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「ここは冠伎町で、私は御雷帝釈ッス」

『御雷......ミカヅチ......じゃあ、ミカと呼ばせてもらうわ』


 おおい、いきなりあだ名呼びッスか。


 ミカは少女の足先から頭頂まで、瞼をぱちくりさせながら見ていた。

 バイクが少女に変わったことを、まだ信じられずにいたのだった。


「あのぉ......」

『なによ?』

「おまえは何者なんッスか?」

「だから、おまえじゃあない!」

 少女は怒鳴りながらも、両手を交差させ、ポーズをきめた。


『僕は【感電】! いつか、最強の【ゾク車】になるゾク車よ!』


「ゾク車......ってなんッスか?」

 聞き慣れない単語だった。

『ゾク車ってのはね、僕もよく分からないんだけど......』


 ミカは思わずズッコケそうになった。

 自分で言っといて、分からないんッスか!


『けど、僕のような存在がゾク車だってことは分かるわ』


 ――感電のような存在がゾク車。


 つまり、言葉を話せて、女の子に変身できるバイクがゾク車だと。

 ミカの中でそう理解が進んだ。


「じゃあ、そのゾク車とやらが、なんでこんなところに?」

『それはねぇ……ちょっとあなた?】


 感電がじっとミカを見てくる。

『この筋肉、この体躯……』

「へっ……へっ……?」


『強そうねぇ!』


 へっ?


『いやぁ、こんなに強そうな人に出会えるなんて、流石、僕。運がいいわ!』 


 へっ、へっ、へっ?

 ミカは状況が飲み込めず、おどおどと感電を見つめていた。


『ねぇ、ミカ。僕の【乗り手】になりなさい!』

 乗り手――また、新しい言葉が出てきた。


『とりあえず、ゾク車は乗り手がいないと、力を発揮できないの』

「つまり、バイクに乗る人ってことッスか?」

『似たようなものね!』

 感電が笑顔で頷く。


『ね、あなた、お願い。僕の乗り手になって、僕を最強のゾク車にしてよ!』


 最強のゾク車か。

 ミカは心の中で呟く。


 最強、最強、最強……。

 その言葉が脳味噌中を反芻した時、自然に口から言葉がこぼれる。


「最強だなんて、なんだか子どもっぽいッスね」

 ミカの言葉には、明かな冷笑が含まれていた。

『子どもでも、いいじゃあない! つまらない大人よりはマシよ。そう思わない?』

「悪いけど、子どもにつきあうつもりはないッス」


 一瞬、重い空気が場に流れた。

 そして。


『……今のどういう意味?』

 感電が顔を真っ赤にしてミカに詰め寄る。


 しかし、ミカは冷静な表情で答えた。


「そのままの意味ッス。夢なら勝手に一人で見ていてください」


 感電の瞳が赤く光った。彼女の体内から、激しいバイクのエンジンのような音が轟く。


 ミカはその圧迫感に潰されそうになる。

 まるで蛇に睨まれた蛙のようだった。


 しかし、すぐに目の光は消え、音もやんだ。


『あっそう。乗り手になるつもりがないなら、さっさと消えてくれる?』

 プイッと感電はミカから顔をそむける。


 ミカは感電に背を向けると、振り返ることなく、颯爽と走り去っていった。

 心中にかすかな寂しさが渦巻いているのを、見てみぬフリをしながら。

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