第19話 ランクを上げる
薬師ギルドでの授業を終えた次の日、俺達は冒険者ギルドにランクを上げる為の手続きに来ていた。
ちなみに、今日の分の『エクスポーション』は既に作り終えている。素材はキリタン達が取って来るし、俺は肩に張り付いたブエル先生の言う通りに調合するだけの簡単なお仕事なのだが、報酬としてかなりの額を貰っている。
いや一応ね? ブエルにも貰って良い物か聞いては見たんだよ? だって完全にブエルの受け取るべき報酬だし。だが。
『構わぬから、お主が受け取っておけ。私に使い道などないし、お主を介して顕現しているのだからな。好きに使うが良い』
などと、太っ腹な事を言ってくれたのでウハウハである。後で何か礼でも考えないといけないな。
◇
「おめでとうございます。これでお二人はFランク冒険者となりました。こちらが、新しいギルドカードになります」
「「ありがとうございます!」」
俺達はキータから『F』と大きく書かれた新しいギルドカードを受け取り、早速次の依頼を受ける事にした。『F』ランクの次は『E』ランクを目指さなくてはいけない。しかも、のんびりとしていられる時間も無いのだ。
次の『E』ランクに上がる条件は『討伐依頼を五件こなす事』だ。これはそう難しい事ではない。少なくとも俺達にとっては。
「ランクが上がったばかりなのに、もう次を目指すのですね」
「はい。俺達は一ヶ月以内にDランクまで上げるつもりですので」
「…………Dランクですか。このタイミングでDランクを目指すと言うのは、まさか戦争に参加するつもりですか?」
キータが俺達の目的に気づいて眉を寄せた。まぁそれも解る。戦争ともなれば人は簡単に死ぬ。確かに手柄を立てる可能性もあるが、大抵の者は手柄など立てられずにあっさりと死んでしまうのが戦争だ。
本来であれば、俺だってそんな危険な物には出たくない。
だが、そうも言ってられない事情があるのだ。これは人同士の戦争ではない。これは、いつの間にか行動していた魔王と、知らない間に沸いていた勇者の戦いなのである。
魔王を名乗る者は、今いるブルウッドの街があるトルホク王国の隣国、ロクハド王国の西にある砦を占拠しているらしい。
本物かどうかは分からないが魔王はかなり強いらしく、ロクハド王国軍は攻めあぐねていた。そこに現れたのが『異世界より降り立った勇者』だ。
突然光の中から現れたという勇者は、神より与えられた力で、魔王軍のモンスターを圧倒して撤退に追い込んだらしい。
その為、現在は『ロクハド王国の勇者』として祭り上げられ、対魔王戦の切り札となっているようだ。
ちなみに、このモンスターを率いる魔王とやらが、神が用意した者なのかは不明である。しかし、この勇者の方は神が用意した者で間違いないと、メテオラは言っていた。
俺達がここにいる元凶である『腐れ神々』は、一神につき一体の魔王と、何人呼んだのかは分からないが勇者を用意して、ゲームをしているらしい。
って言うか『勇者』も『魔王』も自分で用意するとか、どんなマッチポンプだよ。ちなみに魔王は神々の遊びを全てを承知しているが、勇者は何も知らないらしい。
つまり『勇者』は、自分は神に選ばれた者で、この世界の命運を託されたという使命感に燃えている訳だ。……趣味が悪いったらないな。
「魔王はかなり強いです。神々が世界を滅ぼす為に用意した存在ですから。しかし勇者を前にした時だけは弱体化されます。対峙した勇者よりも少し強い程度まで。それが神々から『勇者』に与えられた特性です」
「それって、勇者以外が魔王に勝てないようにか? ……いや待てよ? なら勇者がレベル1で魔王に挑んだら…………」
「その勇者の側に強い仲間がいれば、簡単に魔王を倒せるでしょうね。ですが仮にも魔王に挑むんですから、勇者は強くなる為に自身のレベルを上げているはずです」
「まぁそうだよな。魔王を倒すべくモンスターと戦いながら、先に進んでいく勇者のレベルはどんどん上がり、それに応じて魔王も強くなるという訳か。……ん? なぁメテオラ。それって俺も勇者って事か?」
知らない間に俺も勇者になっていたのかと思ったのだが、メテオラは俺の問いかけに首を左右に振って答えた。
「いえ。残念ですがスルガ様にはそこまでの力はありません。隼人さんを勇者には出来なかったんです」
「…………そ、そうか」
「はい。なので隼人さんの前に立っても、魔王は特に弱くなったりはしませんので、気をつけて戦って下さい」
「…………お、おう」
この世界を救いに来た奴らの中で、俺だけハードモード何ですけど?
…………とまあ話が逸れたが、つまるところ、この勇者と魔王の戦争に参加する条件が『ランクD以上の冒険者』なのである。
ランクがDになりさえすれば、勇者と共に魔王軍を攻める兵の一人として戦争に参加出来る。なので俺達は、ランクをDまで上げたら隣のロクハド王国へ移動するつもりだ。
正直なところ、別に俺が魔王を倒そうとか考えている訳ではない。勇者が魔王を倒してくれるのなら、それはそれで良い。しかし、見届けるくらいはしておきたい所だ。
もう一つ言えば、勇者がどんな奴かも見ておきたい。何せコチラには魔王の一柱であるメテオラもいるのだ。魔王を倒すのが勇者の役割ならば、敵対する事も有り得る。
その見極めの為にも、俺達は戦争に参加しておきたいのだ。
と、そんな思惑を胸に、俺達は討伐依頼をこなしていく。
俺はもちろん変身して戦ったが、メテオラも大活躍だ。当初は俺だけで戦うつもりだったのだが、メテオラが……。
「僕は隼人さんの相棒ですから! 僕も一緒に戦います!!」
なんて事を強く言って来たのだ。まぁ正直、『時空間破壊龍』なんて存在であるメテオラは、俺なんかよりずっと強いからな。この見た目だからって侮ってはいけない。
何せメテオラは、グレイトボアの突進をその細腕で難なく受け止め、更にはグレイトボアの巨体を文字通り殴り飛ばしたのだから。
数メートルも飛んでから地面に落ちたグレイトボアは、確かめる迄もなく即死だった。いや本当。明らかに俺より強い。
そんなこんなで、俺達は薬師ギルドでのエクスポーション作りと平行して討伐依頼をこなしていった。そして三日後には、Eランク冒険者になっていたのだ。
この次はいよいよDランクだ。その昇格条件は『ダンジョンの踏破』である。
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