第18話 究極のポーション
『いいかね、薬草を取って来たが薬を作る時には薬効が落ちていた。で済ませてはいけないのだ。なぜ薬効が落ちたのか? どうすればそれを防げるのか? これを考えねば先に進めない』
「「はい! ブエル先生!!」」
薬師ギルドの研究室を借りて、俺は『ブエル・フォーム』に変身して授業を行っていた。…………いや、授業をしているのは俺の左肩にくっついた薬効の悪魔『ブエル』なので、俺はその助手だな。
ブエルを紹介した当初は、悪魔という事に警戒心を持っていたギルド職員達だったが、ブエルの持つ薬学の知識の高さにすっかり心酔していた。今では何の躊躇いもなく、ブエルを先生と呼んでいる程である。
『さて、君達の一番の関心事であるフジスミ草だが、これは採取した時点からすぐに薬効が失われ始める。それはこの薬草の周囲の魔素を集めて蓄えるという性質が、薬効と密接な関係にあるからだ。ハヤトくん、アレを』
「…………はい」
俺はブエルに言われるままに、フジスミ草一株の葉っぱを大きい物を選んで数枚取り、残りを纏めてすり潰した物を最初に取っておいた葉っぱに塗った。
『いまハヤトくんがしている様に、一株をすり潰した物で残りのフジスミ草の根を包んでやると、元からの薬効が失われずに二日は持つ。これがフジスミ草の採取での基本であり鉄則だ。覚えておきたまえ』
「「おおーーーー!!!! 」」
「あれはフジスミ草の軟膏だな! 軟膏にそんな使い道があったとは!!」
「確かに軟膏にすると、あれだけ劣化の激しいフジスミ草が、しばらくは傷薬としてつかえるのが知られている!」
「軟膏で根を包んで劣化を防ぐとは、考えもしなかった…………!」
ちなみにメテオラはと言うと、薬師ギルドの面々に混じって授業を受けている。何がそんなに楽しいのか理解出来ない。
『次に、君達の作った『ポーション』を先程見せて貰ったのだが、何だねこれは?』
「は、はい! ワシが作ったハイポーションですじゃ」
このギルドの中で、一番とも言える高齢の老人がそう言った。周りの反応を見るに、結構上の立場の人のようだ。
『…………ふむ。君達はフジスミ草を使ってハイポーションを二十本作ると聞いた。それは事実かね?』
「はい。ですが、それはブエル先生の教えを受けたフジスミ草だから作れるもので、本来の我々が採取するフジスミ草では、通常ではポーション三本が限界となります」
それを聞いてブエルがやれやれと首を左右に振って溜め息をついた。俺の体も一緒に動くから止めて欲しい。
『君達はフジスミ草の本来の力を知らな過ぎる。ハヤトが私と契約をしなければ、ずっとこのままだったのかと考えると嘆かわしい。研究者とは、もっと研究に貪欲でなければならん。諸君らには、欲が無さすぎる』
そう言ってブエルは、俺に指示を出してポーションを作り始めた。
実は早朝に青年から話を聞いた後、『ブエル・フォーム』になってブエルに話を通したのだが、その際に森での材料集めをやらされたのだ。
フジスミ草はもちろん、他の薬草や川の水、鉱石なんてのも探させられた。ブエルの指示通りに動いただけではあるのだが、結構大変だったのだ。
ちなみに、ここに来た時に俺達をここに呼んだキリタンに、森で採取して来た物を見せたのだが、首を傾げていた。
俺は食い入る様にこちらの作業を見る薬師ギルドの職員達の視線に居心地の悪さを感じながらも、ブエルに言われるままにポーション作りを終わらせた。
ブエルの指示通りに、朝森で集めた材料で作ったそれは、先程見せられたポーションとも、ハイポーションとも、明らかに違う輝きを放っていた。
「こ、これは!? ……ま、まさか、そんな事が!?」
ハイポーションを作ったと手を上げた老人が、俺が作ったポーションに震える手を伸ばした。その血走った目は、信じられないと雄弁に語る様に、限界まで開かれている。
『これが、本来フジスミ草で作られる回復薬『エクスポーション』だ』
「「エ、エクスポーション!!??」」
「エクスポーション? ……それは、どのくらい凄いポーションなんですか、ブエル先生?」
そんな質問をする俺に、信じられないという視線が集中した。いや、仕方ないだろ。知らないんだから。
『フム。順序立てて説明すると、『ポーション』は深いのは無理だが浅い怪我なら治る。『ハイポーション』は、腕などを斬り落とされてもちゃんとくっつけていれば繋がる。『エクスポーション』は死んでなければ何でも治る。失った手足だろうが生えてくる』
「…………マジで? 万能薬じゃん!?」
え!? 朝集めた材料でそんなとんでもない物を作ったの!? 薬効の悪魔ヤベェ!?
『だが、誰でも作れる訳ではない。魔力とスキルが必要だ。今この場で作れるのは私だけだが、修行を重ねれば、ここに居る何人かは作れる様になる筈だ。何十年後になるかは分からんがな』
ブエルのその言葉に、薬師ギルドの人間達の目がギラリと光った。たとえそれが何十年も先の話だろうと、自分達でも作れるという希望があるからだろう。
「エクスポーションが作れるなら、領主様の依頼を達成できます! エクスポーション一本で樽一つ分のハイポーションが取れますからね!」
「おおっ! 確かに!」
「ハヤト殿、ブエル先生、どうか力を貸して下さい!」
『魔力量的に、私がエクスポーションを作れるのは日に二本だ。足りるかね?』
「では、我々もハイポーションは作り続けますので、あと二日お力をお貸し下さい!」
『ウム。しかし材料集めは自分達でやるように。報酬がわりに、少し多めに取ってきて貰おうか』
「心得ました! ではよろしくお願いします! ブエル先生!!」
俺達は薬師ギルドの頼みを快諾した。俺としても『エクスポーション』なんてとんでもない薬は持っておきたいし、何よりこれは俺の為にもなる。
今回の授業、これはキリタンに依頼をださせて、冒険者ギルドを通した指名依頼として受けている。これで俺がクリアした依頼は四つになった。
まず『リンゴの収穫』、『薬草採取』、『薬師の授業』、そして『グレイトボアの討伐』。グレイトボアは偶然そうなっただけなのだが、ギルドが依頼として認めてくれたのだ。
これで俺は、冒険者としてFランクへと昇格できる。Fランクへの昇格条件が、討伐依頼を一回、通常依頼を三回こなす事だったのだ。
だが、ここで止まってはいられない。俺はとある事情で、後二ヶ月の間にDランクまでは上げる必要があるのだ。
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