第3話 待ち人来たらず

 来ない。

 来ない。

 いつまで経っても目的の基板が来ない。

 基板が来ない限り、作ったプログラムが載せられない。そしてお金が貰えない。

 毎週毎週会議に呼び出されるが何も進展がない。時間だけが食われる。


「いつまでも基板が出ないのは迷惑なんですが・・」

「迷惑ですか?」と返って来る。

 当たり前だろうがこのクソT。お前は時間を過ごすだけで給料が出るだろうがこちらには一円も入らないんだぞ!

 腹が立ったが仕事を出して貰う側がそれを言うわけにはいかない。笑ってごまかす。


「これが回路図です。何か気のついたことはありますか?」

「そうですね。このIO出力をこちらの空いた入力に接続すれば自己診断に使えますね」

「なるほど・・」

 クソTはその場で回路修正を入れた。

 おいおい。

 この規模の電子基板はデバッグ中に最低でも2回は改版することになる。

 そのときに修正すれば済むことである。今修正したら遅れているハード出しがもっと遅れるだろう。

 駄目だ、こいつ。プロジェクトリーダーの癖に工数工程というものを全く理解していない。

 それなりに経験を積んでいるだろうにこの間抜けっぷりはどういうことだ。

 後で判ることだが、この人物、会社を移ってはそこでプロジェクトを滅茶苦茶にして逃げる常習犯だったのである。それも数千万円クラスの被害を与えるので下手な会社は倒産の憂き目を見ることになる。


 クソTとの会話は非常にイライラする。

 彼はG社の研究所にいたO氏と同じく、自分を賢く見せるために返事をする前にひと呼吸を置くというくだらないテクニックを実践している人間だった。そして己の頭の回転が普通の人間よりも遅いことに自分で気が付いていない。その結果、会話のキャッチボールがまったく成立しないのだ。一つ話を振るたびに十秒は黙り込む。

 堪らない。まるで前進をロープで縛られているかのようにもどかしい。だが、雇用主だ。我慢するしかない。


 胃が痛み始めた。

 たかだか40万円のためにどこまで苦労させられるんだ?

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