爆裂!魔王少女~異世界からの魔王がエロすぎて俺の貞操の危機なんだが~

和清(WaSei)

プロローグ

 あと少し――


 国内販売総数1000万本という空前の大ヒットゲームソフト。

 アクションRPG【デビルズサーガ】。

 プレイヤーは天よりの御使い、天族によって現実世界より召喚された勇者となり、魔界と化した異世界に平和を取り戻す為、悪魔に支配されてしまった五つの国を巡り、魔王を倒す冒険の旅に出る。

 その重厚なストーリー、数限りないクエスト、各所に散りばめられた裏技、細部まで作り込まれた世界観、目を見張るような美しいグラフィック。DLCも充実し、ユーザー同士のコミュニティや対戦も実装。そして、コマンド入力によって魔法やスキルが繰り出されるという格闘ゲームの要素を取り入れたゲーム性も広くユーザーに指示された。

 そのクオリティは群を抜いており、各ゲーム誌もユーザーも絶賛した。


『プレイするたびに新しい発見がある』

『一生遊べるゲーム』

『アクションRPGの最高峰』


 だが、完全攻略してエンディングを迎え、それを自慢気にネットにアップしようものなら、そのプレイヤーは一様に叩かれたのだった。


『それは完全攻略じゃない』

『表の攻略なんて誰でも出来る』


 デビルズサーガには、ある種のウワサが流れていたのだった。


『このゲームには、魔王を超える大魔王が存在する』


 つまり、裏ボスが存在すると言うのだ。それは大ヒットゲームにはよくある、ありがちなウワサ、ではあったが、メーカー側も販売促進の為か「もしかしたらあるかもね」などという否定も肯定もしないコメントを発表してしまった為、裏ボス探しは白熱した。

 あらゆる情報が飛び交う中、必ず言われる三つの情報が浮かび上がった。


〇挑戦権は一度きり。

〇裏ボスに選ばれたプレイヤーだけが辿り着ける。

〇動画、画像がなぜか残せない。


 確たる証拠が見つからないまま、裏ボスのウワサは完全に都市伝説と化した。しかし、情報は後を絶たなかった。


 そう、あと少し――


「アンちゃん、終わった?」

「あと少しだから。リイネ、今話しかけんな……」

「ハーイ……」


 三十二型の薄型液晶テレビの灯りが仄かに照らし出す薄暗い部屋の中には、十歳ほどの少年と少女の姿があった。

 少女に、アンちゃんと呼ばれた少年は、コントローラーを握りしめ、食い入るようにテレビに映るゲーム画面を見詰めている。

 少年がリイネと呼んだ少女は、あぐらをかく少年の膝を枕に寝息を立て始めていた。子供らしいショートカットの髪が、ふっくらした頬や桜色の唇に掛かっていたが、それを気にする様子もなく幸せそうな寝顔を見せていた。


「あと少し……あと少し……」


 ゲーム画面には、鎧を纏った勇者と、深くフードを被った黒衣の魔王。

 いくつもの難関をくぐり抜け、何人もの強敵を倒し、ようやく辿り着いた敵、黒衣の魔王。それこそがウワサの裏ボス、大魔王であった。

「ウワサは本当だった!」と、少年は歓喜し、黒衣の魔王との戦いはすでに一時間に及んでいた。

 そんな長時間プレイでも、少年のコントローラーさばきは素晴らしいの一言に尽きた。

 縦横無尽に繰り出される黒衣の魔王の炎系を中心とした魔法攻撃を紙一重でことごとく交わし、恐らくはこれが処理能力の限界であろうと思わせるようなスピードで猛攻をかける。

 少年は、黒衣の魔王を完全に追い詰めていたのだった。


「よし、魔力は充分……!」


 少年は瞬時に必殺技コマンドを打ち込む。勇者の剣は黄金色の光を放つ。


「これで終わりだ、ゴッド――」


 だが、勇者最大最強の必殺剣技を繰り出そうとした瞬間、少年はコントローラーを落とす。額には大量の脂汗を浮かべていた。

 そして少年は、画面の勇者が黒衣の魔王によって倒されるのと同時に、苦悶の表情で胸を押さえて前のめりに倒れたのだった。


「アーッハッハッハッ! 我を倒そうなど百万年早かったようだな!」


 画面にはGAME・OVERの文字が映し出され、黒衣の魔王の高笑いが響いた。

 少年は前のめりに倒れたまま。

 その異変に、少年の膝枕で寝ている少女は気付く事なく、相変わらず静かな寝息を立てているだけ……


 ……と、GAME・OVERの文字の後ろで制止していた黒衣の魔王が、突然動いた。


「ちょっとアンタ! なにブッ倒れてんのよ。クヤシイ!、とか、チキショウ!、とか、そういうセリフはないわけ?」


 ゲームのキャラクターであるはずの黒衣の魔王は、まるで意思を持っているかのように喋り出したのだった。


「ちょっと聞いてる!……って、死んでる?」


 少年は、息をしていなかった。

 と、黒衣の魔王は地団駄を踏みながら更に怒鳴り散らしすのだった。


「なぁに勝手に死んでんのよッ! こんなタイミングでアンタみたいな子供に死なれたら、アタシが苦労して築き上げた都市伝説が呪い扱いされるじゃない! ちょっと生き返りなさいよッ! 今すぐ生き返れッ!」


 だが、散々怒鳴り散らした黒衣の魔王は途端に肩を落とし、


「はぁァァァァ……」


 と、長い溜め息を吐いた。


「……んな事言ってもムダか。そう言えばこの子、生まれつき心臓が弱いんだっけ? 隣の子……リイネって言ったっけか? この子は何も知らずに寝たままだし。ノンキなもんね。おーい、リイネ。アンタの大好きなアンちゃん死んじゃってるよ――――ダメか。まあ、これも運命ね。アタシの知った事じゃないわ……」


 黒衣の魔王は、背を向ける。


「どうしてこっちの人間って、こんな簡単に死んじゃうんだろう……」


 と、再び地団駄を踏み始めた。


「あァァーッ! もうッ! このままじゃアタシの方が負けっぱなしみたいじゃない! なにが『これで終わりだ』よ! アタシはあんな攻撃避けられたの! 華麗に避けて、華麗に逆転するはずだったの!」


 黒衣の魔王はくるりと振り返る。


「あと少しだったのよ。あと少しでそっちの世界で受肉が出来たのに。あと少しでアタシの壮大な計画を実行に移せたのにィィィッ!」


 天に向かって吠える黒衣の魔王。だが、そのまま一息吐くと、黒衣の魔王は前方に向かって歩き出した。


「……でも、仕方ないわね。アタシとまともに戦えた奴なんて初めてなわけだし、そこはちゃんと褒めてあげないと。ああー、アタシってば、なんて心が広いんだろう」


 ずんずんと歩み寄ってきた黒衣の魔王が画面一杯にまで迫る。と、両手を前に出した瞬間、その両手は画面を突き抜けた。まるで某ホラー映画さながらの場面ではあったが、


「よいしょ――とっ」


 そんな声と共にテレビのフレームをまたぎ、後ろ向きに尻を振りながら出てくる様子には多少の愛嬌があった。

 そうして現実世界に降り立った黒衣の魔王は、前のめりに倒れている少年を前にしゃがみ、顔を覗き込む。

 と、頬を赤らめ、好色感丸出しに舌舐めずりを見せた。


「へぇ~、よく見たらカワイイ顔してるじゃない。ふふっ……」


 だが、すぐに慌てた様子で表情を変えた。


「……っと、色気出してる場合じゃないわね。こんなインスタント受肉じゃ10分と持たないし。さっさとやらないと」


 黒衣の魔王の体は、まるで空気に溶けてゆくかのように見る見る薄くなり始めていた。


「さあ、この美しき大魔王クイーン=アドリアーナ様がアンタの健闘を称えてご褒美をあげるわ。ありがたく受け取りなさい」


 そんなセリフと共に、黒衣の魔王は息絶えた少年の頬をその両手で包み、顔を持ち上げる。

 そして、そっと唇を重ねた。

 その瞬間、薄暗い部屋の中は凄まじいまでの光の渦に包まれ始め――――――


 しばらくして、デビルズサーガの裏ボスのウワサはパッタリと途絶えた。




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