第6話
「今日は電車に乗って、遠出です!」
テレビでふかしたジャガイモを見たらしく、食べてみたいとのことだったので電子レンジで温めたものを、もひもひしているまおにそう告げる。
せっかく電車に乗るので、まお専用のパ〇モを作ってあげようと思っている。なにごとも経験だ。
「ケルベロスのところにいくのか?」
「そうだよ。今日の予定は、ペットショップに行って、同じ施設にある保護犬カフェに行きます」
「楽しみだ」
ケルベロスのことを知れるのが楽しみなのか、まおはにこぉと笑った。かわいい。
パ〇モを作るところから、お金を入金するところまで完璧にこなし、電車の入り口に怯えながらも無事に隣町のデパートにたどり着けた。バスに乗るのも初めてだったらしいが、完璧に乗り降りできていた。えらい。
「ここがペットショップです」
「うむ。この動物も飼っていたぞ。ずいぶんと小さくなったな。ネコマタも、資格がなくても飼えるのか?」
指をさしたのは、猫。おやおや、これは猫も飼うことになりそうだぞ? とても目がキラキラしてらっしゃる。
「飼うのに許可がいる種類もいるけど、ペットショップにいるような種類は資格はいらないと思う」
「そうか!」
うーん、幼児が入れる保護猫カフェを探すかぁ……とぼんやり考えていると、「あらぁ! まおくん?」と声をかけられた気がし、振り返れば、にこにこした女性が立っていた。おや、彼女はまおの隣で、詰め放題の極意を懇切丁寧に教えてくれた人だ。
「つめほうだいをごきょうじゅしてくれたふじんだな、あのときはたのしかった」
まおもどうやらおぼえていたらしい、さすがだ。
「覚えていてくれたの? 嬉しい。楽しかったなら、よかったわ。今日はペットショップに用があったの?」
「もちろんだ。たのしいことをおしえてくれたひとをわすれるなど、しつれいにあたる。きょうはけるべろすのべんきょうしにきたのだ」
ケルベロスで通じるわけがないので、すかさず「犬について勉強しに来たんです」と補足する。まおの世界観に適応するのが早く、女性は、
「あら? ここのペットショップにそんな強そうな犬いたかな?」
まおの感覚に合わせてくれた。
「けるべろすほどのつよさはもとめてない。まおは、このせかいのけるべろすにきょうみがあるのだ」
「そうなのね。素敵なケルベロスに会えるといいわね」
さすがは、小学生のお子さんがいると言っていただけある。幼い子どもが持つ不思議な世界観だと理解して、合わせてくれている。まあ、まおが魔王様なのは恐らく、事実なんだけどね。
まおくんとお友達になりたいとのことなので、連絡先を交換をして、女性と別れる。
「日本では、ペットを飼う方法は僕が知っている限り四つ。ペットショップで、気に入った子を買う。ブリーダーから気に入った子を買う。犬を飼っている人から生まれた犬を譲ってもらう。そして、保護犬を飼う、の四つ。まあ、特別な方法もあるんだけど、時間がかかるからスタンダードな方法はこれだと思う。
で、初めにペットショップね。とりあえず入ってみようか」
「うむ」
「この世界のケルベロスは、基本的に狩りはしない。中には仕事をしたりするけど、まおが接する機会が多いケルベロスは、愛玩動物になるね」
うむ、と返事は返ってきたものの、表情は暗い。どうしたんだろうか。
「考え込んでいるみたいだけど、どうしたの?」
「まおも、きょうにむけてよしゅうをしてきた。どうがでたくさんけるべろすをみたが、ここにいるけるべろすはちいさいきがする。それに、ぜんせにもまものをはんばいするしょくぎょうはあったが、こんなにほそいこはおらんかったし、へやもこんなにせまくなかった。……まおは、ここでけるべろすをさがすのは、むりかもしれん」
そうか、まおはそう感じたんだね、だから暗い表情をしていたのか。ケルベロスは保護したって言っていたし、飼うとなったら保護犬を引き取る方針で行くか。まあ、まおが飼いたいのは、ケルベロスであって犬ではないんだろうけど。
「じゃあ、ケルベロスを見るのは保護犬カフェにしようか。でもね、他人が苦手な子もいるから、来客があったときにケルベロスを守るために、ああいう小屋にいれる訓練は必要なことなんだよ。それは理解してね」
そうゲージをさすと、まおはハッとした顔をして、
「……けるべろすにとってプライベートなくうかんということか、りかいした」
納得したらしい。
「ペットショップは、ケルベロスを飼う場所なだけではないんだ。ご飯とか、必要なものを飼う、ケルベロスのデパートみたいなものなんだ」
これがケルベロスのご飯だよ、と指をさせば、まじまじとパッケージを見ていた。
「これはおいしいのか? けるべろすはなまにくをたべていたが……」
「人が食べたら、お腹壊すと思うよ。ここの世界のケルベロスは狩りをしたりとかしないから、生肉を食べるほどエネルギーを必要としないだと思うよ。食べすぎは、健康に悪いからね」
ご飯には不思議そうな顔をしているなぁ、かわいい。次はケルベロスを飼う上で必要不可欠なリードを説明しないとな。まあ、昨日、散歩している姿を見て違和感を覚えていないから、必要性は理解してそうだけど。
「次はこれ。リードと首輪。首輪は飼われているよと示すために必要で、リードはケルベロスを危険な目に合わないようにしたり、他の人を万が一襲わないようにするためのものだよ」
「ふむ。それはかいぬしのせきむだからな、りかいしている」
うん、さすがだね。まおなら、家族にしたい子が現れても、責任をもって最後まで見てあげられそうだ。
「よし。次は保護犬カフェにいこうか。保護した犬が人なれするための練習する場所だよ。野良で保護された犬もいれば、残念ながら悲しい思いをして保護された子もいる。そういう子たちが新しい家族を探しているんだよ」
どこの世界にも悲しい思いをして、保護されるけろべろすがいるのだな……とまおは遠い目をしていた。
「いくのやめる?」
ペットショップにのショックを受けていたようだし……。
「いや、まおはいく。きっと、まおがいくことで、けろべろすたちのごはんだいになるのだ。すこしでも、たのしくすごしてほしい」
まおの勇気を、僕が止めてはいけないな。暗い表情をし始めたら、カフェから出ればいいし、いってみるか。この決断が、英断だったと自画自賛することになるとは思ってもみなかった。
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