第127話 強い者が王になるのが野生の掟?
褒賞の話が終わり、食事会が再び始まった。
だが俺は先程聞いた領地のことで頭がいっぱいになり、気づいたらベッドに横になっていた。
「俺が王なんて⋯⋯そんなことありえるのか?」
周辺諸国の返答次第だが、このままだと本当に王になってしまう。
正直断りたい所だけど褒賞の話をされた後に、ヨーゼフさんから話しかけられた内容が頭に残っている。
ヨーゼフさんから語られた内容は、エルフは年々数が減っていることと、エルフを拐う奴が未だにいるとのことだった。
このまま人と交わっていかなければ絶滅する恐れがあり、エルフに対して味方をしてくれる国は少数ということ、拐ってもそこまで大きな罪にならないことを聞かされた。
だから我々に理解があるユートが国を立ち上げてくれると嬉しいと言われてしまった。
いきなり褒賞として独立した領地をと言われて驚いたが、そういう意図があったのかと理解する。
だけど理解はしても実際に行動することは難しい。
まだ十五歳の俺に出来るのか? いや、前世の記憶がある俺に年齢は言い訳でしかないな。
「ユートさんは王になることを悩んでいるのですか?」
俺と同じ様にベッドで横になっていたノアが話しかけてきた。
「僕はユートさんが王になることは賛成です」
「それはどうして?」
「強い者が王になるのは当然です!」
野生の掟みたいなことが返ってきた。フェンリルの社会ではそういうものなのか?
「それと⋯⋯ちゃんとした人が頂点に立たないと下にいる人達が可哀想です」
ノアの言葉を聞いて、これまで出会ったろくでもない権力者達が頭に過った。
ギアベル、リスティヒ、グラザム、ジグベルト、ハウアー⋯⋯確かにこいつらがもし国の王になったら大変なことになっていた。
たまたま断罪出来る機会があったからいいものの、もし狡猾に権力を使って追い詰められたら、俺は負けていたかもしれない。
次にまた悪意がある者に出会った時、戦う力だけではなく権力もあるに越したことはない。
でも周辺諸国が国を作ることを認めてくれなければどうしようもない。
王になるかどうかは、その時が来たら考えよう。
俺はこれからの未来に不安を持ちながら目を閉じて、ベッドで寝ることにする。
そして夜が明けた。
褒賞の話が出てから一週間経った。
その間、ゲオルクさんは長老達やエルウッドさんと話をしたり、エルフの国を視察していた。
そして明日、ゲオルクさん達はムーンガーデン王国に帰国する予定だ。
だがその日の夜、俺はエルウッドさんに呼び出されたため、玉座の間に向かった。
玉座の間に入るとそこにはエルウッドさん、ゲオルクさん、最長老、そしてフィーナの姿があった。
ここにいる人達を見て、何となく何で呼ばれたかがわかる。
たぶん各国からの返答が来たんだ。
俺は背筋を伸ばしてエルウッドさんの言葉を待つ。
「遅い時間に呼び出してすまない。周辺諸国から新たな国の建国について返答が来た」
やはりそうか。
イエスかノーか四つの国の内の一つでも認めれば、新たな国が誕生することになる。
アルト王国、イシリス公国、ジルク商業国、そしてバルトフェル帝国はどんな返答をしてきたのだろうか。
果たしてその結果は⋯⋯
「全ての国が新しい国の建国に反対してきた」
予想通りの結果だな。少し残念なようなほっとしたような複雑な気持ちだ。
だけど結果は結果だ。受け入れるしかない。
「わかりました。それでは国は作らず、領地だけを賜るということでしょうか?」
「いや、これから各国に赴き、交渉をする予定だ。そしてその交渉の場に、ユートも一緒に行ってもらえないか?」
俺も?
でもよく考えると当たり前の話しか。
国を作ろうとしている者を見たいと思うのは、誰もが考えることだろう。自国に害を与えるような者なら、絶対に反対したいだろうしな。
「わかりました。その旅に同行させてもらいます」
四つの国を回るのか。いや、最初の国で賛成してもらえれば一国で終る可能性もあるな。
「それでまずはどの国から行けばいいのでしょうか?」
「そうだな。二ヶ国目からはどこから行ってもいいが、まずはバルトフェル帝国から向かってくれ」
帝国から? どういうことだろう。
何か考えがあるということか? もしかして公爵令嬢であるルルの力を借りるつもりなのかもしれないな。
「承知しました」
俺はエルウッドさんの言葉に頷き、玉座の間を後にするのであった。
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