
言っておくが、誓ってやましいことはしていない。しかし、ギャルと慌てて隠れている、自分を好きだと言っている男子高校生を見かけたら、そういう勘違いをしても仕方ない気がする。
こういう時、慌てることが最も泥沼にハマる悪手だと、ドラマで学んだ。あったことを理路整然と説明するしかない。
「あの‥‥‥」
「お、お姉さん! 違うんです!」
俺が喋り出す、ほぼ同じタイミングで木崎が、この戦場に参入してきた。
「私みたいな派手な女と一緒にいるのをお姉さんにバレないように、私が若林を無理やり隠れさせたんです! 紛らわしいマネしてごめんなさい!」
先進誠意。
その言葉を体現するかのように、木崎は必死に説明してくれた。目には薄ら涙が溜まっている。きっと、勇気を出して俺達の間に入ってくれたのだろう。
その誠意は、若月さんにも伝わったようで、険しかった表情が柔らかくなる。
「うん。分かったよ。こちらこそごめんね。変な空気にしちゃって」
「とんでもないです」
2人は頭を下げあっている。1番の原因である俺がこの謝罪合戦に参加しないのも不誠実だろうと思い、俺も頭を下げてみる。無視された。
「えっと。君は‥‥‥」
「あ! 木崎です。木崎レナです」
ひとしきり謝り倒した後、自己紹介タイムに移った。
「レナちゃん。良い名前だね‥‥‥。ん? レナちゃん?」
外面の大人の仮面を被っていた若月さんだったが、またしても画面にヒビが入る。やはり、昨日の夜更かしの会が影響しているのだろうか。
「もしかしてなんだけど、レナちゃんって小学生くらいの頃に家出して帰れなくなったことある?」
「はい! そのレナです!」
「え!? えー! 美人さんになったね〜」
久しぶりに会った親戚のおばさん化する若月さん。
「そんなそんな! お姉さんの方が一千万倍素敵ですよ!」
「は〜。そんなお世話まで言えるようになって。立派になったね〜」
「お世話じゃないですってー」
ほんわかトークに花を咲かせている女子達に置いてけぼりを喰らいながら、俺は思う。
(え? 木崎を覚えてるってことは‥‥‥)
今度は、俺が混乱する番だった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます