第26話
リンの話が終わると、アイリーンは顎に手を当てながら軽く唸った。
「うーん……たしかにそれらしい何かは見かけていませんわね。たとえあったとしてもその形がわからないと判別も出来ませんわ」
「そりゃあたしかにな。オーマも見てねぇかぃ?」
「見ていない。それらしい気配というのも感じなかった」
「だよなぁ……となると考えられるのは」
リンは海に視線を向ける。
「陸じゃなきゃ海ん中だよな」
「たしかにここは港町だったわけですし、その可能性は高いと思います。ですが、どうするのですか? 私達は誰も海の中に潜って探すだけの力はありませんよ?」
「そのために俺の仲間達がいるんだ。海と言えばって奴もちょうどいるしな」
リンは夜行の書を出現させると、とあるページの上に手を置いた。すると、夜行の書から二つの光の玉が飛び出し、それは海女の姿をした女性と大きな体を持った黒いモノに姿を変えた。
「海坊主、トモカヅキ、おめぇらの出番だぜ」
「オイラ達の出番って事は海の中に何かあるのか~?」
「恐らくな。だから、海の妖の中でも潜るのを特に得意としてるおめぇらに力を借りようと思ってる。良いか?」
「もちろんさ、親分。探し物は具体的にわかってるの?」
「明確な形とかはわかってない。だが、ここにあった町や住民達を別の次元に飛ばすだけの力を持った何かがあるはずだ。おめぇらも気を付けながら探せよ?」
「あいよ。海坊主、ちゃちゃっといくよ」
「りょ~かい~」
海坊主とトモカヅキが揃って海中に潜っていくと、アイリーンは海を見ながらリンに話しかけた。
「リン、あの二人はどんな妖怪なんですの?」
「海坊主とトモカヅキは海で暮らす妖だ。海坊主はあんな風に海上に現れては船を沈めようとしたり沖に誘い込んだりして人間を襲う奴で、トモカヅキは海女っつー職業の人間の姿をして近づき、仲間だと信じこませた上で海産物を渡す振りをしてそのまま底の方まで引きずり込む奴だな」
「どちらも危険なタイプの妖怪ではあるのですね」
「そうだな。だが、海に潜るっていう事に関しちゃあアイツらが適任だ。他にも海の妖はいなくもないが、あんまり多く出しても何かあった時に被害が拡大しちまう。だから、アイツらを呼ぶくれぇがちょうど良いんだよ」
「そうだな。さて、あ奴らが探っている間に私達も何かをするべきだが、何をするつもりだ?」
リンはマリアに視線を向ける。
「とりあえずマリア達にもう少し話を聞きてぇな。消失現象が起きる前に何か無かったかぃ?」
『これといっては無かったと思うけれど……ここの住民達も変な事はなかったって言っていたしね』
「その様子では変わった人物が訪れたという事も無さそうですわね」
『変わった人物……そういえば、勇者はどうなったのかしら』
「勇者?」
マリアは頷く。
『ええ。魔王様に仇なす存在として女神が選んだ存在がいたの。それで私達も勇者と戦うための準備はしていたんだけど……』
「そんな奴の話はこれまで聞いた事がねぇな。だが、女神さんはこれまでに色々な奴に姿を見せてきたって言ってたからな。その中に勇者がいたんだろ」
『そうでしょうね。まあ勇者も流石にこの消失現象に巻き込まれてると思うわ。あなた達が勇者の行方について知らないわけだし』
「だな」
リン達が話していたその時、トモカヅキと海坊主が海中から姿を見せた。
「親分、待たせたね」
「おう、お疲れさん。なんか見っけたかぃ?」
「海の中に神殿みたいなのがあった~」
『それはたぶん私が拠点にしていた物だと思うけど、それが巻き込まれてないのが引っ掛かるわね』
「中は調べてみたかぃ?」
「それが入れなかったのよ。恐らく結界みたいなのが張られてるわ」
「結界……なら」
リンはニヤリと笑うと腰に差した刀を手にした。
「こいつの出番だな」
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