2
「ここは冠伎町で、私は御雷帝釈ッス」
『御雷......ミカヅチ......じゃあ、ミカと呼ばせてもらうわ』
おおい、いきなりあだ名呼びッスか。
ミカは少女の足先から頭頂まで、瞼をぱちくりさせながら見ていた。
バイクが少女に変わったことを、まだ信じられずにいたのだった。
「あのぉ......」
『なによ?』
「おまえは何者なんッスか?」
「だから、おまえじゃあない!」
少女は怒鳴りながらも、両手を交差させ、ポーズをきめた。
『僕は【感電】! いつか、最強の【ゾク車】になるゾク車よ!』
「ゾク車......ってなんッスか?」
聞き慣れない単語だった。
『ゾク車ってのはね、僕もよく分からないんだけど......』
ミカは思わずズッコケそうになった。
自分で言っといて、分からないんッスか!
『けど、僕のような存在がゾク車だってことは分かるわ』
――感電のような存在がゾク車。
つまり、言葉を話せて、女の子に変身できるバイクがゾク車だと。
ミカの中でそう理解が進んだ。
「じゃあ、そのゾク車とやらが、なんでこんなところに?」
『それはねぇ……ちょっとあなた?】
感電がじっとミカを見てくる。
『この筋肉、この体躯……』
「へっ……へっ……?」
『強そうねぇ!』
へっ?
『いやぁ、こんなに強そうな人に出会えるなんて、流石、僕。運がいいわ!』
へっ、へっ、へっ?
ミカは状況が飲み込めず、おどおどと感電を見つめていた。
『ねぇ、ミカ。僕の【乗り手】になりなさい!』
乗り手――また、新しい言葉が出てきた。
『とりあえず、ゾク車は乗り手がいないと、力を発揮できないの』
「つまり、バイクに乗る人ってことッスか?」
『似たようなものね!』
感電が笑顔で頷く。
『ね、あなた、お願い。僕の乗り手になって、僕を最強のゾク車にしてよ!』
最強のゾク車か。
ミカは心の中で呟く。
最強、最強、最強……。
その言葉が脳味噌中を反芻した時、自然に口から言葉がこぼれる。
「最強だなんて、なんだか子どもっぽいッスね」
ミカの言葉には、明かな冷笑が含まれていた。
『子どもでも、いいじゃあない! つまらない大人よりはマシよ。そう思わない?』
「悪いけど、子どもにつきあうつもりはないッス」
一瞬、重い空気が場に流れた。
そして。
『……今のどういう意味?』
感電が顔を真っ赤にしてミカに詰め寄る。
しかし、ミカは冷静な表情で答えた。
「そのままの意味ッス。夢なら勝手に一人で見ていてください」
感電の瞳が赤く光った。彼女の体内から、激しいバイクのエンジンのような音が轟く。
ミカはその圧迫感に潰されそうになる。
まるで蛇に睨まれた蛙のようだった。
しかし、すぐに目の光は消え、音もやんだ。
『あっそう。乗り手になるつもりがないなら、さっさと消えてくれる?』
プイッと感電はミカから顔をそむける。
ミカは感電に背を向けると、振り返ることなく、颯爽と走り去っていった。
心中にかすかな寂しさが渦巻いているのを、見てみぬフリをしながら。
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