第85話 神樹の妖精

 俺は神剣を天高く掲げる。

 すると神剣から目も開けられない程の光が発せられた。


「ま、眩しいです」

「何よこれ」


 リズとフィーナの声が聞こえるが、光で目がやられ確認することが出来ない。

 神剣を引き抜くことには成功したけど、一番近くにいたこともあり、目を閉じてガードすることが出来なかった。

 そして三十秒程経つと、神剣から放たれた光も収まり、徐々に目を開けられるようになった。

 神剣が光った時は何事かと思ったが、どうにか皆の期待に応えることが出来たな。


「神剣が抜けたぞ!」


 俺は神剣をフィーナやリズに見せる。だが二人の反応は予想外のものだった。


「えっ? どういうこと?」

「可愛い方ですね。でもいったいどこから⋯⋯」


 二人はとても驚いているように見える。

 それにリズの可愛いってどういうことだ? 神剣はむしろカッコいいだろ。

 何故二人からそのような台詞が出てくるのか理解できなかったが、この後すぐにその理由がわかった。


「ふう⋯⋯五千年ぶりの自由じゃ」


 ん? 今真上から声が聞こえなかったか!

 俺は慌てて上に目を向けると、そこには宙に浮いた少女の姿があった。

 どこから現れたんだ! 全く気配を感じなかったぞ。

 俺は後ろに下がり、少女を警戒する。


 エメラルドグリーンの髪色を持ち、見た目は十歳くらいの少女に見えるが、俺達人族やエルフ族とは決定的に違うものがあった。


「羽⋯⋯だと⋯⋯」


 そう。少女には羽が生えていたのだ。おそらくその影響で宙に浮いていることが考えられる。


「どうじゃ? 可愛らしいじゃろ」


 少女はその場でクルリと回って見せる。

 確かに可愛らしいが、何者かわからないため、油断は出来ない。


「そんなに警戒することはないじゃろ。ユートよ」


 俺の名前を知っているだと⋯⋯もしかしてどこかで隠れて見ていたのか?


「何故俺の名前を?」

「それはエルフの里に来てから、ずっと見ていたからな」


 跡をつけられていたということか。そんな気配は全く感じなかった。

 俺はともかく、マシロとノアの探知からも逃れていたということか。この少女の言っていることが本当なら、とんでもない実力者だ。


「何者か聞いてもいいか?」

「我か? 我は⋯⋯」

「ああっ! 思い出したぞ!」


 少女が何かを喋ろうとした時、突如最長老様が大声を上げた。

 これまで冷静に話をしていた最長老様が、突然大きな声を上げてビックリしたぞ。

 だけどそれより、今何を思い出したのか気になる。


「フェリアリア様じゃ! フェリアリア様に再び会えるとは!」

「フェリアリア?」


 少なくとも俺は聞いたこともない名前だ。

 だが他の人⋯⋯エルフ族の二人はその名前に覚えがあったようだ。


「嘘! フェリアリア様? 神樹の妖精と言われた!?」

「あの伝説上の生物だと!」


 どうやらフィーナとジグベルトはその名前を知っているようだ。

 しかもとんでもないことを口にしているな。神樹の妖精? 伝説上の生物だと。


「その通りじゃ。我は五千年前に会ったお主のことを覚えているぞ」

「それは光栄です。まさかわしごときのことを覚えて下さるとは。このノルム⋯⋯感激でございます」


 最長老様は神剣に挑戦する者を覚えているように言っていたけど、やはり五千年前から生きていたということか。

 それならフェリアリア様が姿を見せた時に言ってくれれば良かったのに。あまりに昔のことだったから忘れていたのか?


「ああ⋯⋯覚えておるぞ。我のスカートを捲った鼻たれのクソガキのことを」

「あっ、いや、そこは覚えてなくても⋯⋯」


 この最長老様はそんなことをしていたのか。転移魔方陣のことを教えてくれなかったし、もしかして元々イタズラ好きなのか?


「最長老様⋯⋯」


 スカート捲りと聞いたフィーナが、最長老様に向かって冷ややかな視線を送る。


「お、男ならスカート捲りの一度や二度は行うものだ。なあユートよ」

「知りません」


 こっちにまで飛び火しないでほしい。ここで同意したら俺までフィーナに冷たい目で見られてしまう。


 ん?


 俺が最長老様の言葉を否定した時、後ろから軽く服を引っ張られた。


「ユート様もその⋯⋯スカート捲りというものに興味があるのですか?」

「え~と⋯⋯」


 興味はある。だがそのことを口にすれば俺は人として何かを失ってしまうだろう。


  「どういうものかわかりませんが、もしよろしければ私で試してもいいですよ」


 リズが純粋な心で問い掛けてくる。

 お願いします。俺は心の中でそう答える。


「リズ、そういうことは人前で言ったらダメだよ」


 だが俺は世間体を気にして、心にもないことを口にしてしまう。


「では最長老様は、よくないことをフェリアリア様にされたということでしょうか」

「その通りよ。女の敵だから」


 俺の代わりにフィーナが答えた。正直こちらとしては、いつ本音が出てしまうかわからないので助かる。


「最長老様は素晴らしい方だと思っていましたが、それは誤りだったのですね」


 最長老様の株が一気に暴落した。俺も日頃の言動には気をつけようと改めて思うのだった。


「お主らなかなか愉快じゃなのう。色々話をしてみたいがその前に⋯⋯まずは不埒な輩を成敗しなければ」


 これまでフェリアリア様は和やかな雰囲気を出していたが、ある人物を指差すと、突如周囲の空気が変貌するのであった。

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