真暗な世界

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真暗な世界


 生まれつき、人が死んだりするような夢をよく見る。

 こういった夢はインパクトが強いので後々まで記憶に残っている事が多い。


 最近見たのは、八角形に八本の足がついた宇宙船とも飛行機ともつかない物がいきなり現れて人を焼き殺していく夢だった。苦しみも興奮もなく、恨み辛みも見えないそれが命を大量に奪っていく様子が酷く隔絶された存在であるように感じ、本能的に逃げ惑った。

 どれだけ逃げていたのかは知らない(己が狙われている雰囲気ではなかったのだからそこまで逃げる必要があったのかは分からないが夢なので)が辿り着いた地下道は恐ろしく荒廃していた。薄暗く、汚れっぽく人間の出入りが盛んであるとは思えない、そんな状態だった。

 そしてそこでまた人が死んでいる。あの巨大な何かがこんな所まで侵入したのかと恐怖心を抱いたが、目を凝らした所、どうも刃物を持った人間が人を刺して回っているらしい。

 巻き込まれたくない一心でそこからまた逃げ出したのだけれど、同じように人が死んでいるにも関わらず「恐怖と荒廃でおかしくなった人の凶行であろう」と考えが至れば何故か飛行物体よりも恐ろしくはなく、ただ単純に迷惑な存在だと思った。


 そして目が覚めた。



 その一つ前に見た夢では、銃撃戦に巻き込まれていた。

 大型ショッピングモールらしき場所に銃を持った人間が複数現れてパニックが発生したらしい。始まりが遠い所だったからか、所謂事態は最悪という状態で漸く「これはダメだ」と気付いた。

 どこから来るのか分からない銃弾が濁流のように飛び交い、中州で辛うじて身を伏せ生き残る。そこで何故か老婆と子供を見つけてしまった。その瞬間、ここで己が死ななければならないのだと悟った。

 そしてその場に立ち上がり「助けてくれ、助けてくれ」と声を出し始めたのだが、己を含めて三人しか姿は見えない。銃を握るのがどういう相手なのかも分からない。そんな中で命乞いをしている己が酷く馬鹿馬鹿しいと思えた。そして悲しくもなった。誰もが正しいと言うだろう心情と、誰もが認めるだろう最善の行為で、けれども無意味に命を落とさなければならない、そういう義務的な現実が。


 そして目が覚めた。



 近く見た夢は飛行機内だった。

 飛行機には己ともう一人、誰か分からない人物だけが乗っていた。

 その人物とはどういう関係だったのか、また状況だったのかは分からない。

 ただある瞬間、突然飛行機は上昇し、その後炎上して急降下を始めた。がくんと揺れて墜落を始める機体。足元は割れそうな程に頼りない。どんどん体は前のめりになっていく。

 当然恐怖はあり、強く死も感じた。一方で怒りもあり状況に対して憎悪を抱いていた。

 しかし死を限界まで近くに思った瞬間、何故か急に冷静になった。周囲は炎上しているが、己は熱さを感じていない。また火災に巻き込まれた時には真っ先に鼻や喉、眼球等の粘膜が熱で傷むと思っていたがそれら全て無事であり、また周囲を認識出来る事に気付き、はっきりとこれは夢であると理解した。

 抗えない筈の死からいきなり解放される。


 目が覚めた時、少し混乱をした。



 記憶にある、最も古い夢では迷宮の中をさ迷っていた。何故そこにいたのかは分からない。けれども入った時には××が一緒にいた。

 一緒にいた××は初め比較的冷静であって、こちらを引き連れて歩こうというような雰囲気だった。けれどもいつになってもそこから抜け出す事は出来ず、気付けばその姿は見えなくなっていた。

 己はただ一人になり、心細い気持ちになり、誰かに救われたいと思い、けれども結局は孤独だった。

 右も左も分からない、どちらへ行ったとしても正解があるとは思えない。仕方がないからただ歩く。景色も何だかよく分からず、段々と緊張で気分が悪くなっていった。

 そんな時に空を見上げて辺りを見回した。

 すると次の瞬間、己の身は空に浮かび迷宮から抜け出していた。

 上から見ても到達点の分からない迷宮は恐ろしかった。そこから抜け出せた事にただ安堵していた。

 そんな状況で己は××の死体を見つけた。

 悲しく、虚しく、恐ろしくもあったが見捨てられた気分でもあったので怒りもあった。

 そして諦めざるを得ないのだという現実だけが残った。


 そこで目が覚めた。

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