~インディバル・デイ~ 最初の四日間
灰狼
初日 初見殺しだろ?
ついこの間、私はインディバル・パーシュート社に合格した。それも出だしから上級士官だ。
嬉しいことだ。まあこれから頑張っていくわけだが、今頃他の奴らはどうしてるかな?
そう思いながら寮に荷物を入れる。この寮が今日からの家だ。結構長く使うと思う。なにせ今まだ二十二歳だ。
こっから何十年もここにいるとなると…大切にしないとな。
それにしてもセイレンが落ちたというのは意外だった。私が受かるというのだから彼女も受かるとおもったが。
でもしょうがないさ。これもまた人生だ。私は荷物片手に構内の地図を見た。ずいぶん設備も新しい。
おまけに配備されたのは新型機、パーシュート三型だ。
新しい設計の四脚機体でリフレクターも通常の物理反転ではなく、重力磁気反転方式を使っている。
しかも変形するらしい。ただ、唯一残念なのはその凄さが全くわからないということだ。
あとで勉強しないとな。さてと、次は予備倉庫を見に行こう。
寂しいわけでもないが、私は1人寂しく予備倉庫に行き、中にいる私の先輩のサンダース隊長に話しかけた。
「隊長、予備倉庫ってこんな深かったですっけ?」
「こんなもんだぞ。なにせ何百機も入れるためにビル作ったら、攻撃で倒れるかもしれん。それにこっちの方が都合がいいのさ。」
言われてみればそうだ。私は予備倉庫を見て、気が遠くなる思いになった。
なにせこの下がどんだけ深いかわからない。
さらにはここに何百の機体があると考えると…うぅっ、整理するだけでも嫌気がさしそうだ。
「大丈夫か?」
自分でもわかる。若干顔色が悪い。ちょっと青味掛かっている。
「大丈夫です。」
彼はそうかと言って私の方に手をのせた。ゴツゴツしてるが温かみのある手だった。
「そういえばの話にはなるんだが、君は今日が初めてみたいだな。上位士官か。まあ、頑張れよ。」
そう言って彼は次の場所に行った。今度は作業スペースだ。なぜか落ち着く場所になっている。
小さな町みたいだ。さらに小さい部屋みたいなプレハブがある。
こいつは嬉しい。しかもすぐ横に色々部品が大量にあるから、なんでも作れる。こいつはすごいや。
「ちょっと君、いや…えっと…」
困りげな隊長だった。頼むから名前くらいは覚えてくれぇ…
「エースです。」
「そうかエース、ちょっと悪いが野暮用ができた。軽く中に入って何かやっててくれ。多分数時間かかる。」
「わかりました。」
「よし、じゃああとで。」
そうして隊長はそそくさと…あれ、あそこどこだっけ?
…ああ、社長室だ。おそらく彼は社長室に向かった。
「さてと、何作るかな…ってこれなんだ?」
早速ちょっとわからない。
なんでこの部屋に土台ごとアームドスーツの指が置いてあるんだ?
まさかこれが例の初見殺しか?
いやでも流石に誰かが組み立てたものだろう。
これに触れるのは良くない…とおもってたらなんか貼ってあった。
『新入りへ。暇つぶしに分解でもしとけや。 レイダース隊長サンダース』
あの隊長…暇つぶしにも抜かりないだとぉ?
まあいい。そういう奴もいるもんだ。さてと、まずはどこから取り組むべきかな?
指の関節的にこれは人差し指か。まずは関節部から一つずつ外していこう。そしてトンカチなどがありそうな工具箱に手を伸ばした。
そして持ち上げると…って、軽っ!なんだこれ…ちょっと待てよ、まさか中身がないとかいうなよ。
そうして中身を開けるのだが、また例のブツが貼ってあった…
『新入りへ。マイナスドライバーだけやるからこれでどーにかしろ。
まあ、余裕だがな。(笑) レイダース隊長サンダース』
次会ったときにあいつの存在も片付けるとしようか…
っていうのは置いておいて、早速マイナスドライバーで関節部をこじ開けようとした。
しかし力が強すぎたか知らないが、マイナスドライバーが折れた。簡単に言おう。詰んだ⭐︎
さてと、どうするべきか。私はずっと睨めっこして装甲ガチャガチャやってみたが、取れる気配がない。
どうしようか…まあ、関節部がダメなら指の外枠装甲から外すか。
そして土台の下に潜り、何か外せそうなところがないか探った。するとそこには完璧に私が詰んだというお知らせと共に第一の試練が訪れた。
いや、大一だ。
マイナスのネジだ。
これどうする?そうおもって折れたマイナスドライバー片手にこじ開けようとしたが、どうにも摩擦が足らない。
さあどうする。部屋に何かないかキョロキョロと探す。するとちょうどいいものがあった。
ゴムシートだ。これを折れたマイナスドライバーに巻けば、行けるはず…
そう言ってまいてねじを回すと…ってあれ、ああ、逆だった。
さてと、どうにか回してみるとなんとか取れた。さてこれをあと十一本か。
はぁ〜〜〜
どうすんのこれ?取れる?もういいや、この際努力と根性が最強だということを証明してやるぅ!!オラァァァ!!
…そうしてなんとか1時間以上かけて装甲板のネジを全て外した。
装甲版を外すと、中には恐ろしいほど複雑なトランスミッションとギアが入って、それがまたチェーンと繋がっている。
なんて美しいんだ。開けただけの甲斐があった。それにしても綺麗にぴったり重なっている。
感動する。こいつはすごい。素晴らしいの一言に尽きる逸品だ。
まさか彼はわざわざこれを見せるためにこれをやらせてくれたのか?
…って待てよ、ここまで苦節約三時間、それでこんだけの報酬って舐めてる?マジで新入り舐めてる?
まあいい。そろそろ野暮用も片付く頃だろう。
そうおもった矢先、例のヤツが現れた。
「外したのか。マイナスドライバーだけで?」
「はい。」
「ほとんどの奴らはとっとと俺がいない間にトンカチ取りに行ってそれでこじ開けてたけど…まさかあのネジに気づくとは。めざといな。」
え?それできたの?じゃあトンカチ欲しかったんだけど?
「え?トンカチ使うのってアリなんですか?」
「本当はダメだ。ちなみにこれなんでやったか知ってる?」
初見殺しだろ?知ってるよ。
「知らないです。」
「お前の本性と根性見るためにやったんだよ。根性ないやつはこの会社には要らない。
ぶっちゃけると、これで君を首にしようかどうかを決めるところだった。」
やっぱ大当たり。初見殺しだ。
「え?じゃあもし私がトンカチ使ってたら?」
「軽く言ってさよならだ。」
危なかった。でもいつものど根性が役に立ったようだ。嬉しい。
まあ、新入りになったからにはど根性でどうにかしないといけないところが多いからな。
「ところで、エース。君はあの世界の工科大学のうち帝王的存在であるセントラル・センチュリオン工科大学卒業生だって?」
「そうです。まあ、そこ以外に目指すところがなくて、ここだけ受けたんですよ。そしたら一撃合格を掴みまして、楽しく工科学やってましたね。」
先に言っておこう。この大学に入ってからはど根性で成績毎回一位だったからど根性の大切さがよぉ〜くわかる。
「そうか。すごいな。俺には真似できない芸当だ。」
「私にはトンカチ使わずど根性なしでこんなことすることはもう2度と真似できませんよ。」
「ははは!君にはセンスがあるねぇ。言ってくれるよ。」
でもやっぱりここはいい会社だ。本当に新入りにはとことん”優しい”ところだ。
…ってもう2度とやってたまるか!!コンチキショウが!!
なぜか疲れた。さてと、そろそろ寮に戻るか。あたりも暗くなったことだし。そういえば昼飯食ってないな。
まあいっか。
月が頭上でみている。その中を歩いて、誰もいない寮に行く。
「ただいま〜…って誰もいないか。」
1人の寮は寂しい。と言ってもいいこともある。なんでも独り占めできる。だから風呂も一番風呂、テレビもソファーも独占。好きな番組見放題。
でもそれだけだ。ああ、なんか誰か同級生来ないかな?トラファルガーが来たら楽しいだろうな。
あいつが来たら間違いなく毎日ベースを上の部屋でやってるだろうな。別にいいけれども。あいつのベースめっちゃ上手いからな。
さて、まずは飯を作ってと。今日は豚キムチにキャベツのニンニク炒めと、米でいいだろう。まずはキャベツを切ってと…
さあ、できたぞ。いただきます。
うん!自分で言うのもなんだが、美味いな。ちょっとキムチが辛いが、そこもまたいい。それにニンニク炒めの方は旨味がしっかりしていて美味しい。
さて、飯も食い終わったことだし、風呂も行って、歯も磨いた。寮の風呂はクッソでかいからな。
いいことだ。おまけに普通の家の何倍もでかい。リビングには車二台をかつかつにして入れられる。さらに横の和室に限ってはバイク二台置ける。
それが左右についてる。それで一階だ。二階は七部屋ある。それぞれが普通の寝室くらいあるが、めちゃくちゃ快適だ。しかも屋根が高い。眺めも最高だ。
普通なら一部隊か、班ごとに使うが、それを独り占めできるとは。全く有難い。
さて、そんな話は置いておいて、自分の部屋に行き、エレキギターを弾く。完璧だ。何もかもが整ってる。
そして旋律を奏でて、最後に自分の好きな曲をギターだけで弾いてみる。これもまた楽しいんだな。
ふぁ〜っ。
大きなあくびが出た。
そろそろ寝るとしようか。ギターをスタンドに立てて、アンプを丁寧にしまう。
そしたらあとはフッカフカの布団に包まっておやすみぃ!
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