義兄さんの気づかい
「まおを夜更かしさせてしまうし、そろそろ帰ろうか。優斗くん、あれだけ暴れた後だし、アキトくんのこと、送ってもらえるかな?」
アキトくんが危ないから、と苦笑いをする。
器用に片手で後部座席の扉を開け、まおをチャイルドシートに乗せた。ケルベロスは自ら車に乗り、義兄さんは僕からネコマタを受け取り、手慣れたように首輪をつけ、リードをつけた後、後部座席に乗せる。
「ケージに入れた方がいいんだろうけど、ケージを怖がっているみたいだから、ケルベロスと同じものの方が安心するだろうし、せめて家に着くまでは首輪とリードつけるの我慢して」
その言葉にそばに寄り添うケルベロスの安心しきった姿を見て納得したのか、リードとハーネスをつけた状態でも安心したようで、ケルベロスの毛皮に顔をうずめるように眠ってしまった。
「じゃあ、アキトくんのことよろしくね」
そういって、そそくさと自宅へと帰っていってしまった。
……まおの夜更かしを防ぐためもあるんだろうけど、姉さんが起きて、また暴れるのを防ぐためでもあるんだろうなぁ。
まだ、冷静に考えられる状態になるにはまだ早いし、今目が覚めたら、間違いなく僕が八つ当たりされるし、何が悪かったのか理解できるまで逢わない方がいい。生まれてから20うん年、あの姉の弟をやっていたのだから、手に取るようにわかる。
「俺らも帰るか、先輩」
「うん」
腕を優しく掴まれ、車まで誘導される。
……優斗は僕のことを、まおと同じくらいの小さい子だと思ってない? と視線を送ると、息を吸うように空気を読むのが得意な優斗は、苦笑いをする。
「そんな真っ黒な隈ができてるのに動いて疲れているだろ? 大人しく、お世話されてなさい」
優しく肩を押され、助手席に座らせられる。自分でつけられるのに、わざわざシートベルトまでつけてくれた。
ぼんやりしているうちにいつの間にかエンジンをかけていて、僕にアイマスクを手渡してきた。
「これから眠るだけなんだから、電灯とかのライトは刺激になる。着いたら教えるから、アイマスクつけて休んでて」
「道案内とか必要でしょ……?」
そういえば、優しい目で僕を見つめて、首を横に振る。
「優紀さんの気づかいで、まおの面倒を見るために引っ越ししたことも知っているし、住所も知ってる。
なんなら、前のアパートの住所も知ってた。
先輩が接触するまで待つつもりだったけど、未遂で何か起こしたときのために、一番信頼されている俺が住所を把握しておいた方が良いって知らされていたんだ。だから、道案内は必要ない」
道案内が必要ないってわかっているから、優紀さんは俺に先輩を送ることを任せたんだよ、ぬかりない人だと苦笑いして、真っ黒になった隈を親指のはらで撫でた。
「そろそろ行くか」
昔から、僕の睡眠状態を自分自身よりも理解している優斗だから、これ以上抵抗せず、大人しくアイマスクをつけた。
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