東京シャドウズ
猪木洋平@【コミカライズ連載中】
第1章
第1話 陰キャとギャルと白雪姫
「ねぇねぇ! 今日のアレ、見た!?」
「アレって?」
「例のオカルトサイトだよ! 影を奪われた人っていう画像が出回ってるの!!」
朝のホームルーム前、教室のギャルたちが騒いでいた。
俺は窓際の席に座って、外を眺める。
最近、この高校ではオカルト話がブームになってきているようだ。
「見てみなって! ほら、これってうちの制服っぽいでしょ?」
「うわっ! ホントだ!!」
「ヤバくね!?」
ギャルたちはキャッキャと、そのサイトの話題で盛り上がっている。
影を奪われるなんて、あり得ないのに……。
「はぁ……。くだらない」
俺は小さく呟く。
そして、ため息をついた。
「何か言った? 浅倉」
突然声をかけられて、俺は顔を上げた。
目の前には、隣の席のギャルがいた。
浅倉は俺の名字である。
ちなみに、下の名前は平仮名で『あさの』。
声をかけてきた彼女の名前は……なんだっけ?
興味ないから忘れた。
「別に……」
俺は長めの前髪で目を隠すようにして、視線を逸らす。
彼女と関わるつもりはない。
「別にって事ないじゃん? ちゃんと目を見せて話してよ!」
ギャルは俺の長い前髪をグイッと持ち上げる。
そして、至近距離から俺の顔を覗き込んだ。
「……っ!?」
俺は慌てて、ギャルの手を振り払う。
不覚にもドキドキしてしまった。
「……なに? どうかした?」
「っ……。なんでも、ない」
「ふ~ん?」
ギャルはニヤニヤと笑いながら俺を見ている。
最悪だ。
明らかにからかわれている。
「ミーちゃん! そんな陰キャ、放っておいてよ!」
「そうそう! 何か暗いし、キモいし!!」
「あははっ! 言えてる~!」
ギャルたちは俺の悪口を言いながら笑っている。
いつものことだ。
彼女たちに何を言われても、別に気にならない。
「こっち見てんじゃねーぞ! 陰キャ!!」
ギャルの一人が、空のペットボトルを投げつけてきた。
それは俺の頭に当たって、床に落ちる。
「っ……!?」
俺は驚いて、目を丸くする。
するとギャルたちは笑いだした。
「あはははっ! ごめんねー!」
「もちろんわざとだよ~?」
「ほら、ちゃんと捨てとけよ!」
そう言ってギャルたちはケラケラと笑う。
そして、俺に対する興味をあっさりと失い、おしゃべりを再開した。
「……」
俺は無言で、床に落ちた空のペットボトルを拾った。
そして、近くのゴミ箱に捨てる。
席に戻ると、隣から小さなため息が聞こえてきた。
「……はぁ。根性無しだね」
隣の席のギャル――確か、ミーちゃんとか呼ばれていたか。
彼女は、俺に対して嫌悪の視線を向けていた。
「たまには言い返したら? 反撃しないから、舐められるんだよ」
「別にどうでもいい……」
俺は短く答えた。
反論するのも面倒くさい。
俺は彼女たちと話すつもりもないのだから、放っておいてほしい。
「あっそ。まぁ、好きにすればいいけど」
ミーちゃんはそう言うと、そのままギャルたちの方へ戻っていった。
これで、ようやく静かな時間を過ごせる。
そう思ったのも束の間だった。
「おおっ! 来たぞ……!」
「今日も可憐だ……!」
「ああ……。素晴らしい……」
突然、教室の中が騒がしくなった。
何事かと思い、俺は顔を上げる。
そこには、一人の美少女がいた。
絹のような銀のロングヘア―に、大きな瞳。
整った顔立ちと透き通るような白い肌。
まるで絵画の世界から飛び出してきたかのような美少女だ。
そんな彼女は男子たちの注目を浴びながら、堂々と歩いている。
そのスタイルの良さはモデル並みで、思わず見惚れてしまうほどだ。
「おはようございます! 雪宮さん!」
「席までカバンをお持ちしますよ!」
「今日もお元気そうで何よりです!」
男子たちが一斉に挨拶をする。
彼女は笑顔でそれを適当にいなしつつ、席についた。
「はぁ……雪宮さん、マジ可愛い……」
「俺……このクラスで良かった……」
「『白雪姫』と同じ空気を吸えるなんて……」
男子たちはうっとりとした表情を浮かべている。
しかし、それも仕方がないだろう。
彼女――雪宮白(ゆきみやしろ)は学校中の男子から人気があり、ファンクラブまで存在するほどだ。
通称は『白雪姫』。
俺は興味ないが、客観的に見て彼女が可愛いことぐらいは理解できる。
一方、面白くなさそうな表情をしているのはギャルたちだ。
「うっざ……。キモ……」
「白雪姫だってさ。バカじゃないの? オタクや陰キャが騒いでるだけじゃん……」
「噂じゃ、先輩とヤりまくりの尻軽らしいよ? 清楚ぶってるのマジウケる」
ギャルたちは嫉妬心からか、陰口を叩いている。
そんな中、ミーちゃんとかいうギャルだけは会話に興味がなさそうだった。
彼女はつまらなそうに、スマホをいじっている。
(俺にとってはどうでもいいことだ。雪宮にもミーちゃんにも興味はない。静かに過ごさせてくれ……)
俺は小さくため息をついた。
まぁ、無理だろうけど……。
「おら! お前ら席につけー!」
チャイムと同時に、担任の教師が教室に入ってくる。
そして、ホームルームが始まったのだった。
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