第109話 ハウアーの逆襲後編
フィーナが取り出した物、それはトレイに乗っている物と同じロールパンだった。
俺はノアからこのことを聞いていたので驚きはしなかったが、他の
エルフ達は驚愕の表情を浮かべていた。
「何故内ポケットにパンがあるのか説明しなさい。まさか公爵家の貴族とあろう者が、この汚れたパンを食べるために入れておいたなんて言わないわよね?」
「そ、それは⋯⋯」
説明出来るはずがない。
このパンが内ポケットから出てきた理由は一つだけ。
ハウアーがエルウッドさんの食事を運ぶ際、毒入りのパンとすり替えたのだ。
だが残念ながら、人間の目をすり抜けることは出来たかもしれないけど、フェンリルの鼻をすり抜けることは出来なかったようだな。
ノアとマシロには本当に感謝だ。二人にエルウッドさん達の護衛を頼んで正解だった。
「あなたが毒入りパンを国王陛下に食べさせようとしたことは明白だ」
「く、くそっ! 何故だ! 何故わかった! 誰にも見られてはいなかったはずだ!」
もう何を言っても無駄だと悟ったのか、ハウアーが毒入りパンをエルウッドさんに食べさせようとしたことを認めた。
「後少しで兄上を殺害し、私がこの国の王になるはずが⋯⋯どうしてこうなったのだ!」
嘆くのはけっこうだが一つ忘れてないか?
俺は神剣を手に取り、ハウアーへと向ける。
「な、なんのつもりだ?」
「何のつもり? お前が犯人だったら斬るって、予告したと思うけど」
「ひぃぃぃっ!」
ハウアーは神剣に恐れをなしたのか、情けない悲鳴を上げて後退り、尻餅をついた。
「でも神剣が外道の血で汚れるのも嫌だな」
「そ、その通りだ。五千年ぶりに抜かれた神剣でエルフを斬るなど、やめた方がいい」
「確かに一利あるな。それならこうしよう」
俺はフォークを手に取り、トレイに乗っていた毒入りパンをぶっ刺し、ハウアーの前に持っていく。
「な、何をするつもりだ」
「あれ? わからない? パンって食べ物なの知ってた?」
「もちろん知っているが⋯⋯まさか!」
「じゃあ食べてみようか」
「や、やめろ! やめてくれぇぇ!」
ハウアーはどうしても毒入りパンを食べたくないのか、泣きじゃくりながら首を振る。
そして股関の所をよく見てみると、濡れていた。
どうやら恐怖で失禁してしまったようだ。
こうなってしまったら、公爵の権威などないようなものだ。
だがエルウッドさんを殺害しようとしたんだ。これくらい当然の報いだろう。それに親として息子であるジグベルトの罪も償ってもらわないとな。
俺は毒入りパンが刺さったフォークをさらにハウアーの口元に近づける。
「あわわわわっ!」
このまま毒入りパンを食べさせたい所だが、ハウアーはこの国の法で裁くのが当然だろう。
俺の迫力に押されたのか、ハウアーは口から泡を吹いて白目を向いていた。
本当に毒入りパンを食べさせられると思ったのか? 俺の演技もなかなか捨てたもんじゃないな。
ともかくこれでハウアー親子は終わりだ。
出会ったばかりだけど、この親子は国に害をなす存在だった。処分出来たことに安堵する。
「兵士達よ。ハウアーを地下牢に連れていけ」
「「はっ!」」
ハウアーは項垂れたまま、兵士達に連れられて部屋から出ていく。
そしてエルウッドさんがベッドに乗ったまま、俺の方に視線を向けてきた。
「ユートよ。また命を救われたな」
「すみません。出過ぎた真似をしました」
今考えると王の御前で少しやり過ぎたかもしれない。だけどジグベルトやハウアーのような他人を省みず、自分勝手な行動をする奴を見ると、どうしても許せない気持ちが沸き上がってくる。
ましてやフィーナを傾国の姫と罵った相手だ。怒りを感じない訳がない。
「気にするな。ハウアーの行動はとてもじゃないが許せるものではない。追い込んでいく様は痛快だったぞ」
「そう言って頂けると助かります」
「我が国は長く人間との交流を絶っていた。だがユートやリズリット姫を見ていると、それが正しいのかわからなくなってきたな」
種族の間でいがみあいなどない方がいい。今回のことで人族のことを少しでも見直してくれる嬉しいな。
「
「ニャーニャー」
「おお! そなたらにも助けられた。もちろん忘れてはおらんぞ」
さ、さすがマシロだな。褒賞と聞いてアピールをし始めた。おそらく新鮮な魚を要求するのだろう。だけど二人はそれだけの活躍をしてくれた。当然の権利だろう。
こうしてエルウッドさんを殺害しようとしたハウアーは捕まり、エルフと人族の関係も良い方向に進むように見えた。
だがこの後、ムーンガーデン王国とガーディアンフォレスト王国で争いが起きるとは、今の俺には知るよしもなかった。
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