第六章 救済〈3〉
「
そして、いつもの目元で横ピースのキメポーズとキメゼリフ。
「魔法少女アドリーって呼んでね❤」
俺は、生まれて初めて呆れながら涙を拭った。
「ハハッ、なんだよ……なんだよアイツ……復活すんの早すぎだろ……」
「アドリーちゃん!」
リイネが満面の笑みで駆け出し、アドリーに抱きついた。
そんなリイネの頭をなでながらアドリーは笑顔を浮かべた。
「どうだったリイネ、初めて魔法を使った感想は?」
「ビックリしたぁ! なの!」
「万一に備えて分離した時に、アンタに
「でも、でも、なんでアドリーちゃんは生き返ることが出来たの? 剣も刺さってなくて、傷も治ってるの」
と、答えたのはミース=キュアだった。
「わたしが、アドリーの死ぬ直前、に傷口から、月光蟲の卵を埋め込んで、おいた」
「月光蟲……なの?」
「魔蟲である再生蟲の、亜種。月の光によって、再生力を変化させる。これだけの、月光量があれば、通常、の何倍もの再生力を発揮、して宿主を守る。離れそうになった魂を、肉体につなぎ止める事すら、可能」
月光……? いや、月光って……
「そういうこと。リイネ、わかった?」
「なんだか、すごい虫さんだって言う事はわかったの――でもアドリーちゃん。鳥さんがビックリくらいの鳥肌が立ってるのはなんで、なの…?」
「当たり前でしょ! アンタと違ってアタシは蟲が大キライなの! それが自分の体の中に居ると思ったら、もうキモくてキモくて……まあ、手段選んでる余裕なんてないから仕方ないけどね――ミー、サンキュー。必ず助けてくれるって信じてた」
「勘違い、しないで。アドリーを殺すのは、わたし。勝手、に死なれたら、困るだけ……」
そんな会話に割って入るように俺は声を上げた。
「ちょっ、ちょっと待ってくれ! 再生蟲はわかるけど、月の光って、いったいどこにそんなものが? こんな日が高く昇ってんのに……」
と、アドリーは一変して空を睨みながら答えた。
「ダーリン、騙されないで。今は真夜中よ。アレが本当の太陽なわけないでしょ」
「えっ……?」
「今、太陽に見えているアレは月なのよ。魔力によって月光を何倍にも増幅させているだけ。それを夜明けのように見せかけて、コイツらは自分達の出現を演出したの」
「それじゃッ……!」
「そうよ。ダーリンの思っている通り、コイツらが天威と呼ぶ力は、単にアタシらとは魔法体系が違うだけ。根本は魔法なのよ。魔法陣も詠唱も必要としないけど、力の出所は同じ魔力なの。そうでしょ? まがい物の天の御使いさん」
リイネが放った
「まったく、アンタもダーリンに、とんだ猫かぶりを見せたもんよね。まあ、最初にそれらしい顔を見せるのは、いつものアンタらの手だけどさ。おかげであっちの世界じゃ、アンタらの支配のせいで、まともに動ける人間なんてほとんど残ってないわけだから」
と、倒れていたペイルが人型に戻って立ち上がった。
――傷が、もう回復している……
「なんとでも言いなさい、アドリアーナ。なんと言われようと、我ら天族の使命は変わりません。よもや災いの子が二人となった今ではなおさら!」
ペイルがリイネを睨む。だが、そんなペイルにアドリーは呆れた顔を見せた。
「アンタ、バカなの? 災いの子が、そう何人も現れるわけないでしょ。以前にも言ったけど、アタシにアンタらの原罪喰いという魔法が効かないのは、生まれ持っての膨大な魔力が
――……えっ?
「おいアドリー! リイネが災いの子って、そんなこと――」
「ダーリン、人間はね、二千年一度、その原罪を
「リイネが、人類の救世主……」
「ダーリンだってリイネの特殊性は何度も目にしているはずよ。どんなにギャン泣きしてる子供でも、リイネに笑いかけられると泣き止んで笑顔になる場面を。赤ん坊なんかは特に敏感だからリイネの純白の魂が見えて、それに安心するのよ」
「俺は、ただの特技だとばかり……」
「だから言ったじゃない。リイネは特別。魂の成り立ちが違うって。アタシがリイネの中で見ていた魂は、天使の魂って言ってもいいくらい無垢で真っ白なんだから」
そう言われれば、確かにそんな事を言っていた。まあ、当の本人の頭の上には『?』が大量に浮かんでいるみたいだが……
「外から見てもまったく気づかなかったし、あの日、リイネに出会えたのは本当に偶然。だけど、運命を感じずにはいられなかったわね」
そう言ってアドリーは、ペイルに不敵な笑みを浮かべる。
同時にペイルは声を上げた。
「ならばその運命、今すぐ打ち壊してあげましょう!」
ペイルが右手を高々と掲げる。マズイ!
「兄弟達よ! 我らが天威を持ってそこの災いの子を捕らえよ!」
周囲に居る天族達が一斉にリイネに向かって手をかざす。
「リイネッ!」
俺はリイネを守ろうと咄嗟に飛び出すが、その時だ。突然バイクが爆音と共に空から現れ、俺達とペイルの間に割って入ると、ドリフトをしながらその後輪で周囲の天族達を蹴散らした。
そうしてバイクを乗り捨て、降り立ったその姿は、黒の鎧兜に黒の大剣。
「半田先輩なの!」
シルヴィアン=パン!
「遅くなってすまない、アドリー」
「ホントよ。今までどこほっつき歩いてたのよ」
「うむ。ミースの蟲共をまいた後、次々に現れるモンスターがうるさかったのでな、元を絶ってきた」
言われてみれば、人間のモンスター化が止まっている。でも……
「なあシルヴィ、元って……」
「こちら側のゲートが発現していたのは、デビルズサーガのサーバーであったからな、ちょっとそのバイクを拝借して東京まで出向き、制作元にあるサーバーを破壊してきたのだ。まあ、どれがどれやら分からなかったのでな、制作会社のオフィスごとブッた斬ってしまったが。なに、死人は出しておらんから安心しろ」
「オフィスごとって……オマエ、被害総額いくらになると思ってんだよ……」
「ならば予は、あんな迷惑なゲームを作ったヤツラに損害賠償を請求したいところだな。毎晩、騒ぎにならぬよう人目に付かぬよう、気を遣いながらモンスター化した人間を元に戻してゆくのは意外に骨の折れる作業であったのだからな」
そう言えばアドリーが、死人が出る前にモンスター化した人間の処理には誰かが秘密裏に動いてる、って言っていたけど――まあ、不思議ではないか。根っからの武人って感じだし。
そしてシルヴィは、ペイルに向く。と、その瞬間、シルヴィは目に見えるほどの魔力を全身から放出した。その黒いオーラには、凄まじいまでの殺気と憎しみが込められているように思えた。
「久しいなペイル。この魔装クワイエンに貴様らの天威などと言うまやかしは効かぬこと、よもや忘れた訳ではあるまい」
「反逆の王……!」
「余の愛するアドリーばかりか、才賀、西城、小倉といった部のカワイイ後輩達に手を上げたこと、万死に値する!」
シルヴィは、黒き魔剣ゴウスツをペイルに突き立てる。
と、そこにリイネが声を掛けた。
「あの、半田先輩……でもリイネは、もう部活を……」
兜のバイザーを上げ、振り返るシルヴィ。顔つきが半田白に戻っている。
「なに才賀、あなた部活辞めるの?」
「でも……なの……」
「私はあの
「それじゃ、続けても、なの!」
「部活は自由意志。続けたければ続けなさい。ちゃんと相談してくれたら、私は女子のキャプテンとして責任をもって相談に乗るし、バスケだってちゃんと教えてあげる」
そう笑顔を見せる半田白に、リイネは満面の笑みを浮かべた。
「さっすがキャプテン」
「ちゃ、茶化すでない、アドリー」
そしてアドリーは、「んんー」と、背伸びをしながら前へと進みでた。
「さぁて、それじゃあ、久しぶりに三人で暴れましょうか」
アドリーの髪と瞳が、さらに燃え上がるように赤く染まり、赤い
「シルヴィ!」
「応ッ!」
「ミー!」
「わたし、をミーと呼ぶな……」
「二人とも、戦闘開始よッ!」
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