第1話 お仕事探し
トラ技の広告にプロジェクトを処理する契約者募集との文言を見つけてアポを取る。
行ってみると仕事を紹介された。
人材派遣は人材を紹介するが、この会社はフリーランスに仕事を仲介する。
ピンはね率はなんと驚きの50%である。
こんな商売がうまく行くのかどうかは追い追いと分かることになる。
見知らぬもう一人と一緒に担当のTに話を聞く。
これも後に分かるがTは私が出会った人間の中で一番のアホだと言える。頭の出来は少し人より鈍いぐらいなのだが、それに加えてひどいサディストに強烈なエゴ、そして何としても自分を凄い人間に見せたいと言う強烈な欲望を持っていることから最大級のどアホと判定した。
愚鈍ではない。劣悪なのだ。
今でもTは嫌いというより(私にしては珍しいことに)憎んでいる。だから名前に尊称はつけない。
仕事の内容は新しく作る大型基板のOS作り。これは自動薬梱包機に使うものだ。
医療機器は電子基板にも鉛の使用ができないなどの厳しい基準があるかなり特殊な分野だ。
その仕事を新規に応募してきた二人で分担してやれという。
正直がっかりした。箱が小さいのである。大した儲けにはならない。
二週間ほどの仕事と見積もり、四十万円で受けた。
基礎となるシステムはESOLという外資メーカーの提供するパッケージを使い、これにキー検出ルーチンやモニタプログラムなどの独自機能を組み込むのである。
二日ほどESOLの教習に出てクソ面白くもないシステムを学び、さっそくにモニタを作り上げる。
久々に少しだがお金が入ると期待していたが、最初からトラブルが起きた。
二週間後に出来たプログラムを持って集まると基板がまだ上がっていないというのだ。
ここに来るまで片道一時間、会議に二時間、戻りで一時間。それだけで半日が消える。
ブチブチ言いながら帰る。
一週間後また会議に出る。まだ基板が上がっていない。
・・結局一カ月経ってもまだ基板ができていない。その間も延々と会議には呼び出される。
わずか二週間分の工賃ですでに一カ月と半月が費やされている。
すでに大赤字の世界である。
5回目の会議のとき、もう半額でも良いからこれで終わりにしてくれと言おうとしたと、もう一人の作業者がこれで仕事から手を引かせてくれと先に言った。
「そうですか」間抜けのTが無表情に応じる。
「そちらで引き受けてもらえますか」
こっちに振って来た。いや、こちらも身を引きたいのですが。
この辺り私は気が弱い。何より仕掛りの仕事を途中で放り出すのが嫌だった。
技術者の誇り。実に余計な癖だ。
手慣れた人間ならばここで追加を請求しただろうし、マトモな担当者ならばその工数の話もしただあろう。
だがTはマトモではなかった。
こうして地獄の窯の蓋が開いた。
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