第54話 ユートVSギアベル(1)
俺はハメードを追いかけるが、背後からギアベルが追いかけて来る。
少なくともギアベルは大使の方々に手を出すつもりはないようだな。
それならこのままハメードを追いかけて、広い場所に出たらギアベルと決着をつけるとしよう。
「待ちやがれ!」
「そのセリフはハメードに言ってくれ」
「誰が止まるものか! 私はこのまま逃げおおせてみせる!」
ハメードは関所を出て帝国側へと走り出す。サルトリアの街に逃げ込まれたら厄介だ。
しかしそうはさせない。
「ノア!」
関所の城壁で待機しているノアに向かって声をかける。
「任せて下さい!
ノアが魔法を唱えると地面が凍りつき、ハメードの動きを封じる。
「なんだこれは! 動けん!」
ハメードの下半身は凍りついているため、逃げることが出来ない。
ふう⋯⋯万が一を考えてノア達を配置していて良かった。
逃げるなら帝国側に行く可能性が高いと考えていたからな。
ちなみに城壁にはノアだけではなく、マシロとリズもいる。ノアが逃がした場合はマシロの攻撃魔法で止める予定だったので、ハメードはある意味痛い思いをせずに良かったと言えるだろう。
「ユート様」
城壁の上からリズが手を振ってきたため、俺も手を振り返す。
作戦が成功して良かったけど、まだ終わりではない。むしろ俺に取ってはこれからが本番だ。
「ユート! 観念しろ!」
背後から殺気を纏ったギアベルが迫ってきた。
「俺はギアベルと戦うつもりはない。ハメードは連れていかせてもらうぞ」
「ユートが現れた今、俺に取ってはハメードなどどうでもいい」
どうでもいいのか? そうなるとギアベルは今回の話とは無関係ということになるのか?
「俺はただムーンガーデン王国が手に入るから立ち会ってほしいと言われただけだ」
「王国が手に入るって、普通おかしいと思わないのか?」
「俺は何か実績が欲しかっただけだ。だが今は実績よりお前を倒すことの方が俺に取って最優先事項だ」
「俺には戦う理由はない」
「お前にはなくても俺にはあるんだよ!」
正直ギアベルの我が儘に付き合ってられない。お前の最優先事項は俺かも知れないけど俺の最優先事項はハメードを捕らえることだ。
だけどギアベルをこのままにしとく訳にもいかない。
「ハメードとの関係について、ムーンガーデン王国で起きたクーデターに、どこまで関与してるか教えてもらうぞ」
「お前ごときに話すことなどない。もし俺の話が聞きたいというなら力ずくで言わせてみろ」
やはりこうなってしまったか。ギアベルが素直に話すとは思えなかった。
こうなったらお前の望み通り、力ずくで口を割らせてやるよ。
「ユート!」
ギアベルと戦う決意をした時、レッケさんが関所から現れた。
「レッケさんハメードをお願いします」
「おう⋯⋯って! 凍ってる!」
「大使の方々は大丈夫ですか?」
「今は部屋に待機してもらってる。兵士達が守っているから大丈夫だ」
それなら後はギアベルを倒すだけだ。
「リズ、決闘の立会人になってくれないか?」
「わ、私がですか? わかりました。今そちらに行きますので、よろしくお願いします」
よろしくお願いします? どういうことだ? だけどその答えはすぐにわかった。
なんとリズは突然城壁から飛び降りてしまったのだ。
このまま地面に着地したらリズは怪我をしてしまう。
俺は落ちてきたリズをお姫様抱っこで受け止める。
「ありがとうございます」
「無茶をする。次からは事前に教えてくれると助かる」
「承知しました」
本当に頼むぞ。だけど絶対に受け止めてくれると、信じきった表情をしていたことは嬉しかった。そのため、強くは言えない。
「女といちゃついているとは余裕じゃないか? もし俺が勝ったらその女をもらってやろうか?」
「お前には死んでもリズは渡さない」
「そのセリフは俺を倒してから言うんだな」
こうしてギアベルと再会したユートは、バルトフェル帝国とムーンガーデン王国の国境にて、決闘を行うのであった。
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