冷静なちち上


 ネコマタを連れて、車があるところに戻ると、疲れたように車に寄りかかって黄昏る義兄の姿があった。

 うっすら頬に青馴染みができているのが、車のライトからわかる。


「暴れ疲れたんだろうね、眠っているよ」


 その子が探していた子? と癒しを求めて、ネコマタに手を伸ばし、手慣れたように抱える。あらかじめ家族がどんな人なのか伝えていたから、警戒はしているようだけど大人しかった。

 義兄の手つきは優しくて、そのぬくもりに絆されたのか、数分後には身を任せるネコマタの姿があった。


「やっと、決別できたね。

……昔から心配だったんだよね、二人のこと」


 そういって、僕の頭を撫でる義兄さん。

 ……珍しい。僕との距離感はどこか一線を引いたような感じなのに、今はそれがなくなった。

 それよりも、だ。今、昔って言った……?


「先輩があまりにも鈍感で、危機感がないから、あの人を見張るのに協力してもらってたんだ。優紀さんはあの人と、中・高と同級生だったから」


 え……?

 僕と似ている人が身近にいれば、大騒ぎしているはずなのに、記憶にない、そんな内心を読むようににっこりと笑っていう。


「響さんも気づいてないと思うよ。彼女が、アキトくん以外の周りに目を向けるようになったのは、大学生の頃からだからね。

執着度合いのピークは中学から始まって、高校あたりまでが一番ひどかったから。それにクラスの一軍にいることに重きをおいてたし、君以外はどうでもいいって感じだったよ。君に似ているクラスメイトがいるなんて思ってもいないんじゃない?」


「近親婚の危険性に気づいてから、アキトくんに似た誰かと結婚することに重きをおくようになってから、周りの異性に目を向けるようになったの。……今まで恋愛していなかったのもあるけど、弟ならこうしてくれるのに、なんてばかりいっていたから、恋愛トラブルだらけだったよ。

学科が違ったし、大学生になってからは君に似ているこの顔も隠さなかったから、僕は君に似ていたし、君に被害がいかないように細かいトラブルは代わりに対処していたけど……」


 大きいトラブルほど、本人を引き当てちゃうんだよね~と苦笑いする。


「優紀さんもなかなかあの人の彼氏の被害にあっていたから、まさか結婚までするとは思いませんでしたけど」


 「それは僕も」と穏やかに笑い、「君は相変わらず、響さんのことが嫌いだよね」と苦笑いする。


「響さんに対して、恋愛感情がある訳ではないんだよね。ずっと、見守ってきたことで、情が湧いちゃって。

僕は弟以外に情がわかない薄情な人間でね。最初はアキトくんが命をかけて、弟を助けてくれた恩返しをするつもりだったんだけど、長く見守っていくうちにふたりに情がわいてね、これもまた愛かと思って、結婚することにしたの」


「響さんには感謝してるよ。

こうして、薄情な僕が愛情を向けられる人間を増やしてくれたんだからね」


 僕の頭を撫でた後、ネコマタを僕に渡し、まおを抱っこする。

 まおはその言葉の意味を理解しているのか、嬉しそうに義兄さんの首に抱き着いた。


「僕には響さんがこれからどんな行動に出るか予想できないけど、あまり心配しなくていい。アキトくんはもう、僕とまおの家族だからこれからも健康になるまで支援を続けるし、子育ても手伝ってもらうからね」


 予想ができないといっているけど、姉さんがやりそうなことは見守ってきたから、理解しているんだろうなと思った。

 ……理解はしているけど、姉さんのすることを止めるつもりはないんだろうなとも。



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