第81話 追い詰められていくユート

 ステラさんからもらった肉と山菜を調理し、食卓に並べる。

 その朝食の席で、俺は天界にいたことをフィーナに話をした。


「天界? 女神様に魔法を教わった? 信じられないわ」


 まあ普通はそう思うよな。 何も知らずにそんなことを聞けば、頭は大丈夫かと心配してしまうレベルだ。


「でもユートが嘘をつくとは思えない。それに一瞬で炎を消した魔法を見たら⋯⋯ね」

「はは⋯⋯信じてくれて何よりだ」

「ユートには本当に助けられてばかりだわ。ありがと」

「どういたしまして」


 何だか素直にお礼を言われると少しこそばゆいな。


「それにしても犯人は許せないわ。危うくエルフの里が燃えてしまう所だったのよ」


 火は食い止めたけど数百メートルに渡って焼け野はらになってしまったからな。木々を元通りにするためにはどれくらいの年月が必要なのか、俺には想像が出来ない。


「やっぱりジグベルトがやったの?」

「怪しいとは思うけど証拠はないからね」


 ジグベルトの目撃者がいるとしたら、それは火をつけられた木々しかないだろう。


「長老達に報告に行くって言ってたけど、あの様子だとあることないことを話してそうだわ。ご飯を食べたら、私達も長老の所へ行きましょ」

「そうだね」


 俺が犯人だと直接的に言わなくても、間接的に陥れてくることはやりそうだ。

 推定有罪にされたらたまったもんじゃないから、ここはフィーナと共に身の潔白を証明しておいた方がいいだろう。

 そして朝食を食べた後、俺達は長老達の元へと向かった。


「どうぞこちらへ。長老達もあなたともう一度お話したいと仰っていました」

「長老達が?」


 案内役のエルフが不意にこちらに話しかけてきた。

 森を守ったお礼とかかな? それとも俺を犯人として疑っているから事情聴取をしたいとか?

 後者だったら嫌だなあ。

 俺は緊張しながら部屋に案内されると、そこには長老達とジグベルトの姿があった。

 やはりいたか。出来ればジグベルトとは顔を合わせたくなかったな。


「長老達よ。何度も言うが、今回の火災はおそらくこの男が原因だ。エルフの里を陥れようとするなんて、人間以外いないだろ?」

「その件に関しては他の者から報告が上がっている。火災が起きた時間はステラが一緒にいたとの証言が上がっているため、その人族が犯行に及ぶのは不可能だ」

「ステラも共犯かもしれない。仲間同士庇っているだけだ」


 ジグベルトは何を言っているんだ?

 俺は今日、ステラさんと初めて会ったんだぞ。


「フォラン病が流行っているのも、森が枯れ始めているのも全てこの男のせいだ。早く捕らえて刑に処した方がいいぞ」


 無茶苦茶だ。フォラン病だってフィーナと会うまで聞いたことなかったし、森が枯れ始めているなんて今初めて知ったぞ。

 ジグベルトはどうしても俺をフィーナから離したいようだな。


「適当なことを言わないで! ユートはそんなことしてないわ」


 フィーナが俺の代わりに長老達に意見してくれる。


  「フォラン病に森のことまで⋯⋯証拠もないのにふざけたことを」

「だがやっていない証拠もないだろう? しかしその人族にはエルフを陥れる動機はある」

「動機? なんなのよそれは」

「その男が人族だということだ。我々エルフは長い間人族に苦渋を嘗めさせられた。容姿が優れているという、ただそれだけのことで奴隷にされたのだ。火災もフォラン病も森についても、全て我らをエルフの里から追い出すための策略だ。そして我らがエルフの里を出た所で捕らえ、奴隷にするつもりなのだろ? 私は騙されんぞ」


 よくもまあここまで嘘を並べることができるものだ。ある意味感心してしまう。

 だがそれはあくまでジグベルトの中にある妄想だ。それを信じる者はいない。


「その判断は我々が下す」

「少なくとも我らの中でユートは無罪だ。むしろ里を守ってくれて感謝している」

「くっ!」


 当たり前だ。長老達が冤罪をかけるような人達じゃなくて良かった。

 だけど悔しそうなジグベルトの顔が見れて爽快な気分だ。


「ユートよ。ジグベルトが無礼を働き、申し訳ない」

「いえ、最長老様。わかってくれれば俺はそれで」

「ユートには何か褒賞を与えないとな。だがその前に、先程長老会にて神剣の元へ行くことが許可された」

「本当ですか」

「出発する時は私に行ってくれ。案内する」


 しかも最長老様が案内してくれるなんて。でも神剣を抜けなかった時は申し訳ないな。ていうか抜ける気がしないし。


「でしたらすぐに参りましょう」

「えっ?」

「ユート様の勇姿を早く見たいです」


 リズがすぐに神剣の元へ行くよう促してくる。

 勇姿って⋯⋯これで神剣が抜けなかったから、カッコ悪いことこの上ないな。何だか行くのが嫌になってきたぞ。


「たかが人間ごときが剣を抜けるものか。だが面白い⋯⋯失敗する様を見に行ってやろう」


 ジグベルトまで一緒に来ると言ってきた。

 これはもう逃げることは出来なさそうだ。


「それでは参るか」


 俺達は最長老の案内の元、エルフの里の中心部にある神樹へと向かうのであった。

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