ラッキーちゃん、あっちへお行き!

おもながゆりこ

第1話

俺はこのたび六年付き合った、同級生の彼女との結婚を決めた。


まだ二十三歳で早いと言われるかも知れないが、

色々な事を考えると早く結婚して子どもを作っておいた方が後々楽だし、

会社でいつ転勤になるか分からないし、彼女は一緒にいて心地良いし、

少しでも若いうちにウエディングドレスを着せてあげたいし、

お互いよく話し合って決めた。




結婚するとなると色々する事があって大変だね。


まず俺の親に彼女を紹介、両親とも心から祝福してくれた。


この親が元気なうちに早く孫の顔を見せてやりたい。


出来れば三人は欲しい。




次に彼女の親に挨拶に行った。


彼女の親も快く俺たちを迎えてくれた。


で、四人で会話しながら食事していたんだけど、


少しでも間が空くと、彼女のお父さんが傍らにいる飼い猫を


「ラッキーちゃ〜ん」


と言いながら必要以上に可愛がるのが気になった。


こっちはタイミングを見て


「○○さんと結婚させてください」


と言うつもりだったが、隙がないんだよ。


ふっと会話が途切れるたびに


「ラッキーちゃ〜ん」


って、不自然に可愛がる。


言おう、言おう、としているのだけど、その「間」がない。


だんだん彼女も、彼女のお母さんでさえ気づいた様子で、不穏な空気が漂っていた。


言おう、言おう、さあ言おう、と身構えるたびに


「ラッキーちゃーん」


が始まる。


ったくもう!お父さんたら!


娘が結婚するのがさびしいのは分かるけど、そんな事してもしょうがないでしょ!


あ、また!


息を盗むように言おうと身構える俺の先手を打つように


「ラッキーちゃ〜ん」


と言って、俺に言わせまいとしている。


俺は後手にまわる間抜けな婚約者だ。


彼女もお母さんも俺に気を使っている。


「ラッキーちゃ〜ん」


何回言えば、気が済むの〜?


「ラッキーちゃ〜ん」


三十回くらい言っているよ。


「ラッキーちゃ〜ん」


はい、もう分かったから!


「ラッキーちゃ〜ん」


いい加減にしてくれーい。


「ラッキーちゃ〜ん」


このお父さんと一生付き合っていく自信がない!


「ラッキーちゃ〜ん」


ああもう、俺がへたばる。


「ラッキーちゃ〜ん」


お母さんも苦笑いしている。


「ラッキーちゃ〜ん」


俺がノイローゼになりそう。


「ラッキーちゃ〜ん」


こんなんで俺、彼女と結婚できんの?


「ラッキーちゃ〜ん」


このお父さん、バージンロードでもこんな感じで、娘を俺に渡すまいとするの?


「ラッキーちゃ〜ん」


もはや絶句。






ラッキーちゃん、あっちへおいき!


しっしっ!






追伸、俺は何とか彼女と結婚できた( ー̀дー́)و




めでたしめでたし。

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