第4話

豪華観光列車「オーシャンビューエクスプレス」は、美しい海岸線を進みながらも、車内には緊張感が漂っていた。叔父の三田村幸一探偵は、冷静に状況を分析し、捜査を進めていた。彼の独特な捜査手法が、この密室殺人事件の真相を浮かび上がらせるために動き出していた。


まず、叔父は高橋信也のアリバイに疑問を抱き、何度も質問を重ねることから始めた。ラウンジでの最初の対話は、単なる会話のように見えたが、叔父の質問は鋭く、意図が明確であった。


「高橋さん、事件が発生した時間帯、あなたはキッチンにいたとおっしゃいましたね。」三田村の声は穏やかでありながら、その背後にある緊張感が高橋に伝わっていた。


「そうです。カクテルを作っていたんです。」高橋は冷静を装って答えたが、その目には微かな動揺が見え隠れしていた。


「カクテルの準備に時間がかかったようですが、その理由は?」三田村の質問は続いた。


「道具が見つからなかったんです。」高橋は少し曖昧な答えを返した。


「なるほど。しかし、キッチンの整頓具合を考えると、それは少し不自然ですね。」三田村は微笑みながら、次の質問を準備していた。


ダイニングカーに移動した後も、三田村は高橋への質問を続けた。彼の質問は、表面的には無害に見えるが、実際には巧妙に組み立てられ、高橋のアリバイを崩すためのものであった。


「高橋さん、あなたがキッチンにいた時、他の乗務員は何をしていましたか?」三田村の声は相変わらず穏やかであった。


「彼らは各自の仕事をしていました。特に何も特別なことはなかったはずです。」高橋は少し苛立ちを見せながら答えた。


「他の乗務員からも確認しましたが、あなたの姿を見た者はいなかったようです。これはどう説明されますか?」三田村の目が鋭く光った。


「それは…たまたまだったのでしょう。」高橋の声には動揺が混じり始めた。


三田村は次に、列車の監視カメラ映像を確認するため、操作室へと向かった。監視カメラの映像は、列車内の様々な場所を捉えており、全ての乗客の動きを記録していた。叔父は慎重に映像を再生し、一つ一つのシーンを確認していった。


「この部分、少し不自然ですね。映像が一瞬途切れているように見えます。」三田村はモニターを指差しながら言った。


私は画面に映し出された映像を見つめながら、その細かな違和感を感じ取った。映像の中で高橋がキッチンに入る様子は映っていたが、その後の動きが不自然に途切れていた。


「ここがポイントです。映像が編集された痕跡があります。」叔父は冷静に結論を導き出した。


次に、三田村は高橋の個室へと向かい、さらに問い詰めることにした。個室に入ると、高橋は明らかに緊張していた。


「高橋さん、監視カメラの映像を確認しましたが、あなたの動きに不自然な点があります。映像が編集されている可能性がありますが、これについて説明していただけますか?」三田村の声には、確信と冷静な怒りが込められていた。


「そ、そんなことはありません!私は何もしていません!」高橋は必死に否定したが、その言葉には力がなかった。


「高橋さん、真実を話してください。あなたが何をしたのか、全てを話してもらう必要があります。」三田村は一歩も引かず、真実を求め続けた。


「もう1つ、いいですか?」三田村は一瞬の間を置き、再び静かに口を開いた。「あなたがキッチンに入る時の映像には、このグラスが映っていません。しかし、出てきた時にはグラスを手にしていました。これはどう説明されますか?」


高橋は沈黙した。彼の顔に浮かんだ動揺が、全てを物語っていた。ついに観念し、全てを自白した。


「私は家族を守るためにやったんだ…松田が私を裏切ったせいで、家族が苦しんだんだ…」高橋は涙ながらに語った。


「松田は私の親友だった。しかし、彼は私の信頼を裏切り、ビジネスの成功を独り占めにした。彼のせいで、私は家族に必要な治療費を捻出することができなかった。私の妻は病気が悪化し、息子も重病にかかってしまったんだ。私は彼を許すことができなかった。」


三田村は静かに高橋の言葉を聞き、理解を示しながらも、正義を貫くために動いていた。「あなたの気持ちは理解できます。しかし、復讐が家族を救うことにはならない。真実を見つけるために、もっと違う方法があったはずです。」


高橋は肩を落とし、涙を流しながらも、全てを話し終えたことで少しだけ心が軽くなったように見えた。彼の自白により、事件の全貌が明らかになり、列車内の緊張感は次第に和らいでいった。


列車内の捜査はこうして終わりを迎えたが、叔父の冷静な判断と鋭い洞察力が全てを明らかにした。彼の捜査手法は、いつもながらに独特でありながらも、確実に真実を引き出すものであった。「真実は、いつも一歩先にある。」叔父の言葉が、私の心に深く刻まれた。

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