第59話 ムーンガーデン王国は小国?
街を視察した翌日。
俺は何故か国王陛下の自室に呼び出されていた。
部屋には国王陛下と王妃様、それとレッケさんがいる。そしてリズがいないことから、何となく呼び出された理由がわかった。おそらく昨日リズが口にした大切な人についてだろう。
予想していて通り、噂は瞬く間に広がってしまい、俺はリズの婚約者ということになっていた。
嫌だなあ。早く部屋に戻りたいなあ。
でも相手はこの国の王だ。それに城の一室を借りている手前、強くは言えない。
「ユートよ。今日は何故呼び出されたかわかるか?」
「いえ、何のことか私にはわかりません」
余計なことを言って墓穴を掘るのも嫌なので、まずは知らない振りをしておく。
「昨日リズと街に行ったそうだな」
やっぱり昨日のことか。これからこの親バカの国王陛下に怒られるのか。けど幸いなことに王妃様がいるので、万が一の時は助けてもらうことにしよう。
「街の者達がお前とリズが婚約者だと言っているのだが、どういうことかな?」
国王陛下が俺の肩に手を置く。そしてリンゴを握り潰してしまいそうな握力で、力を入れてきた。
痛い痛い! やっぱりこうなったよ。こうなったら王妃様に助けを⋯⋯って。何故か王妃様は満足気な顔をしていた。
「私の計算通りだわ」
「「えっ?」」
俺と国王陛下は王妃様の言葉を聞いて、まぬけな声を出してしまう。
「お、王妃よ⋯⋯それはどういうことだ?」
「街に行くリズの護衛をユートくんに頼んだのは私よ」
確かに俺は王妃様に言われてリズの護衛をした。でも何でそれが婚約者問題に発展するんだ?
「リズのことだからユートくんのことを街の人に聞かれたら、きっと嬉しそうに紹介すると思っていたわ」
確かにリズは笑顔で、嬉しそうに紹介していたな。
「その様子を見れば、街の人達は二人の関係が普通じゃないって噂するとは思っていたけど⋯⋯まさか一日で効果が出るなんて。そこは計算外だったわ」
えっ? 何? 俺は王妃様に嵌められたってこと? 確かに王妃様はリズを嫁にして国王になるよう言ってたけど。まさか外堀から埋めてくるとは思わなかった。
「ユートよ。勘違いして済まなかったな」
「あ、いえ」
「そして王妃がすまん」
「はい⋯⋯」
国王陛下は俺の肩から手を離し、頭を下げる。
とりあえず王妃様の困った行動は何とかしてほしいけど、国王陛下に怒られなくて良かった。
「それじゃあお話は終わったということで、私は失礼しますね」
俺は踵を返し、部屋から出ていこうとするが、再び肩を捕まれる。
「ちょっと待て。せっかくだから少し話をしないか」
肩を掴む手に力が入る。
これ絶対にお願いじゃなくて脅迫だよね。
「わ、わかりました」
これは逃げることが出来ないと思い、仕方なく国王陛下の話に付き合うことした。
「それでは紅茶の準備をしますね」
俺達は国王陛下の部屋からテラスに移動し、外の景色を見ながら紅茶を飲むことになった。
テーブルの椅子に座っているのは俺と国王陛下、そして王妃様とレッケさんだ。
この面子で何を話せばいいんだ? 俺だけ歳が離れているし、何だか気まずいんだが。
俺は何を話せばいいのかわからないので、カップの中の紅茶を何度も飲み干す。
すると国王陛下が俺に話しかけてきた。
「ユートの褒賞についてだが⋯⋯遅くなって本当に申し訳ない」
「以前もお話しましたが、そんなに急がなくて大丈夫ですよ。私はそんなに権力とか物欲はないので」
「そうもいかん。これはユートだけの問題ではないのだ。もし褒賞を出し渋れば、ムーンガーデン王国は正当な評価をしない国だと思われてしまう」
確かに国王陛下の言うとおり、褒賞をくれない国だと思われるのは不本意だろう。そんな噂が流れてしまえば、ムーンガーデン王国に仕えようとする人は減ってしまう可能性がある。
「本来なら爵位と土地を授けるのが理想的なのだが」
「リズを嫁にでもいいんじゃない?」
「どうしたものか」
国王陛下は王妃様の言葉を無視している。なんとしてもリズの嫁入りは反対したいのだろう。
爵位と土地か。爵位はまだしも土地は有限だからな。小国と言われているムーンガーデンにとっては痛い話だろう。
俺はこの時、ふと国王陛下の向こう側の壁に貼ってある地図が目に入った。
帝国はとても広い領地を持っている。その隣にあるムーンガーデン王国は⋯⋯ん? 確かに帝国よりは小さい。だが帝国の三分の一程の領地はある。
他の国と比べてもそこまで小国といった感じてはない。いったいどういうことだ?
「あのう⋯⋯ムーンガーデン王国は小国って言われていますよね」
少し失礼な質問だけど、聞かないことには真実がわからない。俺は意を決して口にした。
「確かにそのように呼ばれているな」
「ですがそこにある世界地図を見ると、ムーンガーデン王国は小国には見えませんが⋯⋯」
そしてこの後、国王陛下から予想外の言葉を聞かされるのであった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます