第123話 兆候

 ルルを背負ったまま歩いていると、王妃様の所まで追い付くことが出来た。


「あら? もしかしてルルさんは疲れているの?」

「はい。そのため俺が背負って行くことにしました」

「そうなの? それなら少し休憩しますか?」


 ルルの体調を考えるならその方がいいかもしれないな。そんなに急ぐ旅でもないし。


「いえ! 大丈夫です! 私のせいで到着を遅らせる訳にはいきません」


 だがルルは王妃様の提案を断ってしまう。俺の背中より、地面に座って休んだ方が疲れは取れると思うけどな。

 でもみんなの歩みを止めたくないという気持ちもわかる。


「う~ん。わかったわ。そういうことにしておくわね」

「そ、それ以外に理由なんてないですよ?」

「何故に疑問系?」

「べ、別にいいじゃないですか! ユートさんはうら若き乙女の身体を堪能していればいいんです」

「やめてくれ。俺がそれ目的でルルをおんぶしていると思われるじゃないか」

「えっ? 違うんですか?」


 こ、こいつは⋯⋯

 今の言葉を聞いていたのか、メイドさんの一人が冷たい視線で俺を見ているぞ。

 このまま下に降ろしてやろうか。


「ふふ⋯⋯二人はとても仲がいいのね」

「そんなことないです。いいように使われているだけです」

「ユートさんが背中に乗っていいって言うから、私は乗っただけですよ」

「た、確かにそうだけど」

「いいじゃないですか仲良しで。ユートさんは何が不満なんですか?」

「まあ仲が悪いよりはいいかな?」

「ですです」


 ルルと話すのは嫌いじゃないからいいけど、王妃様がさっきからクスクスと笑っている。

 何だか恥ずかしいぞ。

 早くこの場から逃げ出したいけど、前方にいるフィーナや国王陛下の所に行くと、それはそれで何か言われそうな気が⋯⋯


「わんわん」


 俺が困っていると、王妃様の側にいたノアが突然吠え始める。

 ん? 何だ? まさか敵か?

 でもノアは慌てている様子はない。これは俺に何か伝えたいことがあるということか?

 王妃様の周囲にはメイドさんと兵士がいるから、ここは少し距離をおくか。


 俺は歩いているスピードを遅くする。

 すると周囲に人がいなくなったタイミングで、ノアが話しかけてきた。


「すみません。ちょっとお伝えしたいことがあって」

「謝ることはないよ。俺もある意味助かったし」

「そうですか? それなら良かったです」


 あのまま王妃様と一緒だったら、ルルとの仲をからかわれそうだったからな。


「実はもっと前からお伝えすれぱ良かったのですが⋯⋯」

「どういうこと?」

「ローレリアに戻ってから身体がおかしくて、背中がムズムズするというか」

「えっ? もしかして何かの病気?」

「いえ、嫌な感じはしないのですが⋯⋯すみません、漠然とした話で」


 どういうことだ? 嫌な感じではないということは病気ではないのか?

 神獣はおろか、動物の病気のことも俺はわからない。

 神獣の生体のことは誰に聞けばいいんだ?


「それと実はこの症状は僕だけじゃなくて⋯⋯」

「まさかマシロも?」

「はい。何日か経てば元に戻ると思ったのですが⋯⋯」

「ごめん。俺には何の要因でそうなっているのか全くわからない」

「いえ、僕も変な相談をしてごめんなさい。でも調子が悪い訳じゃないんです。むしろ調子はいいというか⋯⋯」

「そうだ。フェリに聞いてみようか。神獣のことも知っていたし、フェリならわかるかもしれない」


 ちょうど今エルフの里にいるしな。


「フェリ? 誰ですか? 名前からして女性っぽいですが」


 背中のルルから疑問の声が上がる。


「神樹の妖精だよ」

「妖精さんですか? 見てみたいですね」

「もう見られているかもしれないぞ」

「ん? どういうことですか?」

「まあ会えばわかるよ」


 以前猫化したフィーナも、どうやったか知らないけど見られていたからな。

 もしかして今の会話も聞いているかも知れない。


「楽しみにしてますね」


 ある意味からかうことが好きな二人だから相性がいいのかな。

 ルルの嬉しそうな言葉を聞きながら、俺達は城へと向かうのであった。






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