第67話 信頼を得るには時間がかかる

 エルフの女の子は弓を構え、こちらを威嚇してきた。


「私に何をするつもりなの?」

「俺達は君に何かするつもりはない」


 完全に警戒されてるな。まあこれまでの歴史で人間がエルフにひどいことをしているから、仕方ないといえば仕方ないのか。


「そんな言葉で騙されないわ。いくら魔素で体調が悪くてもあなた達には⋯⋯えっ? 呼吸が苦しくない!」


 エルフの女の子は険しい顔をしていたが、突然驚きの表情に変わる。どうやら自分の身体の変化に気づいたようだ。


「魔素による状態異常は治しておいた。それとしばらくは魔法で魔素を受けつけないようにしたから。身体が少し光っているけど我慢してほしい」

「私の周囲の魔素が消えている⋯⋯あなたいったい何者?」

「俺は⋯⋯」


 ん? 今の俺って何なんだ? ムーンガーデン王国に雇われている訳でもないし、勇者パーティーでもない。ただ城に住まわせてもらっている居候だ。そうなると今の俺に合っている言葉は⋯⋯


「ただの無職だ」

「親の脛をかじっているということ? 最低だわ」


 あれ? 何か言葉を間違えた?

 エルフの女の子は俺から距離を取り始めた。

 そして俺の言葉が間違っていると言わんばかりに、マシロが大きなため息をつく。

 悪かったな。コミュニケーションが苦手で。


「ユート様は漆黒の牙シュヴァルツファングに襲われていたあなたを助けて下さったのよ」

「そういえばあの黒狼がいないわ」

「南の方に逃げていったよ」

「まさかあなたが追い払ったの?」


 エルフの女の子は何だか罰が悪そうな顔をしている。最低と言った相手が実は命の恩人だとわかったんだ。無理もない。


「せっかくだから君の話を聞いてみたいけど、今は時間がない」

「どういうこと?」

「MPが空になっていてね。もし今漆黒の牙シュヴァルツファングに襲われたら勝てる自信がない。どこか安全な所に避難しないと」


 とにかく未開の地から出た方がいい。本当はローレリアに行きたい所だけど、西側に行くと未開の地のど真ん中を通らなくちゃならない。そのため逃げるなら南か東になるけど⋯⋯


「それなら私が安全な場所に案内してあげる」

「いいのか? 自分で言うのもなんだけど俺達はエルフの嫌いな人間だけど」

「確かにエルフは人間が嫌いよ。でも命の恩人に対して薄情なことをする種族じゃないわ」

「それならお願いしてもいいかな?」

「わかったわ。それと⋯⋯私の名前はフィーナ」

「俺はユート」

「私はリズリットです」

「後こっちがマシロで、こっちがノア」

「ニャ~」

「ワン」


 俺達は自己紹介を終えると、フィーナの後に続いて急ぎ東側へと歩き出す。

 そしてしばらく進んだ後、リズがフィーナに話かけた。


「フィーナさん。本当にこちらでよろしいのでしょうか?」


 ん? どういうことだ? 今の言い方からすると、リズはこの辺りに来たことがあるのか?


「何か気になることでもありますか?」

「私もこの辺りの地理に詳しい訳ではありませんが、おそらくこれ以上東に行くと、ムーンガーデン王国を出てしまうのでは?」

「これ以上東ってエルフの国、ガーディアンフォレストに入るってこと?」

「はい。理由もなく入れば、益々エルフの方々の心証が悪くなってしまいます」


 なるほど。前回帝国の内政干渉について手紙を送ったが、その時のように何かムーンガーデン王国の使者としてガーディアンフォレストに入るのは認められているが、ただ魔物から逃れるためという理由では、もしかしたら拒絶されるかもしれないということか。


「そうね。このまま入れば捕まると思うわ。でも安全な場所はそこしかないの」


 命には変えられないけど捕まるのか。俺はともかく王女であるリズが捕まるのはまずいのでは? 国同士の問題に発展してしまう。


「でも大丈夫よ。あなた達は捕まらないわ」

「それは何か根拠があるってことかな」

「ええ」

「良ければその理由を教えてほしい」


 そうじゃなければガーディアンフォレストに行くことは出来ない。


「それは⋯⋯」


 この後フィーナが口にした言葉は、とても信じられないものであった。




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