第9話
「剣聖様、追加のケーキをお持ちしました」
現れたのはひとりの少年剣士だった。
少年は緊張した足取りでアナスタシアに近づく。
それもそのはず、剣聖は今や国民の憧れなのだ。
少年はホールケーキをテーブルに置くと深呼吸した。
「もぐもぐ」
アナスタシアは満面の笑みでケーキを頬張っている。
しかし、その表情はだれにも見られてはいない。
兜を脱いだ彼女の眼前は黒衣の頭巾のようなもので隠されているからだ。
なぜそのような物をつけているのか。
その理由も単純である。
恥ずかしいから。
兜でフルフェイスを覆うのも同じ理由だという。
人里離れた裏フウマ村で生まれ育ったアナスタシア。
幼少より師匠との鍛錬以外で人に会う事はなかった。
それ故に彼女は、極度の人見知りとなった。
「ッ!!」
ケーキに夢中だったアナスタシアが少年に気付いたのは今更だった。
初対面の人物との不意の遭遇。
満足気な顔を見られたかもしれないという不安。
彼女にとって不測の事態。
アナスタシアは時が止まったように硬直した。
一方で少年もまた、憧憬の的を前に固まっていた。
「わふ」
時間が停止した世界の中で動くことができたのはアシモフだけだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録(無料)
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます