採取☆マスター〜スキル【採取】を活かしてスローライフを送っていましたが、このスキル、実は戦闘でも最強でした〜

囲魔 美蕾

第1話

 スキル【採取】。俺、ソウヤが持って生まれたスキルだ。効果はあらゆる採取の効果を倍にすること。俺が一つのトマトを収穫すれば、どこからか二個目のトマトが手の中に現れる。そんな、不思議かつ平和なスキル。村の同世代は【剣術】とか【魔法】とかのかっこいい戦闘向きなスキルを持っているけれど、俺は自分のスキルに満足していた。

 俺ことソウヤはその【採取】スキルを活かして、ここ、ボッカ王国の北の果てにあるノーソン村で「採取屋」をしている。かっこつけた名前だけど、仕事の内容は至ってシンプルかつ平凡。「採取をすること」だ。

 例えば、村の畑の収穫を手伝ったり、牛の乳絞りをしたりのお礼をもらう。時には村の外に出て薬草の採取や鉱石を掘りに行ったりして、売り物にしたりする。そんな毎日だ。



 今日も村の外に出て、魔力の籠った宝石である魔宝石を掘ってきた。掘った魔宝石は全て収納袋に入れてある。収納袋は所謂魔法道具で、見た目の何倍もの容量があるカバンだ。俺が持っているのは昔成人祝いで両親がくれたウエストポーチタイプのもので、上限は調べていないが俺が畑一面の野菜を収穫してもいっぱいにならなかった。さて、この魔宝石たちはいったいいくらになることやら。目を金マークにしながら帰路に着く。



 そんな、平和に終わるかに思えた日の帰り道に、俺の平和じゃない日常の始まりが訪れた。



 村に向かう道のすぐ側に、魔物が見えたのだ。普段なら少し迂回して気付かれずにやり過ごして村にいる戦闘向きのスキルを持つものに任せるところだが、今回はそうもいかないようだった。蛇の魔物に誰かが襲われている。あれは――――


「ソニア様!?」


 ボッカ王国が第二王女、ソニア・ボッカその人であった。そういえば、今日ははるばる王都から視察にいらっしゃると村長が言っていた気がする。

 護衛の騎士は二人。この辺りは比較的魔物が少ないから、少数で良いと判断したのだろうか。それとも蛇の魔物に一飲みにされてしまったのだろうか。どちらにせよ、二人で容易に勝てる相手ではない。そう考えた俺は、加勢に入ることを決意した。自分が戦闘向きのスキルを持っていないことはわかっていたが、囮くらいにはなるだろう。

「加勢します!」

 と声を上げて接近すると、魔物を含めた全員の目がこちらを向く。騎士たちは明らかに動揺していた。確かに戦えるようには見えないだろうけど、そんなことより魔物を倒すかソニア様を逃がすことを考えろよ。

 一方で蛇の魔物は、完全にこちらを獲物と捉えたようだ。騎士よりも俺の方が弱いと思っているのだろう。口を大きく開けたままこちらに向かって突進してくる。

 こちらの対抗手段は……そうだ、魔宝石を掘るために持ってきたツルハシがあった。武器はこれでいい。あとはどう倒すか。騎士たちは当てにならなそうだし、自分でなんとかするしかない。

 そんなことを考えているうちに、大口がどんどんと近づいてくる。蛇の魔物の最も恐ろしいのは丸飲みだが、これは避ければどうにでもなる。動きは直線的だし、速さも全速ダッシュで横に走れば逃れられるだけのものだ。次は……牙だな。あれで噛まれれば体に穴が空いた上に毒をもらってしまう。問題は硬そうなところだが……。何度か攻撃するしかないか。嫌に冷静な思考でまとめると、目の前まで近づいていた口から横っ跳びで逃れ、さらに牙に向かってツルハシを振るう。すると、


 カーーーン!!


 という音とともに牙が折れ、地面に突き立った。一撃で牙が折れるという衝撃的な出来事に誰もが驚いている中、千載一遇の好機を逃すまいと俺はツルハシを蛇の後ろから懸命に振るい、しっぽを落とす。満身創痍になった蛇はまた突進してくるが、一度目と同じように回避し、今度は振るったツルハシが蛇の首元を捉え、頭を落とした。

 頭を落とされてはさすがの魔物も耐えられず、ドロップアイテムを遺し塵と化した。魔物は息絶えるとドロップアイテムを遺すことがある。ドロップアイテムは肉や皮、鱗のようなその魔物に関連するものの他、魔宝石や金属だったりもする。


「倒した……?」


 信じられない。俺はただの採取屋で、戦闘要員ではないはずだ。そんな俺が、単独で見上げる程もある蛇の魔物を簡単に倒してしまうなんて。

 いや、今はそんなことはどうだっていい。そんなことより、ソニア様の無事を確認しなければ。


「お怪我はありませんか、ソニア様?」


 そう尋ねるも、ソニア様ご自身に異常はなさそうだ。


「はい、助けていただいてありがとうございます。その、あなたは……?」


 と聞かれたので、


「申し遅れました。私はノーソン村の採取屋、ソウヤです」


 と挨拶を返しておく。


「あなたがソウヤ様だったのですね!ああ、神よ、この出会いに感謝申し上げます……」


 最悪の思いをしたはずだが、なぜか神に感謝を捧げている。どういうことか。いや、そんなことより、


「ここにいてはまた襲われるかもしれません。村に帰りましょう」


「あ、ええ、そうですね。そうしましょう」


 そういうやりとりをして、ドロップアイテムの回収に入る。ドロップアイテムはというと……


「牙……と、剣?」


 牙は恐らく戦闘中に折ったからであろう。が、剣はよくわからない。

 わからない点一つ目。ドロップアイテムが二つ落ちるなんて聞いたことがない。ドロップアイテムは一体につき一つのはずだ。それ以上落ちたケースは前代未聞だと思う。

 わからない点二つ目。武器が落ちるのもこれまた聞いたことがない。武器のもとになる金属ならたまにあることだが、武器そのものが落ちるのも前代未聞のことなのではないだろうか。

 何か世界初の新しいスキルを獲得したからなのだろうか。村に帰ったら教会で確かめようと決意し、俺はソニア様たちとともに改めて村への帰路に着くのだった。

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