海の青さ

湊 哨

わすれごと

 恋愛とは難しいものだ。少なくとも僕にとっては理解し難く興味のないものだった。お恥ずかしながら僕は、恋愛的な愛を知らない。沢山ある愛の上で僕たちは生きているが僕はその本質を知らないのである。人が人を好きになることは、子孫を残すためであり本能である。それは生物としての定めである。だが、それに加えて知能と感情が増えてせいで混沌としてしまうのだ。そんな面倒で答えのないものは、己に取って必要など無いものだと思っていた。ただ――。


 僕は大学で海洋を学んでいる。あまり友達というのも居ないような、世間では陰の者と呼ばれるような奴だ。ただ、一つだけの楽しみといえば、海を見ることだろうか。

 あぁ、そういえば――。

『お疲れ様、快。』

 呼ばれて一気に意識をこちらへ呼び戻される。声のあるじは同じ学部で同じ研究室に配属した旗淵はたぶちだった

「なんだ、旗淵か。」

『おう、卒論の方はどうだ?』

 旗淵は少し目元を緩めてそう聞く。まるで僕が全く進んでいないのだろうと煽りをむ眼で僕を見ている。

「あぁ、卒論ならあとは簡単にまとめを書いたら終わるさ。」

『え、あ、早くないか?う、嘘は良くないぞ。』

 煽り、というよりも仲間が居て安心しきっていたようにも思えてきた。だが、仲間だと思っていたやつがそうじゃなかったのが予想外だったのだろう。あはは、と頭を掻いている。

『そう言えば。さっきは水槽を眺めて何考えてたんだ?』

 確かに、話しかけられる前に何かを思い出せそうだったような。と顎を触る。

「さぁな。忘れた。」

『どーせまた海洋のことでも考えてたんだろ?ほんと好きだよなあ。』

 理解できねー。って顔をしているが、此奴も家では熱帯魚を毎日愛でている癖に何を言っているのだろうと思うが、乾いた笑いで応戦した。

『それにしても、なんでお前は海洋、というか海が好きなんだ?』

 眼を上にして考えた。特に何も目標のない僕がなぜ海に拘って来たのか、と自分でも疑念を持った。自分自身でもなぜか、というのはわからないらしい。

 「なんでだろうな。でも、好きなことには違いがないだろうね。」

 というなんとも曖昧な返事をしてまた水槽に目を向ける。

『ふーん。まぁ、いつもお前が何考えてるかわかんないしそんな感じだろうと思った。』

 そう言って手をヒラヒラさせながら、卒論やべーなどとほざいているのが段々と小さくなって行った。

 邪魔をしに来たのだろうかと少しばかりの苛立ちを腹の中に仕舞い込みつつ、睡魔がやってきた。最近は卒論のせいでロクに寝れて居ないから当たり前だろう。寝る。というよりも、意識がパツンと弾けるように僕は眠りに落ちた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

海の青さ 湊 哨 @minasyo_1110

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ