宝物をたくさん持ち帰った桃太郎

@kudamonokozou

第1話

いよいよ鬼ヶ島が見えてきました。


桃太郎はしゃんと胸を張って、鬼ヶ島の鬼たちを見つめています。


猿は上手に櫓を使って、船をどんどん進めて行きます。


雉は羽をはばたかせ、鬼たちの回りをびゅんと飛びます。


犬は桃太郎の前に進み出て、真っ先に岸に上がろうと待ち構えています。


いよいよ、船が岸に乗り上げました。


犬は勢いよく飛びあがって、岸を走り出しました。


桃太郎もそれに続いて、岸に飛び降りました。


雉も岸に降りてきて、勇ましく歩き出しました。


猿も櫓を置いて、桃太郎に続いて駆けてきました。


岸には、大勢の鬼たちが待ち構えていました。


鬼のうち、二人が、

『桃太郎様ご一行、大歓迎』

と書いたのぼりを掲げていました。


そして鬼たちが、

「ようこそ鬼ヶ島へ!」

と、口々に叫びました。


鬼ヶ島に住んでいる犬たちがたくさん寄って来て、桃太郎のお供の犬と嬉しそうにじゃれあいました。


まるで、懐かしい友達に会ったみたいです。


「え、そうするとこの道中、きび団子しか召し上がっていないのですか。」

と、鬼たちが驚いた様子でそう聞きました。


「そうなんですよ。桃太郎は猿使いが荒くて。」

と、猿が言うと、

「それを言うなら、『桃太郎は雉使いが荒い』ですよ。」

と、雉が言うと、

「それを言うなら、『桃太郎は犬使いが荒い』ですよ。」

と、犬が言いました。


「あれ、桃太郎さんのこと、呼び捨てにしてよろしいのですか。ご主人様なんでしょう。」

と、鬼たちが聞きましたが、

「いやいや、私たちの方がずっと年上ですから。桃太郎なんて、まだおむつが取れたばかりの子供ですよ。」

と、猿が言いました。


「そうですか、そうですか。それでは早速、ご飯にしましょう。今日は晴れていて風も凪いでいますので、外で食事をお出ししようと思うのですが。」

と、鬼たちが言うと、桃太郎一行は、

「それが良い、それが良い。」

と、賛成しました。


鬼たちは、桃太郎たちの前にござをしいて、その上にたくさんの御馳走を並べました。


魚料理だの、山菜料理だの、おむすびだの、くだものだの、とてもおいしそうです。


「それでは、桃太郎様ご一行の御到着を祝いまして、いただきます!」

と、鬼の長があいさつをしまして、宴会が始まりました。


桃太郎たちはお腹が空いていましたので、むしゃむしゃとおいしそうに食事を食べました。


「ところで、鬼に角はないのかな。」

と、桃太郎がご馳走を頬張りながら、無邪気に、気になっていたことを聞きました。


「いや、参りましたなあ。鬼と呼ばれますが、ただの人ですよ。私たちは、昔からこの土地にずっと住んでいる者ですよ。」

と、鬼の長は、その禿げ頭を撫でまわしながら答えました。

「そうですよ。都の人間が、この人たちのことを勝手に鬼と呼んだのです。」

と、猿が桃太郎に教えました。

「へえー、そうなのか。これはためにになった。」

と、桃太郎は良い土産話ができたと喜びました。


お腹も一杯になったところで、鬼たちがお願いをしました。


「犬さん、この島の犬たちと一緒に並んで、お姿を披露してもらえませんか。」


犬はお安い御用と、鬼たちの前に、島の犬たちと並んで立ちました。


「ああ、犬さん、この者たちは大昔からこの国に住んでいる犬で、昔からの面影をそのまま伝えている犬なのですよ。ほら、ご先祖のような気がしませんか。」

と、鬼が桃太郎のお供の犬に言いました。


「そうなんですよ。一目見たときから、昔から会ってたような気がして、とても懐かしく思えるのです。ワンワン。」

と、お供の犬は喜んで言いました。


「うん、確かにそのように見える。犬たち、天晴じゃ。」

と、桃太郎は扇子を広げて、高く仰ぎました。


「だいぶ薄暗くなってきた。誰かすまんが、かがり火を焚いてくれんかの。」

と、年かさの鬼が言いましたので、別の鬼がかがり火を焚いてくれました。


「ところで、わしらもお猿さんと会うのは久しぶりですじゃ。この島にお猿はおりませんからのう。ほら、若い者なんかは、珍しそうにお猿さんをみつめていますでしょ。」

と、他の鬼が言いました。


そこで今度は、猿が鬼たちの前に立ちました。

「うわあ、お猿さんだ。」

と、島の子供たちが、嬉しそうに猿を見つめました。


なんだか人気者になった気がした猿は、嬉しくなって何度も宙返りをしました。


猿が宙返りをする度に、鬼たちは大人も子供も、

「ほーぅ、ほーぅ。」と、驚きの声を上げました。

そして最後に拍手をしました。猿は得意満面でした。


「うん、うん、猿も天晴じゃ。」

と、桃太郎はまた扇子を広げて、高く仰ぎました。


次は雉の番です。


雉は、皆の前にすくっと立ちました。


それだけで鬼たちは、

「ああ、さすがは国の鳥だ。なんと美しい。」

と、うっとりとしました。


赤い顔に、緑色にキラキラ光る胸、羽の美しい模様は芸術品のようです。


月明かりの中、かがり火が照らして、雉の姿は神秘的に輝きました。

雉は、ポーズを取ろうとして、その羽をばっと広げました。


「おーう、おーう。」

と、鬼たちはその豪華で華やかな様を見て、感嘆の声を上げました。


雉もその声に応えて、「ケーン、ケーン」と鋭く鳴きました。


ここで桃太郎が「天晴じゃ」と、扇子を仰ぐところですが、桃太郎は、すやすやと眠ってしまっておりました。

もうすっかり夜になっていたのです。


「それでは皆さん、お開きにしましょうか。」

と、鬼の長が言いましたので、皆で片づけをして、桃太郎一行は宿へと向かいました。


女性の鬼が、桃太郎を抱きかかえ、その寝顔をしみじみと見て、

「なんとかわいいお子なことよ。」

と、いとおしそうにつぶやきました。


次の朝、桃太郎は島の子供たちと、鬼ごっこやかくれんぼをして、楽しく遊びました。


帰る時になりまして、鬼たちは帰りのお弁当と、山の幸や海の幸で作られた保存食、すぐれた工芸品などをお土産に渡しました。


「皆、ありがとう!」

と、桃太郎はお礼を言って、扇子を広げて高く仰ぎました。


「また来てくださいね!」

鬼たちは、口々に桃太郎一行に叫びました。


船が小さくなるまで、鬼たちは手を振り続けました。


桃太郎は、

『聞くと見るとは大違い。鬼ヶ島に来て本当に良かった。』

と、つくづく思いました。

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