第53話 悪事が暴かれる時

「権力を持つとここまで傲慢になることが出来ると、逆に感心したよ」

「残念ながらハメード伯爵の悪事は全て目撃させてもらった」

「なんやおもろいことがあるいうから急いで来たけど、その通りやったな」


 現れた三人は身なりの良い服装をしていたことから、一般人でないことが窺える。

 そして余裕の表情浮かべていたハメードだが 、三人の顔を見て顔が青ざめていた。


「何故あなた方がここに⋯⋯」

「この青年に連絡を受けてな。バルトフェル帝国がムーンガーデン王国に内政干渉をしているから見学しに来ないかと」

「正直眉唾物だったが、真実だったようだ。このことは我が主に報告させてもらう」

「それと帝国には抗議文を出させてもらうで」


 この中年の男性はアルト王国のブロックさん、白髪の男性はイシリス公国のコーエンさん、そして関西弁を話している女性がジルク商業国のハンナさんだ。

 みんなそれぞれ出身国は違うが、一つだけ共通していることがある。

 それは全員職業が同じなのだ。


「ま、まさか周辺諸国の大使がいるとは⋯⋯」


 そう⋯⋯俺は会談の日を聞いた後、国王陛下の名前で周辺諸国に手紙を出していたのだ。

 もしムーンガーデン王国の者が捕らえても、絶対に罪を認めないと思ったからだ。

 すると帝国の悪事を暴くためならと、三ヶ国がこの関所に来てくれた。本当はムーンガーデン王国の東にある、ガーディアンフォレストにも手紙を出したのだが、断られてしまった。リズに聞いた所、どうやらガーディアンフォレストはエルフの国で閉鎖的なため、滅多に自国から出てこないとのことなので、仕方ないと言われた。

 残念ではあるが、少なくとも三ヶ国の大使が現場を押さえたんだ。これで罪を認めるしかないだろう。


「全てユートの言った通りになったな」

「悪党程罪を認めないので。確実に言い逃れが出来ない状況を作っただけですよ」

「まさかこの小僧が私を嵌めたのか!」

「そんなことはどうでもいいです。クーデターに協力したことと、ムーンガーデン王国を金で買おうとしたことを認めますか?」


 周囲に静寂が訪れ、全員の目がハメードに注がれる。


「わ、私は⋯⋯クーデターに協力したことも⋯⋯ムーンガーデン王国を買おうと画策したことも認める」


 さすがにこれだけの面子の前で嘘をつくことは出来なかったのだろう。

 これでクーデターを起こした元凶達は捕まえる事ができた。

 後はギアベルだけど、ムーンガーデン王国でクーデターが起きた時は、普通に勇者パーティーとして冒険してたよな? あの時は四六時中ギアベルと一緒にいてこき使われていたからわかる。怪しい奴とは会っている素振りはなかった。

 この計画にはギアベルは関係ないのか?

 だけどわざわざこんな所にいるのもおかしい。

 俺は疑問に思ってハメードに問いかける。

 だがこの時、突然ノックもされず部屋のドアが開いた。


「ハメードまだ終わらないのか? いい加減俺は⋯⋯貴様はユート!」

「ギアベル!」


 ギアベルは俺のことを認識すると突如腰に差した剣を抜き、上段から振り下ろして来た。


「死ねぇぇぇっ!」


 鋭い攻撃が俺の頭を襲う。

 だけど反射的にギアベルの姿が見えた時、攻撃してくるだろうなと思っていたので、俺はバックステップで剣をかわした。

 ノックもせずに部屋に乱入してくる無礼な所は変わらないな。そして俺と目が合うと躊躇いもなく剣を抜くって、どんだけ恨まれているんだ。


「しめた!」


 ハメードがギアベルの乱入に合わせて、部屋から脱出する。


「ギアベル様! こやつらを倒してください!」

「言うまでもなく、ユートは俺が殺す!」


 ハメードが部屋から遠ざかっていく。

 まずいな。このままだと逃げられてしまう。

 まあハメードとしてはここで捕まったら死罪は確定だから、どんな手段を使ってでもこの場から逃げ出したいだろう。


「なんやなんや突然!」

「あれは帝国の皇子、ギアベル様じゃないか」

「まさかこの計画に関わっているのか!」


 大使の方々は突然の襲撃に驚きを隠せない。

 ここで何かあったら外交問題になってしまう。しかしこのままハメードを逃がす訳にはいかない。


「レッケさん! 大使の方々の護衛を!」

「お、おう! わかった。だがユートはどうするんだ?」

「俺はハメードを追います」

「待てユート! ここで会ったが百年目。逃がすものか!」


 俺は急ぎ廊下に出てハメードの後を追う。そしてギアベルも殺気を振り撒きながら、俺の後を追ってくるのであった。

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